1章 第9話
「じゃあさ、ちょっと俺と出掛けない?」
……流石にここまでの流れを考えてみれば、ラノベの鈍感主人公みたいな思考は持てない。
今まで
カナちゃん達には、チャンスだよと送り出された。やっぱりカナちゃん達の言う通り、葉山君はどうやらこんな陰キャモブ女に、ま、まあ何某かの好意を…………持っているらしい。それが『Like』なのか『Love』なのかは、私には分からないけれど。なんとも物好きな事だ。
じゃあ私はどうかと言うと、正直なんとも言えない。葉山君の事は嫌いじゃないけど、好きかと言われたら悩む。でもあの時、河川敷で見た彼の弱い部分も含めて、私は嫌ってはいない。
ただ、最近は放課後に1人孤独に過ごすのが、何だかちょっと寂しい気がする。葉山君は毎日来てくれる訳じゃないから、居ない時は何だかちょっと違和感がある。
放課後に2人でいる時間が、とても楽しいとは思っている。でもこれが友達として楽しんでいるのか、好きな男の子と居る事を楽しんでいるのかはハッキリしない。
そんな事を考えていたら週末が来た。約束のデートの日だ。
「お、お待たせ葉山君」
「さっき来た所だから待ってないよ」
ほわぁぁぁ! 私服の葉山君かっこよ! 大人っぽいシックな紺のジャケットに高そうなジーンズ。派手すぎないピンクのシャツが良く似合っている。。
対して私服の私ダッサ!! 所持している中でも一番良いのを引っ張りだしたつもり、だった芋いロンTと安そうなロングスカートは『まきむら』で買ったやつ。安くて良いんだぞ!!
…………あまりにも芋。芋が芋背負って歩いてるよコレ。イケメン男子と居る事より、自分が芋過ぎて恥ずかしくなる。……葉山君、こんなダッサいモブが来て後悔してない?? 別に期待をして来た訳じゃないけど、ガッカリされるのはやっぱり悲しい。葉山君の顔を見る勇気がない。
「私服の佐々木さん初めて見たから、ちょっと新鮮だよ。じゃあ、行こっか」
「あっ」
ごく自然に私の手を取った葉山君は歩き出した。あ、あれですかね? 芋の散歩みたいな感覚、ですかね?? ハハハ……。
どうしてもマイナス思考に陥ってしまう私は、葉山君の顔を恐る恐る見上げると葉山君が私を見ていた。
「俺、今日がめっちゃ楽しみだったからさ、来てくれて嬉しいよ」
「えっ?」
「ほら、目立つの嫌だって言ってたからさ。強引に誘っただけだから来ないかもって、ちょっと不安だったんだ」
ああ、確かにそれは有り得る私の行動だ。すいません恥ずかしいからやっぱり無理です。そんなメッセージを入れる可能性は十分あった。
そうしなかったのは、この男の子ともうちょっとだけ、仲良くなってみたいなと。そう思う気持ちが確かにあったからだ。
「ご、ごめんね。私はやっぱり目立つのまだ怖くて。……葉山君がやりたい様には、行かないかも、だけど」
「気にしないで。俺は佐々木さんが嫌がる事はする気ないからさ、嫌なら嫌ってちゃんと言ってね」
「う、うん。ごめ……ありがとう」
そんなに謝らなくて良いよと、少し前に言われたのを思い出した。ほんの些細な事かも知れないけれど、私もちょっとは成長出来たのかも知れない。
最初はぎこちなかった私だけれど、徐々に放課後に2人で居る時の、ちょっと楽しい雰囲気に包まれていった。
最近話題になっている恋愛ものの映画を2人で観たりしてみたけれど、案外悪くなかった。私はこう言うの楽しめないと勝手に決め付けていたけれど、普通に面白かったのは意外だった。感動のあまりちょっと泣いてた葉山君が、少しだけ可愛いなと思った。こんな顔もするんだね。
「いや~良かったよ。噂以上だった」
「そうだね。私も結構楽しめたよ」
映画館を出て2人並んで街を歩く私達。その頃にはもう、完全に緊張感は無くなっていて、自然な形で葉山君と会話する事が出来ていた。
「良かった、佐々木さんがこう言うの、楽しんでくれるか不安だったから」
「うーん、確かに自分からは観に行かないかも。私は恋愛した事ないから」
