1章 第37話
キャンプ場に到着し、コテージへと荷物を運び終えた
こんな風に友人達と大自然の中で過ごす事など、鏡花のこれまでの人生には無かった。学校行事でなら多少あるが、プライベートとは言えない。
そんな鏡花にとってこのキャンプは、良い思い出になるだろう。
高校2年生になってから、佐々木鏡花の人生は大きく変わり始めていた。そしてそれは、
それだけではない。思い悩む真を気遣っていた、
真がこうして元気になったのだから、漸く肩の荷が下りたと言える。2人は心配させられた分、好きなだけ弄り倒しているのだ。
「言っとくけど、佐々木ちゃんと同じ部屋にはしなからね?」
「そんな事頼むか!」
「え~でもキョウのパジャマ姿は見たいんじゃない?」
沙耶香が2人居るみたいだと言う、真の言い分は正しかった。弟の様に見ている小春と、実際従姉の関係である沙耶香。
2人にすれば、弟分が彼女を連れて来た様なもの。この状況を楽しむなと言う方が無理だ。
「そ、それぐらいなら、良い、けど……」
「えっ!? 鏡花!?」
「めっちゃ反応してやんのウケる~」
「ダメよ~佐々木ちゃん、簡単に男にパジャマ姿なんて見せたら」
そんな風に真と鏡花で楽しむ2人とは離れた所で、他のメンバーは集まっていた。あの4人は暫くあのままだろうと放置する事にしたのだった。
せっかくこんな大自然に囲まれた場所にいるのだ、ただ駄弁っているだけなんて勿体ない。
「なぁ、
「ここ、サウナがあるらしいの」
「そうなん!? ちょっと興味あるわ」
「水樹、行くなら呼びなさいね。1人はダメよ」
鏡花達がやって来たこのキャンプ場では、サウナを目的にやって来る利用客が結構多い事で有名だった。
数年前にキャンプとサウナがそれぞれ流行った時期があった。ブームに乗っかった一部のキャンプ場が、大自然の中でサウナを楽しもう! と宣伝して回った事で周知が進み見事成功を収めた。
モデルをやっている水樹にとって、サウナの新陳代謝向上効果や、体型維持の為の脂肪燃焼効果は非常に有益なものだ。
そう言う意味で水樹はサウナが結構気に入っている。本当は健康に良くない、と言う意見もあるがそれは極端な利用の仕方をする場合だ。
水樹は普通にいい汗をかく程度に留めている。『ととのう』感覚には興味がない。
友香は面白そうなら何でも良いタイプだ。山の中でサウナなんて言われたら、当然やってみたいと考える。同行しないと言う選択肢はない。
「あんたらはどうすんの? ウチらとサウナ行くか?」
問われたのは
「俺はあんま興味ないから良いわ」
「私は、ちょっと暑いの苦手だから……」
「うーん、僕もそんなにかな。水島達3人で行って来なよ」
「分かった、ほなまた後でな~」
サウナ組の3人は、外出する準備を始める。ちなみにこのキャンプ場は、サウナ用品もレンタルが可能だ。
サウナ用のポンチョやタオル等が借りられる。キャンプブームが来た事で、ライトに楽しみたい層が一気に増えた為、色々なアイテム類の貸し出しをしている所が多い。
このキャンプ場も、様々なアウトドア用品を貸し出ししている。バーベキュー用品や、釣り道具などジャンルは多岐にわたる。
事前に調べていた水樹はそれを知っていたので、彼女達に必要な準備など大してない。貴重品と多少の着替えだけ持って出掛けて行った。
「鏡花ちゃん達は……まだ掛かりそうだね」
「俺らは俺らで何かしようぜ」
「そうは言ってもな。ちょっと待て調べるから」
翔太はスマホでこのキャンプ場について調べ始めた。他の2人にも見える様に、コテージに設置されたウッドテーブルの上にスマホを置く。
ここは電波が届かないほど山奥ではない。すぐに公式ホームページが表示された。
「へぇ、色々あるんだな」
「そうみたいだね。結城さんは何かやってみたい事ある?」
「私? そうだなぁ…………あ、この釣りはどう?」
佳奈が指差した先には、道具のレンタルが出来る川釣りのリンクがあった。翔太がリンクをタップして川釣りのページを表示させる。
「おお! 結構面白そうだな」
「わりと簡単に出来そうかな? 僕は結城さんの案で良いよ」
「何か、ごめんね私が決めちゃって」
「良いよ、聞いたのは僕だし。それに村田も乗り気だからね」
妹絡みで最近親交が深まりつつある佳奈と翔太。一見呼び捨てにしている恭二の方が仲が良い様に見えるが、実は翔太と佳奈はかなり仲が良くなっている。その事は鏡花すら知らないし、気付いて居ない。
高梨翔太と言う男は、真と違って堅実に事を進めるタイプだ。そして、それを上手く隠す事を得意とする。どこかの猪突猛進な男とは違って。
一切そんな素振りを見せず、しかし攻めるべき時はしっかり攻めている。このグループの中で始まっている恋愛は、実はもう一つある。
その事が明るみに出るのが先か、真が腹を括るのが先か、その行方はこれからの彼ら次第だ。
「あ、あれ? 他の皆は?」
散々真が弄られている間に、コテージに居るのは鏡花達4人だけになっていた。何かしら話していたのは鏡花も認識していたが、どうやら出掛けてしまったらしい。
「あら本当。いや、ちょっと待って。涼香からメッセ来てる……友香ちゃんと水樹ちゃん連れてサウナだってさ」
「へぇ~サウナか~アリかもね。アタシも行こうかな?」
「じゃあ他は? あ、待てこっちも翔太から来てる。残りの3人で釣りだってさ」
涼香が沙耶香へ、翔太が真にそれぞれ行き先をメッセージで知らせてくれていた。どこで何をしているかさえ分かれば、なんとでもなる。
「さや姉はどうすんの~? 一緒にサウナ行く?」
「私は次の特集について考えたいから、適当にぶらぶらして来るよ」
「そっか、じゃあ後はお2人さんでお好きにどうぞ~」
「2人きりだからって、手を出したらダメだぞ真?」
「もう早く行けよ!!」
どこまでも弄り抜くスタイルの2人は、笑いながらコテージを出て行く。弄りはするがちゃんと気を遣って、2人だけにして行くせいで真もあまり強く抗議出来ない。
「ど、どうしよっか真君?」
「そう、だな。鏡花は何かやりたい事ある?」
実際こうして2人きりになると、お互いがお互いを意識してしまう。今朝自分の気持ちに気付き、そのすぐ後にキスされてしまった鏡花。
小春の改造計画によって可愛くなった鏡花に、思わず暴走してしまった真。時間が経って流石に両者共落ち着きを取り戻しているが、それでも今朝の出来事の影響は小さくない。
「と、とりあえずその辺散歩しながら考えないか?」
「う、うん。それで良いよ」
日和って無難な提案しか言えない真なのであった。いつもの様に繋いだ互いの手は、普段より熱を持っている様に感じられた。
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