失敗賢者は楽園を手に入れる~転生に失敗した彼が大冒険者と呼ばれるに至るまで~

はんぺん千代丸

第0話 大賢者は転生する

 この世界には、大賢者と呼ばれる世界最高の冒険者がいる。

 私のことだ。


 私の名はレンティタリス・ワーヴェル。

 世界を幾度も救い、人類最高の冒険者に上り詰めた、偉大なる男だ。


 この世界で、私の名を知らない者はいない。

 何故なら、それだけのことを私がしてきたからだ。


 私は数多の苦難を潜り抜け、数多の死線を超えてきた。

 邪神の復活を目論んだ邪教を滅ぼし、復活しかけた邪神を葬ったこともある。

 世界を席巻した魔族の軍勢と、それを率いる大魔王を討ったこともある。


 私の名は、間違いなく歴史に刻まれるだろう。

 最大最高の冒険者にして、唯一無二の大賢者ワーヴェルとして。


 ――しかし、それが何だというのだろうか。


 ここのところ、私が感じているのは虚しさばかりだ。

 私は、もう疲れた。

 人に頼られることに疲れ、やりたくもない仕事をこなすことにも疲れた。


 人間自体に関わるのにも疲れた。

 どいつもこいつも、私に頼ることしか知らない愚物共だ。


 だから、私は転生することにした。

 一度死に、姿を消して、来世で自由な人生を生きるのだ。


 すでに下準備は終えている。

 転生先は、十数代先の私の子孫。どの家に転生するかまで決めてある。

 限界まで寿命を延ばし、我が一族の隆盛を見届けた。


 私がなした発見や発明による利益があれば、千年経っても没落はするまい。

 だが同時に、尽きぬ金の泉に浸りきった一族は必ずや腐敗するだろう。

 大賢者の栄光という柱に巣食う寄生虫になるのは、火を見るよりも明らかだ。


 だが私はあえてその芽を摘まずに残す。全ては転生のために。

 そのためにわざわざ多数の名家より、多くの妻を娶り、子供を作ったのだ。


 私の転生は、今したためている遺言書に予言として残しておく。

 これで我が子孫は転生した私を庇護するはずだ。自分達の利益のために。


 転生後、十歳になると同時に今の記憶と力が戻るようにしておく。

 我が一族はそれを待ちわびるのだろう。だが――、


「フッフッフ、クッククククク……、ハハハハハハハハハハハハハハハ!」


 そのときのことを想像し、私はついつい、笑いだしてしまった。


「私は、おまえ達の養分になどならない。何故なら、私は逃げるからだ!」


 そう、私は逃げる。誰も手が届かない場所へ。


「準備は全て終わっている! 我が計画に狂いは生じない!」


 誰も知らない場所で、私は今度こそ自分のやりたいことをやって生きるのだ。


「ざまぁ見ろ、子孫共! 私の人生は、私自身のものだ! ハハハハハハハハハ!」


 さぁ、始めよう。

 そのために組み上げた、我が生涯における最高傑作たる、この転生魔法で。


「――私はこれから、転生する!」



  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 俺はレント・ワーヴェル。

 名門ワーヴェル家の初代当主である大賢者の生まれ変わりだ。

 ただし、


「レント、何もできない無能なおまえは、今日限りでウチから追放だ」

「えええええええええええええええええええええええ!!?」


 その転生、失敗しちゃってるんだけどな!

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