最期の四方山話

駒井 ウヤマ

最期の四方山話

「なあ、ささくれ出来てたよ」

「それがどうした」

 ボーっとしているところに、いきなり声をかけてくる友人。だが、俺と話す糸口にしたいのならば、いかんせん内容が無さすぎる。

「いやさあ。やっぱ、こういうのは気付いたら気になってさあ」

「知らん。第一、どうやって気付いた?」

 鳥目の俺なんか、指先どころか一寸先すら満足に見えないのに。

「いや、なんかこう・・・違和感あって、触ったら分かった」

「はいはい。で・・・それを俺に言って、何の意味がある」

「意味なんて無いぞ。ただ、俺が言いたかっただけだ」

「あっそ」

 じゃあ、せいぜい黙ってろ。そう心の中で呟く。

「なんでだよ、今更」

「こんな時ぐらい、静かでいる方がいいだろう」

 それに、今が何時だと思ってやがる。

「こんな時も何も、時間なんてもうどうだって良いだろ、別に」

 こんな時だけ、気が合う。まったく、竹馬の友か腐れ縁か。

「ま、どっちだって変わりゃしないか」

「何が?」

「別に」

「それよりさ」

「何だよ」

「どうしよう、このささくれ」

 そこに戻るのか。散々興味無しと言ったろうに、懲りん奴だ、コイツは。

「知らんと言ったろ」

「でも、気になんだよ。剥けるかな?」

「止めとけ、止めとけ。痛いぞ」

「おお!痛え!」

 剥きやがった。コイツ、やっぱり本格的な馬鹿だ。

「痛えよ、痛え!」

「やっぱ、馬鹿だろ、お前」

 あ、口に出た。

「あーあ、やっぱりこんな真っ暗闇でやるもんじゃねえな。血、出たかな?」

「舐めてみろよ」

 そうは言ったが、まさかいくら何でも、コイツでも・・・。

「美味い」

 ・・・ホント、どうしよう、コイツ。

「いやあ、飯食ってないから何でも美味いな、こうなっちゃ」

「じゃあ、次は指か?」

 これは、ちょっとした皮肉の心算だ。

「馬鹿野郎。痛えだろう、そんなことしたら」

 そうかい。本気にするな、馬鹿。

「しっかし、どうする?寝る?」

「それもいいかもな」

 それに、どことなく頭がフワフワしてきた。

「あー、でもなー。寝て、起きれなかったら嫌だしな」

「まあ、そうか」

「そうだよ。こうやってさ、話していようぜ」

 確かに、こうして話しているだけで気が楽になるのは間違いない。

「そうだな」

「・・・ありがとよ。まあ、そうするにしてもさ・・・」

「ん?」

「話のタネが無くなる前に・・・・・・来ると良いよな。助け」


 漂流中の宇宙船アルゴ号が発見されるまで、あと10時間

 船内の酸素が無くなるまで、あと3時間

 そして。


「あー、腹、減ったなー」

「なー」


 2人が殺し合いを始めるまで、あと・・・?

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最期の四方山話 駒井 ウヤマ @mitunari40

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