幻は桜吹雪の舞う頃に

白昼夢茶々猫

壱話 遠く桜の咲いた頃

 ひゅ――――。ひゃらひゃんっ。



 時は桜栄おうえい。とある城の城主によって天下統一のなされた時代。


 まだ夜の色を残す、山に、空に、笛と鈴の音が響き渡る。

 どこまでも澄んで届いていくかのようなその音色は、どこか悲しげで。

 は目前の煌めく湖もその湖面を紅く染める紅葉も目に入らず、どこか遠くを眺めていた。


「笛の音は、今も昔も変わらない......。違うように聞こえるのは、」


 はどこまでもか細く呟く。その後に続く言葉はしか知らないのだろう。

 常に見る夢に出てくる、あの遠すぎる景色は。


 今よりももっと澄んだ昼の空に、一面に舞い散る桜吹雪。

 そこに響く笛の音は今と変わらず、どこまでも広がっていきそうな音色を残して。

 しかし、今と違うのは笛と同じ様に響き渡る声があるせいだろうか。

 ひらり、ひらりと白い巫女装束をまとったが歌いながら踊っている。

 見上げていたはしっかりと微笑んでいて―――。


「――!!」


 夢が醒める。

 いつもその夢は血で終わる。

 だからいつも、悪夢から覚めなければならない。


 いかないで、いかないで。

 あなただけは、守らなければ、ならなかったのに。

 あなただけを、守れたらよかったから。


 ――いかないで、いかないで。


 


 だからそれは呪いになったんだろうか。


「――なんだ、夢か」


瞼の裏にこびりついた赤い光景を振るい落とすように、その人物の目には涙があふれていた。

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