戦局のノイズ〜黒の糸〜

赤はな

第0話:悪魔の取引

 変わらぬ光景と、苦行が永遠を思わせるほど続く地獄。そこに垂らされた今にも切れてしまいそうな、透明な糸。

 それをよじ登り続け、何時間経ったのだろう。

 人間と違い、身体の大半が魔力で構成されている悪魔にも、身体に対する疲労感と言うものはあるらしく、今にも手を離してしまいそうだ。


 まぁ、こんな状況そうそう無いが。


 変わらぬ地獄の真っ赤に濡れた空にも見飽きた。もう諦めて、自分の領域で、“魔法”の研究をしたいと思うようになる。

 しかし、自分が“極楽”に行く目的を思い出し、その考えを踏み止まらせる。


〜回想〜


「失礼しますよー」


 僕は、呼び出しした悪魔に一言言い、ドアを開けて部屋に入る。

 部屋に入ると、異常な肌の白さと青黒い髪を持つ悪魔.....ジンガンチが、尊大な態度で茶を啜っていた。


「よく来てくれたね。ノイズ君。好きな席へ座って良いぞ」


 部屋を見渡すと、純白の羽が存分に装飾されている椅子と、金色こんじきの毛布?の様なモノが掛けられた椅子が近くに有った。


「遠慮しとくよ。この部屋にある椅子は悪趣味だからな」


 僕がそう言うと、相手は「そうか」と言い、一冊の本?を差し出してきた。読めという事なのだろうか。


 パラパラのページをめくると、今までの僕達悪魔と神との戦いに関する情報が載っていた。


 本の内容から考えても、要件がイマイチわからない為、ジンガンチに要件を尋ねる。


「あぁ、そういえばそうだな。今日来てもらったのは、他でも無い。私の娘が食えない鳥類共に、天界に連れ攫われてしまったのだ」


 相変わらず天使(一般的には白翼を持つ人型の神の使い)に対する憎悪がヤバいな。


「あ〜、なるほど。だから僕にアンタの娘さんを連れ戻しに行け、と言う事で?」


 ジンガンチは頷き、再び紅茶を啜る。

 娘の事が心配で堪らないのだろう。大変そうだ。


「なるほど。それなら僕に対する貢ぎ物が何か、それ次第では、アンタの要件を承るよ」


 しかし、僕がこの依頼をやる利点が無いのなら、やらない.....というよりは、やるわけにはいかない。

 悪魔の世界は完全実力主義だ。輪廻魔意りんね まい(悪魔が悪魔として存在が確立)した瞬間から、悪魔の世界.....魔界で他の悪魔や、恐ろしめの生物と戦い続ける。

 その為、権力=力関係となっている為、下手に無償で他者の願いを叶えると、舐められてしまう。そうなると、権力を得る為に自分に戦いを挑む悪魔が増え、結果的に魔力を消耗して、悪魔としてまた輪廻魔意をする事になる。

 そういう、諸々の事情がある為、無償で頼み事を叶えるのは愚行でしか無い。


「それでは.....私の今の称号、魔帝をノイズ君に譲ろう。これでどうだ?」


「イヤイヤ.....どうせ自分に渡した瞬間、勝負挑んですぐ取り返そうとするだろ」


「.....ではこうしよう。ノイズ君が、望んでいる、“あの件”に対して、私が協力する事を約束する、これでどうだい?」


「......それなら良いか.....」


「おや?こんな事で良いのかい?」


「価値観は経験によって違うからな。あと、アンタは僕を舐め過ぎだ」


「それは済まないね。とにかく、君がやるべき事は、私の娘を取り戻す事。そして、それらを計画した神々を抹消する事だ」


「.....なんか要件が増えてるが....まぁ、気分次第でやっておく」


「流石だな。悪魔に二言は無いからな。忘れずにいてくれよ?」


「忘れたら死ぬから忘れねぇよ」


「そうか。ふっ、相変わらず、一人称とこれっぽっちも合わない声と話し方だなぁ」


 その後、僕は、差し出された本を持ち、自分の領域に戻っていった。


 一人称.....か。変える必要も無いし、変える事も出来ない。

 僕の中にある“魔我留技魂マガルギコンのせいで。



〜回想終了〜


 これで何回めだろうな......まぁ、流石にそろそろ極楽からの光が差し込んでくる高さの筈だ、と思い、またさっきの出来事を思い出す。




To be contienued

 

〈悪魔の常識〉


 天界

 極楽

 人間界

 地獄

 魔界

 の順番で存在しており、現在ノイズが登っている糸は、地獄と極楽を直接繋いでいる。

 ただし、距離はそれ相応なので、途方もない時間がかかるうえ、地獄では魔法の使用が禁止されている為、素直に時間をかけて登るしか無い。


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