1章 第14話 初デートの後で…前編
葉山真と佐々木鏡花。初々しい2人の初デートは特に大きなトラブルもなく、それなりに上手く行っている者同士であれば有り得る様な、平凡で普通の終わり方をした。
日は完全に落ち、夜のとばりが降りた美羽市では、世間を多いに騒がす様な出来事もなく、平和な日常が続いて行く。
ただもう少しだけ、2人のデートに関する裏話が続いている。これはそんな一幕。
「
『え~何よ急に』
「とぼけるなよ、明らかに察してる感じだったぞ」
『へぇ?』
「教えたんだろ? 俺がどう思ってるか。お陰で凄い中途半端な感じになったぞ」
『そだよ~』
「なんでだよ! まだ俺には準備が」
『だからだよお馬鹿さん』
「……はぁ?」
『アンタがキョウの事を全然考えてないから、アタシが動いたんじゃん』
そんな事はない! 目立ちたくないって言う鏡花の気持ちを考慮して、少しずつ地道に距離を狭めている。最近は結構俺の前でも、自然に笑ってくれるようになって来たんだ。それにこの間なんてラスクで……いやそれは良いんだよ。とりあえず俺たちは良い感じに前へ進んでるんだ。
『アンタほんと馬鹿よね』
「なにがだよ?」
『キョウが人前でアンタと一緒に居るのを避ける理由、ちゃんと分かってんの?』
「それは、目立つのが嫌だからって鏡花が」
『まあそれもあるけどね、でも一番の原因はアンタ』
「それは……人気者が話し掛けると困るとかってヤツのことか?」
『だからバカなんじゃん。バーカ』
「何だよさっきから馬鹿馬鹿って!」
自分のベッドに寝ころびながら、スピーカーモードで会話していた真だったが、あまりにも先ほどからボロクソに言われた為に、思わず体を起こした。
幾ら幼馴染と言えども、こう何度も馬鹿だ馬鹿だと言われて大人しく黙っている程大人しい男ではない。
『アンタがキョウに嫌われたくないから、聞き分けの良い男ぶって役目を放棄するからバカだって言ってんの』
「は、はぁ!? いつ俺が役目を放棄したんだよ! 俺はちゃんと放課後に2人で」
『それはアンタの下心による関係でしょうが』
「うっ……」
下心が一切無かったかと言うと、それは嘘になる。気になる女の子と放課後の教室で2人きり。そこに惹かれたのは確かだから。
初めて放課後に1人で本を読んでいる姿を見た時の、あの何とも言えない独特な魅力が、頭から消えた事などないのだから。
『キョウの言い分を守りつつ、アンタは2人の時間を満喫出来る。実に合理的よね。アンタにとっては』
「……それの何がいけないんだよ」
『それじゃあキョウの為にならないからじゃん』
「待てよ! そんな事ないだろ! 俺との会話を通じて、ちょっとずつ前に進める様に」
『だから~~~それはアンタにとって都合が良いだけで、キョウは全然得してないでしょ!』
「何が良いたいんだよ? さっぱり分かんねーよ」
やはり真には分からない。この長年に渡り一緒に過ごして来た幼馴染の言いたい事が。それほど悪い手段ではないハズだ。何が悪いんだ。そんな事ばかりが真の脳裏に浮かぶ。
『アンタの好きって言うのは、鳥籠の中にキョウを閉じ込める事なの? 自分さえキョウの魅力を知ってたら良くて、キョウは外の世界から遠ざけるの? って聞いてんの』
「そんな訳ないだろ! だから慣れて来たら小春達とも会話させようと」
『だからバカかって言ってんの。そんな事する必要ないでしょ?』
「……え?」
『そんな回りくどい事しなくても良いの。最初からアタシを頼って、アタシ達の仲間にしちゃえばそれで終了でしょ?』
「ど、どうして?」
『アタシの身内に文句付ける根性ある奴なんて、学校には殆ど居ないでしょうが。キョウもこれから仲間だよーって宣言したら良いだけじゃん。それで野暮な連中はサヨナラ』
「…………………………あっ!」
あまりにも今更過ぎる話だ。そう、この幼馴染はウチの学校では相当な人気がある。小春の友人に何か出来る奴なんて、一握りしか居ないじゃないか。せいぜい似た様なタイプの3年生とか、それぐらいだろう。
それに小春は本当に顔が広い。生徒会長やら運動部のキャプテンやら、学校の主要なメンバーの大半と仲が良い。そんな小春に嫌われたとなっては……まあ学校内での評判が良くないものになるのは避けられない。
