本の町 1
連休に母がおばあちゃん家に泊まりに来た。
私が読書好きなのを知っている母は、神保町で開催される作家の公演に一緒に行こうと誘ってくれた。
東京に住んで半年以上経つが、あまりの課題の忙しさに新宿や新大久保以外の東京都内を全く知らなかった私には、神保町という場所があることすら、恥ずかしながら知らなかった。
神保町はまさに本好きのための町だった。
目的地へ向かう地下鉄の中、スマホで町について検索してみると、歩道に古本の詰まったワゴンがずらりと並び、読書に適した様々なおしゃれカフェが競い合うように、そこかしこに建っていることを知った。
それも、ただのカフェではなく本屋の中にあるカフェや、建材まですべて木製の古風なカフェ、明治の和風レトロを思わせるようなものまで幅広い個性のカフェが一つの町に詰まっている。
胸を弾ませながら、頭の中では町を探検しようという意気込みと、絶対に結愛も気に入るはずというデートの下見をしようという雑念があった。
地下鉄を降りて外に出てみると、歩道は人で溢れていた。
よく見てみれば、いくつもの古本や雑誌などで埋まったワゴンが歩道の端に置かれて、人々がそこに群がっている。
私は意気揚々と人の目も気にせず、世話しなく周りを見渡した。そうやって歩いていると、いくつもの可愛らしい雑貨が店頭に並んでいるのが見えた。
母と共に公演場所を目指して歩きながら、私はあの店の場所を覚えておこう。とか、あの店に結愛を連れて行ったらきっと喜んでくれる。などということばかり考えていた。
だから実際に学校でデートに誘ったとき、結愛が「いいよ」と言ってくれたことがとても嬉しかった。
見たい映画がちょうど公開されたので新宿ピカデリーで先にチケットを買ってから、二人で神保町に向かった。
地下鉄に二人揺られながら、どんなところだったかや、こんな店があったからそこに連れて行くと、私は饒舌だった。
結愛も楽しみにしてくれていたようで「気になってる新刊があるから買おうかな」とか、「古本っていいよね。安くてたくさん買えるから嬉しい」と揚々としていた。
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