「もしかして、無理させちゃった?」
「だ、大丈夫だから! うん。自分でも驚いたけど、楽しめたよ」
「そ、そっか。なら良かった」
「私ね、あんまり好き好んで恋愛がテーマの本を読まないんだけど、これからはもうちょっと、読んでみようかなって思えたんだ」
そう、本当にそう思えたんだ。自分の様な陰キャモブが恋愛なんて、そう考えてこれまでは興味が無かったし、読んでも特に何も感じ無かった。でも今はそうは思っていない。
隣に居る凄く優しくてカッコイイ男の子が、私なんか好意を向けてくれたから、そう言うジャンルをもっと知ってみたいなと思ったのだ。あと、ガッカリされる様なリアクションをしてしまわない様に、勉強した方が良いかなとも思いました。
なんせ恋愛経験ゼロのモブ女ですから。無知なままで居たら、百年の恋も冷める様な失態を犯してしまう可能性がある。それだけは避けたい所である。黒歴史は増やしたくないから。
学校で人気の陽キャイケメンと平凡道を歩み続けるモブBな私とのデートは、思いの外順調に進んでいた。ファミレスでお昼を済ませ、アミューズメント施設でちょっと遊んでみたり、ショッピングモールを徘徊してみたりして。
直接聞いた訳じゃないけれど、葉山君も楽しそうにしてくれているし、私も凄く楽しめている。カナちゃん達モブ友と居る時と変わらないぐらいには、彼の前では自然に振る舞える様になったと思う。
改めて考えたら、こんな風に一緒に居てもいつも通りの私で居られる男の子は、葉山君が初めてだ。今までそんな人は居なかった。これが好きって事ではないかも知れないけれど、一緒に居て楽しいのだけは間違いない。
だからこそ、私は浮かれていたんだろう。大事な事を忘れてしまっていた事に。そして気付かされる時が来たんだ。学校の人気者と、ただのモブ女であると言う現実を。
「あれ? 真じゃね?」
「あ、ホントだ。葉山ー!」
「よっ、お前らも来てたんだな。」
「あっ……」
クラスメイトの陽キャグループが居た。こんな地味女と居る所を見られてしまった。一気に冷静にさせられる。舞い上がっていた気持ちは、瞬時に冷え込んでしまった。ど、どうしよう? 一旦私だけ何処かに、隠れるとか??
そう思った私は、急いで繋いでいた手を放した。葉山君は、どうやら察してくれたらしい。少し悲しそうだったのが、本当に申し訳ないけれど、これで良いんだ。きっと。
「珍しいな? 真が神田さん以外の女子と一緒なんて」
「ほんとだ。えーっと……あ、佐々木さんだっけ?」
「そうだ。俺が誘ったんだよ」
「ど、どうも……」
それだけしか言え無かった。こう言う時の正しい対応なんて知らない。ちょっと男の子に好意を向けられたからって浮かれていたんだ。
こんなもっさい陰キャモブな私と、一緒に居る所を見れたのは不味いだろう。自分がそう言ったんじゃないか、迷惑掛けちゃうって。
彼の優しさに甘えて、こんなデートなんてやっちゃったから、葉山君の評判に傷を付けてしまうんだ。私のせいで。
こんな奴居たっけ? 誰? なんでこんな女と? そんな風に見られているんじゃないだろうか?
そんな風に自虐的になって居た私は、いつも以上に暗くてジメジメした空気を纏ってしまう。そんな時だった。
「お、佐々木さんじゃーん! やほー!」
神田さん達ギャルグループがこちらに向かって歩いて来ていた。どうも陽キャグループで集まって居た様だ。
「か、神田さん。こんにちは」
「マコ~アンタちゃんとエスコートしてる?」
「それは、してる。……つもりだけど」
「…………は~~~ったくまだまだ甘いねアンタ」
突然現れたかと思えば、咎める様な視線で彼女は葉山君を見ている。
「なにがだよ」
「ちょっち佐々木さん借りるよ~」
「おっ、おい小春!」
突然現れた神田さんが、突然私の手を取ってどこかへ移動し始めた。
(なになになに??? 私どうなるの!?)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます