ささくれ切りの少女

大道寺司

第1話

「いっけな~い、遅刻遅刻~」


 裏声でそんなことをつぶやきながら学校へ向かう普通の高校生、俺。

 普通に遅刻しそうでちょっとヤバい。

 そんな中、曲がり角に差し掛かる。


 ドンッ!


「うぇ!?」


 勢いよく飛び出した矢先、車にはねられてしまった。

 柔道部で培った防御力が無ければ危うく病院送りになるところだったが、幸いにも爪にできたささくれの方が痛いくらいのダメージで済んだ。


 気にせず歩き出して少しすると、第二の曲がり角に差し掛かる。

 できれば、何の色気もない機械などでなく、美少女とぶつかりたいところだが......


 ドンッ!!


 今のは俺が曲がり角に入った時の効果音だ。今回のエンカウントは無し。

 というわけで、第三の曲がり角までせっせと歩いていく。

 じゃ、そろそろ美少女とぶつかりますか。


 ドンッ!!!


「きゃっ!?」

「おっ、当たりか?」


 大当たり。

 俺は車にぶつけられた。今回は運転手がブレーキを踏んでくれたようでその場で受けられた。

 図らずも、車から少女をかばう形となった。


「大丈夫?」


 少女ははじめは戸惑いながら目をキョロキョロさせていたが、状況を理解したのかこちらを見つめて頭を下げた。


「助けていただいたようでありがとうございます!」

「どういたしまして。じゃ、急いでるんで」

「待ってください」


 颯爽とその場を去ろうとするが、無理やり腕を掴まれる。


「お礼にそのささくれ、切らせてください」

「え、なんで気付いたの? 怖いんだけど......」

「『髪切った?』的なやつです」

「?」


 そういって少女は何かを取り出した。


「何それ? 爪切り?」

「ささくれ切りです」

「何でそんなピーキーな器具持ってんの?」

「私の女子力は53億ですから」

「ああ、そう......」


 なんやかんやで、ささくれは綺麗に取れた。


「それじゃ」

「はい。お気を付けて」


 それでささくれ切りの少女とは別れ、学校へ向かう。

 普通に遅刻した。


 次の日からささくれ切りの少女とは何度も出会うようになる。

 それからだんだん彼女について詳しくなっていった。

 車からかばった形になった時に俺に惚れていたこと。

 好きな人の細胞を(ささくれとして)集める趣味があること。

 二つ下の後輩であること。

 俺が浮気すると泣きそうな顔で別れを切り出してくること。

 ささくれから俺のクローンを生み出したこと。


 色々あったけど、最期まで俺のささくれは彼女が切ってくれた。

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ささくれ切りの少女 大道寺司 @kzr_

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