交差&平行

@Rohki28

第1話  なぜ、あなたは信じなかったのですか

腕時計を見ると、11時47分だった。

僕は恋人と東京に来ていた。真夏のデートだ。

彼女はユメという名前である。大学の同級生で、今は職場の同僚だ。

地下鉄浅草駅を出て少し歩くと、鰻屋が道の向かい側に見えてきた。

季節は8月、夏の真っ盛りだ。

雲一つない青空が広がる真夏の浅草の街はとても暑い。

普段カチッとした服装のユメでも、今日はミニスカートである。

鰻を食べた後は、浅草寺とスカイツリーをまわり、夜はユメの家に泊まる予定だ。

ユメの家に泊まるのは初めてである。

僕はまだ彼女と肉体関係を持ったことがない。

僕は彼女のミニスカートから伸びる長い脚を見た。

事前にゴムは買っておいてある。今夜は楽しみだ。

腕時計をもう一度見ると、11時53分だ。

あと7分。大丈夫。動揺するな、僕。あんなものに騙されてたまるか_____




その時だった。突然雨が降ってきた。

今日は晴天なのに急になぜ_______

雨はすぐに止んだ。止んですぐにユメが倒れた。


「どうしたの?しっかりしてよ、ユメ!」


「体調悪いの?返事してよ、ユメ!ユメ!」


何度呼んでも返事がない。彼女の手首の脈を測る。

全身の神経を指先に集中させるが、全く振動を感じることができない。

僕はすぐに救急車を呼んだ。そして周りの人々に助けを求めた。

彼女の顔がだんだん蒼白くなっていく。

僕は心臓マッサージを試みるが、彼女の表情に一切変化はない。

しばらくすると、救急車のサイレンの音が聞こえてきた。

僕はマッサージを続ける。周囲がザワザワしてきた。

疲れてきたのだろうか、腕に力が入らない。

そうこうしているうちに視界がぼやけてきた。頭がボーっとしてきた。

周囲のざわめきも、救急車のサイレンも、なぜかだんだん遠ざかっていく気がした。

自分自身が危篤状態であるとわかったときにはもう遅かった。

腕時計は、午前12時0分0秒を指していた________





◆  ◆  ◆  ◆



目覚めると僕は山の中にいた。

近くに虹色の光を放つ扉があった。

僕はその扉を開けようとするが、開けられそうにない。

それにしてもなぜ自分は今山の中にいるのだろうか。

自分はこれまで何をしていたのだろうか。

何もわからない。全く記憶がない。


とにかく僕は生きなければならない。

それだけは、はっきりとわかった。

僕は山頂を目指し山を登ることにした。

「山で遭難したときはなるべく登れ」とどこかで聞いたことがある。


歩き始めた瞬間、ズボンのポケットに何かの振動を感じた。

それを取り出すと、巨大化して大きな剣になった。

試しに近くにある木を切ってみた。

そこそこの大きさだったが、特に苦労することなく切れる。

切れ味が良い訳では無いが、なかなかの威力だ。

今後山で長い間生活する必要があるかもしれない。

そういう時に剣を持っているというのは安心だ。



しばらく歩いていくと、水の流れる音が聞こえた。

音の方向に歩くと、そこそこ大きな川があった。

川の近くには、家らしき建物もある。

喉が乾いていた僕は、身体が勝手に動いて水を飲んでいた。


「私の領域で何をしている!」


近くから声が聞こえた。

僕はあわてて周りを見渡すと、家らしき建物の近くに青い髪をした女が立っている。

女は弓のようなものを取り出して、こちらに向かって矢を放った。

僕は剣ですかさず矢を振り払った。矢は地面に落ちると火がついた。

幸い川の近くで火はすぐに消えた。

僕はこの女から走って逃げた。山登りで疲れたのか、あまり速く走れない。

そして自分の意識が朦朧としていくのに気が付いた。

気付いた時には自分は横になっていた。



<???の手帳>

家の近くに見知らぬ男を発見。火魔法で追い払おうすると、男は逃げる途中に気絶。

かなり疲れているようだ。少しかわいそうなので家まで運び、休ませた。男は剣を持っていたが、それを使いこなすだけの体力や魔力はまだないようだ。とにかく、人助けには対価が必要だ。何を対価とするかは、この後じっくり考えることにしよう。



◆  ◆  ◆  ◆


目が覚めた。とても気分が悪い。猛烈な吐き気がする。耳鳴りもひどい。

俺は再び目を閉じた。遠くから、あの女の声が聞こえた気がした。




なぜ、あなたは信じなかったのですか。













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