1章 第9話

「じゃあさ、ちょっと俺と出掛けない?」


 葉山君はやまくんの提案に乗って脱陰キャを目指し始めた私は、放課後彼と2人で話す事が増えた。交流を続けていたら、ある日週末に2人で出掛けようと、誘われてしまった。

 ……流石にここまでの流れを考えてみれば、ラノベの鈍感主人公みたいな思考は持てない。

 今まで神田かんださん以外の女子とは、殆ど関わらない事で有名だった葉山君が、強引に週末デートに私を誘うなんて状況で、今更そんなハズないとか勘違いだとか、察しの悪い天然ムーブをかます方が痛い奴だ。

 

 カナちゃん達には、チャンスだよと送り出された。やっぱりカナちゃん達の言う通り、葉山君はどうやらこんな陰キャモブ女に、ま、まあ何某かの好意を…………持っているらしい。それが『Like』なのか『Love』なのかは、私には分からないけれど。なんとも物好きな事だ。

 じゃあ私はどうかと言うと、正直なんとも言えない。葉山君の事は嫌いじゃないけど、好きかと言われたら悩む。でもあの時、河川敷で見た彼の弱い部分も含めて、私は嫌ってはいない。

 

 ただ、最近は放課後に1人孤独に過ごすのが、何だかちょっと寂しい気がする。葉山君は毎日来てくれる訳じゃないから、居ない時は何だかちょっと違和感がある。

 放課後に2人でいる時間が、とても楽しいとは思っている。でもこれが友達として楽しんでいるのか、好きな男の子と居る事を楽しんでいるのかはハッキリしない。

 そんな事を考えていたら週末が来た。約束のデートの日だ。

 美羽みう駅前で待ち合わせの約束だったから、予定時間の朝10時より5分ほど早く駅前へと到着する。5分前行動ってやつ。


「お、お待たせ葉山君」


「さっき来た所だから待ってないよ」


 ほわぁぁぁ! 私服の葉山君かっこよ! 大人っぽいシックな紺のジャケットに高そうなジーンズ。派手すぎないピンクのシャツが良く似合っている。。

 対して私服の私ダッサ!! 所持している中でも一番良いのを引っ張りだしたつもり、だった芋いロンTと安そうなロングスカートは『まきむら』で買ったやつ。安くて良いんだぞ!!

 …………あまりにも芋。芋が芋背負って歩いてるよコレ。イケメン男子と居る事より、自分が芋過ぎて恥ずかしくなる。……葉山君、こんなダッサいモブが来て後悔してない?? 別に期待をして来た訳じゃないけど、ガッカリされるのはやっぱり悲しい。葉山君の顔を見る勇気がない。


「私服の佐々木さん初めて見たから、ちょっと新鮮だよ。じゃあ、行こっか」


「あっ」

 

 ごく自然に私の手を取った葉山君は歩き出した。あ、あれですかね? 芋の散歩みたいな感覚、ですかね?? ハハハ……。

 どうしてもマイナス思考に陥ってしまう私は、葉山君の顔を恐る恐る見上げると葉山君が私を見ていた。


「俺、今日がめっちゃ楽しみだったからさ、来てくれて嬉しいよ」


「えっ?」


「ほら、目立つの嫌だって言ってたからさ。強引に誘っただけだから来ないかもって、ちょっと不安だったんだ」


 ああ、確かにそれは有り得る私の行動だ。すいません恥ずかしいからやっぱり無理です。そんなメッセージを入れる可能性は十分あった。

 そうしなかったのは、この男の子ともうちょっとだけ、仲良くなってみたいなと。そう思う気持ちが確かにあったからだ。


「ご、ごめんね。私はやっぱり目立つのまだ怖くて。……葉山君がやりたい様には、行かないかも、だけど」


「気にしないで。俺は佐々木さんが嫌がる事はする気ないからさ、嫌なら嫌ってちゃんと言ってね」


「う、うん。ごめ……ありがとう」

 

 そんなに謝らなくて良いよと、少し前に言われたのを思い出した。ほんの些細な事かも知れないけれど、私もちょっとは成長出来たのかも知れない。

 最初はぎこちなかった私だけれど、徐々に放課後に2人で居る時の、ちょっと楽しい雰囲気に包まれていった。


 最近話題になっている恋愛ものの映画を2人で観たりしてみたけれど、案外悪くなかった。私はこう言うの楽しめないと勝手に決め付けていたけれど、普通に面白かったのは意外だった。感動のあまりちょっと泣いてた葉山君が、少しだけ可愛いなと思った。こんな顔もするんだね。



