天まで届く長いネコ
田舎の空気はおいしいねえ。
やあ、僕がVtuber■■の中の人だよ。キミをこの町に呼んだのは他でもない。天をぶち抜くスーパーロングビッグネコを撮るためさ。
いいかんじの映像を撮って家で編集して、配信で流すんだ。Vは生身の写り込みが命取りだから、キミがカメラを持つの。僕を映さないで景色を撮ってね。はい。
なんでキミに連絡したのかって? SNSで相互フォローだけど会ったことはないのに? ……キミなら来てくれると思ったんだよ。こういうキテレツ現場、好きでしょ?
ほら、天気が良いからここからでも見える。あの二足立ちネコ、でかすぎて下半身しか見えないってホントだね。上半身は雲の上だから、全長は推定一万メートル以上らしいよ。目の前にあるように錯覚するけど、駅前からだと車で十分くらい行かないと足元に着かないはず。
二年前の夕方だっけ。ふと見たらそこにいて、いつの間に、どう現れたのか、誰も見てないらしい。そして今日まで歩くこともなく二本足で立って、ふわふわのお腹と、たまに揺れる尻尾を人類に眺めさせてる。たまにニャーンて鳴いて、うんちしたりするらしいよ。うんちは加工されてお土産屋で買えるんだって。
タクシー捕まらないなぁ。歩いてもいい? よし、れっつご〜!
あのネコねえ、なんの目的でそこにいるのか誰も知らないし、解明もできてないのに、町長が思いきって名物として売り出したんだよね。それが大当たりで、こんなへんぴな土地が今や立派な観光地。
ネコの顔を見るためのエレベーターが完成してからはさらに有名になったよね。
じゃーん。天空エレベーターの予約チケット。毎日ネットで即完売なんだけど、がんばって二枚とったんだー。コンビニでプリントしておいたよ。失くしそうだから二枚とも持っててくれる? ありがと。
エレベーターで上がった先には、バンザイするネコの上半身が見えるんだって。きっとかわいいよねえ。うん、僕ネコ派。キミは犬派? 確かに犬飼ってそー。
やっぱ歩くなー。足疲れてきた……でももうちょっとだね。モフモフが近づいてきたよ。
ん? エレベーターはどこにあるんだって? ネコの足元にある建物、あそこから乗るんだよ。……どう見ても二階建てくらいにしか見えない? バカだなあ。エレベーターは透明な強化ガラスでできてるんだよ。せっかくのネコの景観崩しちゃうでしょ? エレベーターは一日に三回稼働するんだけど、そのとき人間が浮かび上がってくみたいでそれも地上から見ると面白いらしいよ。
やっと着いた! 疲れた〜〜〜!
近すぎるともうネコだってわかんないね。モフモフな毛の柱が二本! あはは!
見上げたらあそこ! あれ尻尾だね! でっかーい! おっ、動いた。あのあたりからたまにうんちが降ってくるらしい。気を付けてね。
人多いなあ。あ、お土産屋さんだ! これって……スーパーロングビッグネコパペット!? 長手袋じゃん! うおおお、ケツの穴に腕突っ込んでるみたい。色と模様のバリエーションがある……これちょっとキミに似てない?
こっちのキーホルダーも長すぎて靴ベラじゃん。買っちゃお。一個はキミにあげるね。大きくてカバンにつけられない? 玄関に置いときなよ。
カメラ回す前にご飯食べない? エレベーターの時間までまだちょっとあるし。
あそこのレストラン、窓際ならネコを見れるし、名物がスーパーロングビッグネコうんちカレーらしいよ。あるいはロングネコポテト。ネコテイルマルメターノとかもあるって。
……そんな顔してどうしたの? なんか納得いかないって顔だね。
一万メートルも上空まで行けるエレベーターってなに……って? 技術的に可能かどうか? 僕、むずかしいことわかんないよ。それっておかしいの?
エレベーターで上がった先のレポ、検索してもネットのどこにもない? え……そんなことないでしょ。だってこんなに有名……あれ、ホントだ……。
そういえば、ネコの顔を見に行った人はいるけど、見て来た人って知らないかも……。なんでだろ?
あ……ネコの、鳴き声だ……。
……痛っ、痛いよ、急に腕つかんで何? え、早く行こうって? そんなにお腹空いたの? 違う? エレベーターに? なんで? まだ時間じゃ……時刻が早まった? 時間の変更なんてどこで知ったの? 今? どういうこと? ねえっ、なんか……怖いよ、どうしたの? 引っ張らないでよ、わかったからっ、行くからっ!
あ、あれ……っ? ロビー……こんなに人がいるのに……どうしてすごく静かなの……? それに……立ち去る人と集まる人とはっきり分かれて……。集まってくる人みんな……手にチケット持ってる?
ここ待機列? なんでみんな、喋らないの? 楽しい観光地だよ、ここ? もっとザワザワ賑やかになるものじゃないの?
キミもどうしちゃったの? さっきまでこんな乗り気じゃなかったじゃん! 急に早く乗ろうなんて、ネコ派に改宗した? ……笑うとこなんだけど!
うわっ!? 今の音何!? どすんって、大きなものが落ちたみたいな音……。
窓の外……砂埃がすご……え、あれって……うんち!? デカっ……超巨大かりんとう……。建物の中で良かった……臭そう……。
てか、あのネコやっぱり、うんちするんだね。お土産にもなってるくらいだもんね。
でも……でもさ、ネコ、ずっと動かないんでしょ? 鳥とか……エサを狩る様子もないのに……。
うんちするってことは、何か食べてるってことだよね。
…………雲の上で、何を食べてるのかな?
あ、列……進む……。
エレベーターが見当たらないけど、あっちのほうで、みんな階段を上がってる……。
その前に受付があるんだ。チケットと交換で……何これ? ブラシ? な、なんでみんな髪を
待ってよ! 置いてかないで……! キミ何してるの? ここにブラシを置くの? これ何? カゴ? メガネとか、財布とか、みんなここに置いてけって? それはおかしくない? は、裸になるのぉ!? 待って待って待って! これ、ボディクリームって書いてあるけど、ミルクの匂いがする! こっちの香水みたいなやつ……酢!? こっちは塩!? 絶対おかしいよ、これってさぁっ……! 僕、今から変なこと言うね!? ここ、山猫軒って名前じゃない!?
脱いじゃダメだって! ダメッ!! ファスナーから手離してッ!!
ねえ、ねえってば! 返事してよ! キミらしくないよ! どうしよう、なんかヤだよ。僕から誘っておいてごめんだけど、帰ろ? 話聞いてる? どんどん進まないでよぉ!
なんで僕だけマトモなの? 僕が既に呪いを受けてるから? わかんないよぉ。いつも助けてくれるのはキミのほうじゃん。こんなのヤだぁ!
あっ……乗降スペースまで来ちゃった。あ、あ、エレベーターが降りて来ちゃう。どうしよう。どうしよう。キミの体重、僕でもいけるかな。えーん。やるしかない。もう……水筒しかない……! ごめんね、ごめんね……! 人を殴るのって初めてだから、加減がわからないんだ!!
ポロポロシャキシャキ @XXXXXXX
─────────────────
目を覚ましたら病室だった。
よくある天井と点滴の写真、自分が
上げることになるとは。
なぜか昨日の記憶がない。
通り魔かもって、もうすぐ警察が来る。
なんか身体が牛乳くさい。
posted at 10:52:24
■■٩( 'ω' )و <Vtuber @■■_Vchan
─────────────────
@XXXXXXX おだいじに……。
posted at 10:53:02
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます