俺主人公じゃないから!
@Sakuranokimi
第1話
俺はどこにでもいる、平凡な男子高校生二野舞春日。
そんな俺には、人に言いづらい趣味があったりする。
「さーてと、さっさと着替えて今日も読み漁りますか」
漫画……正確に言うと、BL漫画を読むことだ。それもネットで。最近ハマった新参者な俺に、まだ本屋さんで買うような勇気は当然なく、バレる可能性が上がるためアプリをいれることすらも恐れる小心者。おかげでお馴染みのサイトを愛用する毎日が続いている。
しかも知った理由もベタで、姉がリビングに置き忘れた本を興味本位で読んだこと。部屋に戻った姉に返してこいと母にしつこく言われ、手に取った結果がこうなった。
そもそも、『おもしろかったでしょ?』とニヤケながら聞いてきた姉に、俺は『別に読んでねーし!』とちょっとえっちな本を覗き見るように開くのを姉に目撃された男子中学生みたいな反応を返すような奴だから、到底リアルでの購入は無理だろう。
「まぁそれはおいといて……ふふっ」
分かりやすく顔をニヤケさせた俺はベッドにうつ伏せの状態でスマホのパスワードを解除し、手慣れた手つきでお気に入り欄にあるサイトを開く。
「あー、またこういうのか。さすがに危ないってーの」
そこに表示されたのは「ここを押すと、あなたもBL世界の一員!」と書かれた文章とボタン。俺はこのサイトの会員になってないから、勧誘系は結構表示されてしまうのだ。といっても、この広告を見たことはないが。
「削除削除」
右上にあるバツ印を押そうとした瞬間、外から大きな音がした。「わっ?!」と情けない声を出し音の方向に目をやるも、すぐさま嫌な予感を察知した俺はスマホに目を向けた。俺の親指は、はっきりとそのボタンを押していて、ゲームのロードのように読み込みが開始されている。
母は常に俺や姉に言い聞かせていた。「ネットを見るのはかまわないが、変なものは押すな。もし押したとして、請求やらなんやらがきたらそれはお前の責任だ。私に縋り付くようなら、家から追い出す」と。
やってしまった、という不安が脳内を駆け巡るも、スマホから目が離せない。
白線が端まで綺麗に緑になり、一筋の汗が頬をつたう。
「ご登録ありがとうございます。では、お楽しみください」
てっきり変なサイトに切り替わると思えば出てきた文章はそれだ。なにかあるのかもしれない、そう思って俺は画面を見つめた。5秒、30秒、1時間…どれにも感じられたその間は、激しい強烈な光に変わった。
「っんだこれ…!!」
目を開けるどころか、閉じていても鮮明に伝わってくる光に俺はそれしか言えなかった。
「……おさまっ、た……?」
先程よりも落ち着いた空気に、俺は静かにゆっくりと目を開く。
「……は?」
頭痛が走った。できることなら夢であって欲しいが、その感覚があるということは、現実と言わざるを得ない。
「BLの世界」。広告……今考えると広告以外の何かなのかもしれないが、とにかくあれにはそう書いてあった。よくある比喩表現、誰もがそう受け止めるに違いない。
「瞬時に理解出来る自分が恐ろしい……」
かすかに笑みをこぼすのはもちろん、自分に呆れているからだ。
そう。ここはBLの……俺が特にハマっているBL漫画「マイライフ」の主人公・立花夏樹の部屋だ。青いベッドに、謎のぬいぐるみ。角にはバスケットボールと黒いリュック。極めつけは机の上に広がるガラクタたちだ。
「まじかよ……」
どうにもなりそうにないこの現実に、俺は大きくため息をついた。
「ん……でもこれって、チャンスじゃね……?」
裏を返せば、俺のどタイプである顔が張り付いているということ……つまり、鏡を見れば3Dの夏樹が見れるということ!
我ながらポジティブみが凄いが、そうと分かれば即行動だ。俺にはもちろん鏡の位置がすぐに分かるわけで……っと、あったあった。
「こ、これは……ハルヒ?!」
俺は夏樹の部屋にいることから夏樹自身ばかりだと思っていたが、どうやらそうでは無かったらしい。
ハルヒとは、夏樹の幼馴染で、幼稚園の頃からずっと仲良しな超絶神ポジにいるマイライフの重要人物の1人だ。今のところ恋愛話は出てないが、描かれるのも時間の問題だろうと思っていた。
それにしても……。
「顔がいい」
さすが夏樹の幼馴染。黒髪ストレートにキリッとした目つき、高い鼻に薄い唇。実体ってすごいな……俺と同じ名前なのが非常に申し訳ない。
「ハルヒ……?」
瞬間、高く透き通った声が響いた。
「顔面国宝……」
後ろを振り返った俺は、か細い声でそう言った。そしてそのまま、意識を失った。
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