1章 第13話
などと鏡花がアホな事を考えている間に、普段の鏡花なら絶対に立ち寄らないタイプの、外装から拘る様な立派な店構えのお店が立ち並ぶゾーンにどんどん近付いて行く。
(あ、あれ? こんなオシャレ通しか近付いたらいけないトコに、私の様なモブBが居ていいの? だ、大丈夫か? ひ、姫様ホントこれ、大丈夫なんですか?)
段々怖くなって来た鏡花であったが、無常にも小春が如何にもオシャレそう(鏡花目線)なお店のドアを開けてしまう。
こ、これがブティックってやつ!? お、オシャレだ……くっ! キラキラ陽キャオーラが凄い!! 壁のシミ系女子には眩し過ぎて溶ける!!
置いてる服も何か凄いオシャレだ! 『まきむら』の安い服しか着ないし入った事もない私には、凄いとオシャレ以外の感想が沸かない! と言うか表現が分からない! なんて言えばいいんだ!? わ、わー凄いシュッとしてますね! とかで良いのかな!?
「キョウ~! こっちこっち!」
「あ、はい!」
「こう言うキレイめ系ワンピとか良いんじゃない?」
「き、きれいめ??」
なんだろうその呪文みたいなの? 全然分からないよ。あたりめなら分かるのに。あ、何か食べたくなって来たなあたりめ。
「そそ。こう言う服の事~」
小春さんは薄いベージュのシンプルなデザインをしたワンピースを持っていた。胸元から首までの位置には布が無く、細い肩紐が伸びている。
「え、これ下着見えちゃうんじゃ……」
「アハハ! これだけ着るんじゃないって!」
「へ?」
「キョウなら下に、こんな感じのTシャツとか着れば良いから」
「ほ、ほう」
……なんでTシャツ1つでこんなにも『まきむら』のソレと違うのだろう? なんでか分からないけど凄くオシャレだ。柄とか装飾の問題? デザインかな? うーん、分からん。
パーカーとシャツとジーンズぐらいしか着ない私には、何もかも全く未知の世界だった。言われてみればそんな感じの服装をしたお姉さんとか、見掛けた事がある様な?気もする。普段あんまり周りを見ずに俯いて歩くし、テレビとかもそんなに見ない影響がモロに出ている。と言うか、ファッション自体気にした事がない。
「キョウは小柄だからね~こう言うトコで大人っぽさ出さないと幼く見えちゃうから」
「え、あ、え? そうなんですか?」
「そうそ~キョウは化粧とかもしないでしょ。だから先ずは格好から改善さ」
「そもそも今日は何が目的なんです?」
小春さんの目的が良く分からない。ファッション講座?みたいな感じになってるけれど、私にそんなの教えて何になると言うのだろう?私の服を探す意味も謎過ぎるし。それに何の意味が?
「あ~~~言って無かったね」
「はい」
「キョウさ~自分に自信ないでしょ?」
「うっ……はい。ありません」
「だからだよ。ファッションってさ、結構自信に繋がるんだよ」
「そうなんですか?」
「そ~ファッションってのは、より良い自分になる為にやる。そしてより良くなれた実績が重なると、自信になっていく」
「はぁ……」
そ、そうなの? ファッションって、似合う人がやるから意味があるのでは? 私みたいな地味女日本代表候補が着飾ってもねぇ? 何だアレぷぷぷ~って笑われるだけじゃないかなぁ?
「あんま変な冒険とかしたら失敗するけどね。まあキョウはアタシが見るから大丈夫!」
「なんで、そこまで……」
「言ったでしょ。感謝してるって。そのお礼ってわけ」
「でも……」
「こう言う時は、ちゃんと受け取んな? 遠慮や謙遜も過ぎると逆効果ってね」
「は、はい」
何だろう小春さんって同級生なのにお姉ちゃんみたいだ。姉が居た事はないけど、多分居たらこんな感じなのかなって、何となく思う。
「それにさ~キョウって素材は悪くないんよね」
「え? そう、ですか?」
「めっちゃ良いって事はないけど、悪くないラインまでは来てる」
う、うん? 良く分からないけどそれって要するに……
「……結局は平凡と言う事では?」
「分かってないね~! 『平凡』を『良い』に変えてくれる魔法がファッションなんだぞっと! うん、一旦こんなもんかな~」
「? そんなに服持ってどうするんです?」
「キョウが試着するんだよ?」
「え……」
「さあ行くぞ~! ゴーゴー!」
「あっ! ちょっ! まっ!」
グイグイ手を引く小春さんに引っ張られて、試着室まで連れて行かれる。高身長で運動も得意な小春さんに、トロくさくて小さい私が抵抗出来るハズもなく。……どうやら諦めて着るしかないみたいだ。
「じゃ~先ずはこれね。最初に見せたやつ」
「は、はい」
「ほらほら入って入って! 着方分かんない時は言ってね~」
あっという間に試着室に放り込まれてしまった私は、ジッとしていてもしょうがないので、取り敢えず試着してみる事にした。ある意味ではこれも、脱陰キャに繋がる事だ。友達と服を見に来て試着して見てもらう。うん、めっちゃ陽キャじゃん。これはかなり陽キャポイント高いのでは!?
そんな風に考えながら試着は完了。試着室にある鏡に、自分の全身を写してみる。………………あ、あれー!? 何かいつもと違くない? 何か、いつものモブオーラ全開のダッサい女感が薄まった気がする。いや、薄まったと言うより消えてないか??
「キョウ~? 着れた~?」
「あ、はい!」
シャッ! と試着室のカーテンを開けて小春さんに今の姿を見せた。ど、どうでっしゃろか?
「お~良い感じじゃ~ん! 流石アタシ」
「い、良いですか?」
「これマコが見たら絶対喜ぶよ~!」
「へ!?
「そりゃ好きな女の子が可愛い格好してたら嬉しいっしょ」
「か、かわ!? え!?」
え、えぇ!? 喜ぶ、かな? この格好喜んでくれる、のかな? もしかして、か、可愛いとかおおお思ってくれ、たり?……って!そんな真君に見せる為に服着るとか、彼女でもないのに!! バカじゃない!?
「おやぁ~? こりゃ脈ナシでは無さそうか~? 良いねぇ青春じゃん」
「あ、いや、これは、その!」
「うわ~マコ見たいだろうな~この可愛いリアクションするキョウ」
「っ!?」
や、辞めて下さい恥ずかしすぎる。ストレートに褒められる事が急に増えて来て、どうして良いか分からなくなる。
「今日の試着は写真撮っといてあげるから、これからの服選びの参考にしな~色の合わせ方とかもね」
「……はい」
「ほらほら~次行くよ~!」
それから色々な服を着せ替え人形の如く、あれやこれやと試着させられた。ちょっと大人っぽいブラウスにロングスカートを合わせたり、デザインが全く違うワンピースを着せられたり。
ちょっと大変だったけど、いつもと違う私の色んな姿を見れたのは良かったと思う。アニメでこんな服装してるヒロイン居たな~とか、ちょっと思いつつそれなりに楽しめた。『平凡』を『良い』に変えるとは、こう言う事だったのかと実感させられた。
確かに様々な格好をした私は、普段より多少は良い感じになっていたと思う。もしかして、私結構いけるのでは?『まきむら』オンリーだったのが悪かっただけで、ちゃんとしたのを着たらモブ感満載の私でもキラキラ陽キャになれるのでは!?
「こらこら~キョウだめだぞ~」
「えっ?」
「案外自分いけるかも知れないって考えて、クソほど似合ってないの着て恥かくまでが良くある失敗だかんね?」
「ゔっっっっ」
「キョウって結構分かり易いね~」
「ぐふっ」
まさに今考えていた通りの事を言い当てられてしまった。そして、私は黒歴史をまた一つ生産してしまう所だったらしい。あ、危なかった。
小春さんに釘を刺されていなければ、とんでもない恰好で外出していたかも知れない。
「まだまだファッション入門したばかりのヒヨコちゃんは、一人立ちさせないぞっと」
「は、はい」
「ま、これからはアタシが居るんだからさ。似合ってるか分かんないの買う時は聞いてよ」
「え、良いんですか?」
「当たり前じゃん! アタシら友達っしょ」
「あっ……はい!!」
素直に嬉しい言葉だった。この美しくて頼りになる人が、友達で居てくれる。こんなに有難い事はない。
カナちゃんや麻衣とはまた違う、小春さんから感じる安心感は彼女独特のもの。せっかくなんだから有難く頼らせて貰おう。そして私が力になれる時は、全力で返して行こう。
「フフ。キョウさ、そうやって笑ってるとそれなりに可愛いと思うよ」
「えっ、そ、そう、かな?」
「そうだよ。……ちょい耳かしてみ」
「な、なに?」
「マコがキョウを好きになったのはね、笑顔が可愛いかったからだってさ」
「へぇっ!?!?!?!?」
え、えぇ!? そ、そんな馬鹿な!? この私の笑顔が!? あ、ちょっと意識飛びそう。物凄い恥ずかしさだ。精神が限界を迎えてしまいそう。助けて誰か……
「アタシが話したのはナイショだぞ~?」
「ぅ……誰にも言えないよ……こんなの」
「自慢出来るじゃん?」
「む、無理~~~」
何だかんだで小春さんとも、距離が結構近付いたんじゃないかな?
結局最初に試着した、きれいめ? ワンピースとTシャツを小春さんが買ってくれた。真君を立ち直らせたお礼らしい。最初は奢りなんてと断ったのだが、結局押し切られてしまった。
どんなお高い値段なんだろうと思ったら、5000円でお釣りが来た。不思議がっている私を見た小春さんは、『最初はこう言うリーズナブルで、尚且つ良いの置いてるトコからスタートすんのよ』と教えられた。でないとキョウが買えないでしょ? とも。
何から何まで考え尽くされていた。す、すげぇぜ、これがスクールカーストトップの女……
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