ささくれとかさぶた

草凪美汐.

ささくれとかさぶた


 むかしむかし、あるところにおじいさんとおばあさんが住んでおりました。子供たちは大人になり、それぞれの家族と一緒に少し離れたところで仲良く暮らしていています。

 おじいさんも仕事を辞めて、何不自由なく気ままに暮らしていました。

 今日も近所の将棋友達のうちで、のんびり将棋を指しています。


「アロエの育て方、知っているかい?」

「分かるけど、どうしてだい?」

「ハンドクリームを作りたい」

 パチン。

「作る?買ったほうが早いよ」

「そうだけど、どうせ時間はあるし、無農薬とか、防腐剤が入ってないとか、そういうのが作りたい」

「奥さんにプレゼント?」

「まあ、水仕事で指先にささくれができているのを見ると、自分だけサボっているみたいで、でも、台所に入られるのは嫌そうで……」

「……うちのビニールハウスで育てるかい?」

 パチン。

「いいのかい?」

「そのつもりで、聞いたんだろ」

「悪いね、はい、王手!」

 パチン。

「おいおいっ」

 いたずらっ子のように笑う、おじいさん。



 それからしばらくして、ちょこちょこ出かけるようになったおじいさんを、心配になったおばあさん。

 いつもより帰りが遅いので探しに出ると、お友達のビニールハウスに入っていく姿を見つけました。

 おばあさんも忍び足で、ビニールハウスの中に入って行きます。

 奥のほうで、棚に並んだ植木鉢を、手に取っては何かを確認している様子。

 不思議な光景に我慢できず、

「あなた、何をやっているの?」

 思わず声をかけると、

「お前っ、なんで、わわっ」

 ふっくらと育ったアロエの鉢が滑って――――




「じいじ、お顔、どうしたの?」

 遊びに来た孫が、心配そうにおじいさんを見上げて言いました。

「大丈夫、しくじっただけさ」

 鉢をかばってアロエのトゲできた、かさぶたを恥ずかしそうになでた。

「おじいさん、先にどうぞ」

 二人で作った出来立てのクリームの小瓶を渡す。

 しわくちゃの顔をさらにしわくちゃにして、おばあさんは笑っていましたとさ。



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ささくれとかさぶた 草凪美汐. @mykmyk

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