「いや~良かったよ。噂以上だった」


「そうだね。私も結構楽しめたよ」

 

 映画館を出て2人並んで街を歩く私達。その頃にはもう、完全に緊張感は無くなっていて、自然な形で葉山君と会話する事が出来ていた。


「良かった、佐々木さんがこう言うの、楽しんでくれるか不安だったから」


「うーん、確かに自分からは観に行かないかも。私は恋愛した事ないから」


「もしかして、無理させちゃった?」


「だ、大丈夫だから! うん。自分でも驚いたけど、楽しめたよ」


「そ、そっか。なら良かった」


「私ね、あんまり好き好んで恋愛がテーマの本を読まないんだけど、これからはもうちょっと、読んでみようかなって思えたんだ」


 そう、本当にそう思えたんだ。自分の様な陰キャモブが恋愛なんて、そう考えてこれまでは興味が無かったし、読んでも特に何も感じ無かった。でも今はそうは思っていない。

 隣に居る凄く優しくてカッコイイ男の子が、私なんか好意を向けてくれたから、そう言うジャンルをもっと知ってみたいなと思ったのだ。あと、ガッカリされる様なリアクションをしてしまわない様に、勉強した方が良いかなとも思いました。

 なんせ恋愛経験ゼロのモブ女ですから。無知なままで居たら、百年の恋も冷める様な失態を犯してしまう可能性がある。それだけは避けたい所である。黒歴史は増やしたくないから。


 学校で人気の陽キャイケメンと平凡道を歩み続けるモブBな私とのデートは、思いの外順調に進んでいた。ファミレスでお昼を済ませ、アミューズメント施設でちょっと遊んでみたり、ショッピングモールを徘徊してみたりして。

  直接聞いた訳じゃないけれど、葉山君も楽しそうにしてくれているし、私も凄く楽しめている。カナちゃん達モブ友と居る時と変わらないぐらいには、彼の前では自然に振る舞える様になったと思う。

 改めて考えたら、こんな風に一緒に居てもいつも通りの私で居られる男の子は、葉山君が初めてだ。今までそんな人は居なかった。これが好きって事ではないかも知れないけれど、一緒に居て楽しいのだけは間違いない。


 だからこそ、私は浮かれていたんだろう。大事な事を忘れてしまっていた事に。そして気付かされる時が来たんだ。学校の人気者と、ただのモブ女であると言う現実を。



「あれ? 真じゃね?」


「あ、ホントだ。葉山ー!」


「よっ、お前らも来てたんだな。」


「あっ……」

 

 クラスメイトの陽キャグループが居た。こんな地味女と居る所を見られてしまった。一気に冷静にさせられる。舞い上がっていた気持ちは、瞬時に冷え込んでしまった。ど、どうしよう? 一旦私だけ何処かに、隠れるとか??

 そう思った私は、急いで繋いでいた手を放した。葉山君は、どうやら察してくれたらしい。少し悲しそうだったのが、本当に申し訳ないけれど、これで良いんだ。きっと。


「珍しいな? 真が神田さん以外の女子と一緒なんて」


「ほんとだ。えーっと……あ、佐々木さんだっけ?」


「そうだ。俺が誘ったんだよ」


「ど、どうも……」


 それだけしか言え無かった。こう言う時の正しい対応なんて知らない。ちょっと男の子に好意を向けられたからって浮かれていたんだ。

 こんなもっさい陰キャモブな私と、一緒に居る所を見れたのは不味いだろう。自分がそう言ったんじゃないか、迷惑掛けちゃうって。

 彼の優しさに甘えて、こんなデートなんてやっちゃったから、葉山君の評判に傷を付けてしまうんだ。私のせいで。

 こんな奴居たっけ? 誰? なんでこんな女と? そんな風に見られているんじゃないだろうか?

 そんな風に自虐的になって居た私は、いつも以上に暗くてジメジメした空気を纏ってしまう。そんな時だった。


「お、佐々木さんじゃーん! やほー!」


 神田さん達ギャルグループがこちらに向かって歩いて来ていた。どうも陽キャグループで集まって居た様だ。


「か、神田さん。こんにちは」


「マコ~アンタちゃんとエスコートしてる?」


「それは、してる。……つもりだけど」


「…………は~~~ったくまだまだ甘いねアンタ」


 突然現れたかと思えば、咎める様な視線で彼女は葉山君を見ている。


「なにがだよ」


「ちょっち佐々木さん借りるよ~」


「おっ、おい小春!」


 突然現れた神田さんが、突然私の手を取ってどこかへ移動し始めた。

(なになになに??? 私どうなるの!?)

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