業務委託死神はシングルマザーに適任するわけがない
ださいやさい
お手上げ
私、
文芸作品で私の職業がよくつくイメージは、大鎌を手に、人の魂を刈り取る姿だ。そう。私は死神。試験に合格して登録した公認死神だ。けど、正社員として定着できず、業務委託を受けて、フリーランスのように働いている。
たまに中二病ががんに変わりそうな男子中学生にかっこいいと言われたことがあるけど、仕事が完成しない限り報酬は貰え上に、拘束時間が長くて、あまり稼げないんだ。死神の成り手不足は年々深刻化していると、ニュースに煽られてやったわけだから、そこまでこの仕事に愛着がないけど。そもそもこういう職場の環境が女性に向いていないのだろうか…
晴れる夜の国道のトンネルの出口に、すぐに急な下り坂かつカーブがあって、10分後にこの辺で無謀なやつが通る。具体的に、ヘルメットもかぶらずに爆音バイクに乗って早いスピードで逆走する。そしてガールレールにぶつかって死ぬ。彼の魂を回収するのが私の仕事だ。タンクローリーが爆発してもっと人を死なせることが待遠しいわ。大震災とか津波とかあればもっといいのに、私の業務範囲外となる。いい仕事をどんどん大きい会社に持っていかれるから。こんなしょうもない魂をしか集まれないんだ。
「 霊魂を一つ回収で84円?また単価が下がってる。もう切手並みじゃないか?」
私が亡霊回収機の売り上げ記録を見て、嘆いた。もし私を傍観している人間からしたら、モニター付きのコードレス掃除機を持って立つ、独り言する変な女に過ぎない。84円というのは、数十分前に、夜の険しい山にロッククライミングして落ちた男の魂だった。84円と表示が出ているが、報酬の明細にまた下請け会社に機械使用料と登録料が引かれるのだろう。あ。あと税金も。人間も死神も税金だけからは逃げられないのだろうね。
うるさいマフラーの音が遠くから聞こえる。きたか?早く死んでちょうだい?私も早くお前らの魂を片付けて、自宅に帰って予約録画した好みのドラマの最終回を見たいよ。
反対方向から軽自動車も走ってトンネルに入ろうとしていた。待って!こんな情報、知らなかった!私は一瞬、驚きと喜びが交わった。
事故現場は惨烈だ。人の組織が散乱している。けど死神にとって日常茶飯事だ。皆が殺人鬼を超えるメンタルで勤めている。素晴らしかったのだろう?逆走バイクにのっていたチンピラっぽい男に同情すらない。自業自得だ。けど、軽自動車に乗っていた人らは家族か?こんな時間にこんなところに現れなければ、普通に生き続けるのに…
チンピラっぽい男を、茶くみしているように、亡霊回収機を近づける。
モニターに「162円」の表示が出た。っ安!けどチンピラもロッククライマーより高い単価がつくなんて、彼が落ちる前に、一体どんな罪を背負っていたのか?
軽自動車に乗っていた男女が「7300円」と「10800円」の表示だった。惜しい。君らは死ぬべきじゃなかったのに…
血まみれな赤ちゃんに、亡霊回収機の反応がない。まだ生きている!
私がドアを引っ張って、ガラスの粉々から、赤ちゃんを抱く。
以前に触った、公園やホテルのトイレの中の赤ちゃんの魂と違って、体の暖かい、生き生きとしている赤ちゃんだ。
「ねんてかわいそうな子だ」
その子を連れて帰ることにした。報告書?それは会社員がやる仕事だ。やべぇっ、フリーランスのメリットを感じてきた。
業務委託死神はシングルマザーに適任するわけがない ださいやさい @Kazatori
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