それなのに言われるまで気付かないなんて、俺の視野が相当狭くなっていたらしい。恋は盲目なんて言うが、まさにその通りだった。
良く考えたら、昔似た様な事があった。あの時はまだ中1で、夏休みが終わってすぐの事だ。俺たちのクラスに、関西から転校生の女の子がやって来た。独特な話し方と、明るすぎるノリが災いして、上手く馴染めて居なかった。徐々に皆との間に壁が出来つつあった時だった。小春が言い出したのだ、アタシと一緒に居なよと。
当然ながら昔から小春は人気があった。そしてクラスの人気者が認めた以上は邪険にする訳にもいかず、転校生もまたこれまでの環境との違いを学んだ。小春は見事にクラスに馴染ませたのだ。
小春はそう言った蟠りを嫌う。他人と違うからと、色眼鏡で見る人間を嫌っている。直接聞いた訳ではないが、その時の行動もきっとそう言う事だろう。
小春は最初からそう言う人間だった訳ではない。幼稚園の頃なんて、どちらかと言えば鏡花に近いタイプだった。変化が起き始めたのは、小学生の頃からだ。きっかけは何だったか、もうあまり覚えては居ないが、確か俺とずっと一緒に居るのを馬鹿にされたんだったか?そんな感じだったと思う。
今思えば馬鹿にした奴も、小春が好きだったのかも知れない。今とタイプこそ違うが、当時も見た目は抜群に優れていたから。当時も当然かなりモテていた。なのにずっと俺の隣にいるのは、面白く無かったんだろう。
それからだ、小春が今の様になって行ったのは。自分がどこで誰と何をしようが文句は言わせない、と言わんばかりに周囲知らしめる様になったのだ。
文句があるなら言いに来いと言うスタンスを貫き、いつの間にか今の小春の原型が完成していた。
小春自身が何か悪辣な事をしていたのなら、逆に嫌われる切っ掛けになっただろう。だが小春は、徹底して正当な主張しか発しなかった。特別誰かの陰口を言うような事も無く、好き嫌いはハッキリしていた。その結果立場を悪くするのは、いつも相手側だった。なんなら多くの女子からは、頼れるリーダーの様に扱われていたぐらいだ。
あくまで自分が気に食わない事以外にはノータッチだった為、仕切り屋になった訳では無かった。そのバランス感も、上手く取れたんだと思う。あれで全てを仕切る様なタイプになっていたら、少なからず反発もあっただろう。
美男美女に生まれるだけで勝ち組だとか、イージーモードだとか言われたりするが、実際にはそうでもない。容姿を武器に生きていけるタイプの人間であればそうかも知れないが、そうじゃない人間にとっては、必ずしもプラスになるとは限らない。
例えば小春、そして俺だ。小春は本当に良くモテたので、言い寄られた回数も尋常ではない。小学生の時点でそういう強い女にならねばいけない程、あちこちからちょっかいを掛けられていた。さぞウンザリした事だろうし、実際にウンザリしてもいた。その気持ちは、俺も痛い程良く分かる。
誰にでも平等に接しましょう。そんな小学生の当たり前の道徳感をもって、俺は誰にでも同じように接した。結果、意図していない勘違いされた事は何度もある。そんなつもりは無いし、俺はサッカーにしか興味が無かった。
お前のせいで誰々にフラれたなんて恨みを、向けられた事が何度かある。いや、まずお前は誰なんだよ。そしてその誰々とやらにも心当たりはない。名前を聞いて顔も浮かばない相手にフラれた奴に、なぜ恨まれねばならないのか?意味が分からなかった。
小春は俺以上にそう言った経験をしている。だからこそ、敵対行為や悪意には容赦しない。出来うる全てを使って白黒つける。
だからこそ、鏡花が置かれている様な状況が気に食わないのだろう。何も知らない癖に余計な事だけは言う。無関係なのに要らぬ横槍を入れようとする。そういう人間は小春が毛嫌いしているタイプだ。
流石に今となってはそう表立って何かはしないが、分かってるよね?と言う圧を掛ける程度ならわりとやる。
最初からそうすれば良かった。確かにその通りだ、反論の余地もない。
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