殺人機【ザ・マーダー】〜首輪付きの殺人鬼は神をも殺す〜
ヨロイモグラゴキブリ
ここはどこ
プロローグ
「・・・ん」
男の意識が覚醒する。時間をかけて
「ここ、どこだ」
と呟いた。急いで辺りを見回す。
するとそこは黒いカーペットと白い内壁に覆われた現代的な一室だった。しかし奇妙なことにドアや窓が一つもない。
内部には一つのテーブルと対面する二つのイスだけが置いてある。そんな小綺麗な部屋はまるで面接室かのよう。
彼はここまでの記憶を一切回顧することができない、、、一体何があったんだと唐突に不安が膨れ上がる。その時
「やぁ」
「!」
声がした。男の声だろうか、体に響き渡らずとも低めの音だった。
部屋のどことも知れない所から聞こえたそれに驚き一瞬体が固まる。心臓の鼓動は
「あぁすまない、いきなりだったな。今行こう」
そう低い声が言うと次の瞬間には目を疑うような光景が広がった。正面の何もない壁から手が伸びてきたのだ。不可思議な現象に口が開いたまま閉じない。
さらに手だけではなく足、胴体、頭が段々と出現する。そして遂には
「どうぞ座ってくれ」
と男は椅子に座り、対面の一つを手で指した。
オールバックの髪にニヤリと笑う顔。
余裕を感じさせる立ち振る舞い。
けれど彼の方と言えばただただ立ち尽くしている。
その様子を見たスーツの男ははぁと一つため息をつきテーブルに肘をつく。口をへの字に曲げた嫌そうな表情だ。
「なぁ聞こえてるのか?おーい」
呼びかけてみるが反応がない。そこで男は彼に向かって手を伸ばしパチッと指を鳴らした。すると直後、刃物で切られたような鋭い痛みが手に走る。
「いっつ!」
「あぁ、おはよう。紅茶は好きか?」トントン
男はテーブルを指で叩く。そこにはいつのまにか2カップの紅茶が用意されてあった。彼はやはり困惑しながら指示通りに席に着く。
それと同時にスーツの男はカップをぐいっと持ち上げ一気に飲干す。見た所湯気が出ていて冷めていない。
「ふぅ」カタッ
男は空になったカップを机の上に丁寧に置いた。
「あ、あの」
「この茶はうまい。いや、高級品は上手く感じる物か...それが泥水だろうと安物だろうと金によって味は変化する...味なんて物そもそも無いのかもな?
お前もそう思うだろう?」
「...え、いや」
「俺は誰なのか?ここは何処どこなのか?ははっ、当たり前の質問だな、答えようか。俺は役人、そしてここは有り体に言えば——あの世だよ」
「なに——」
「役人は役人だ。それ以上の者でも以下のものでもない。それよりもお前に重要なことは、あの世に来たってことだ」
「…」
「え?いやいや、あるだろ死んだ記憶がさ、、、ん?ないって?死に様を覚えていないだと?そりゃ傑作だ!まぁお前は哀れな奴だ、本来こういうことは制限されてるが特別に教えてやるよ」
この男、さっきからなにか変だ。彼の疑問を彼が言葉にするまでもなく答えている。まるで心の内側を覗かれているようで気味が悪い。というか全くこっちが喋る時間を与えてくれない。
高圧的というか、無遠慮というべきか。
苦手な人間だ。さらに既に死んでいるとかここはあの世だとか、かなり胡散臭い。しかし
「お前は自殺した」
その言葉が発された刹那、彼の脳内には死の記憶が駆け巡った。
突然体が脳の命令を聞かなくなって、自らの目にナイフを刺し死んだ記憶。鮮明に思い出されたそれに吐き気を催す。やりたくもないのに目を抉るあの気持ち悪い音、痛み、理不尽感。
その全てが最悪という言葉では形容しきれないほど酷い。こんな事になるならば忘れていたかったと思うほどのトラウマだ。しかし、それを理解したことにより本能的に此処はあの世であることを実感する。
「はぁ・・・はがぁ・・・」
「はははっ思い出したようだな?さぞ理不尽なことだったろう?さぞ痛かっただろう?
それな——俺がやったんだ」
そうニコっと笑いながら言った男は言った。彼は男を
ブンッ
机に前のめりになり、ニヤついた顔に向かって全力で拳を突き出した。確実に殺すつもりで中指を少し浮かせ、丁度眉間に来るように放つ。
これらの動作は元々何かを習っていたとかではなく咄嗟にかつ自動的に実行したもので彼自身驚く。
—バン!
ガタッ!
と机が動き紅茶が
「合格だ!さぁ行ってこい
その時ふつと彼の意識は飛んだ。
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