第20話 竜が喜んでいる
【朗報】竜である俺氏、人の言葉を覚える【あいうえお】
いや~……まさかこんな短時間で理解できるとは……。
数日……いや一週間以上は経ってるか?
1日何時間か、連れ帰った金髪の女性……「ミコ」と言う名前だとわかった。
竜巫女かな?……と異世界会話教室を行っていたのだが、一度言われたことは一発で覚えられたし……なんなら前後の単語から今どういう話をしているのか、どういう表現をしているのかを類推して、そうして細かな違いも話しながら脳内で補正が掛かっていくのだ。
まず言っておくが、俺は前世において天才ではない。
受験英語を習って、第二外国語で「かっこいいから」って理由でドイツ語を学んだだけの一般学生に過ぎない。
日本国内で海外観光客から英語で話しかけられても「I am a pen.」としか言えないし、他に知っていて辞書も読まずスマホも見ずに書ける英単語なんて「Pen」「Pineapple」「Apple」「Target」「Body Sensor」「EMURATED」くらいしかないのだ。
というか外国語以前に日本語すら満足に扱えているのか、自信がないレベルである。
そんな自分が、数回会話しただけで単語を覚えていき、ごく短時間で相手が何言っているのかまでわかるようになるとは。
……ドラゴン脳みそがすごいんだろうなあ。
これは疑いようがない。
確かに最強の力を振るうのに、全知全能には及ばなくとも、高い知識が無ければそれを効果的に振るうことはできない。
力任せにブンドドするよりも、頭を使ってズンドコするほうが効率的に戦えるのだ。だから知能が高いんだろう。
それなのに異世界語を知らなかったのは……流石に知らない・習う気がないものは覚えないからか?
あれだ、
「御方。お待たせいたしました、こちらを献上いたします」
ミコさんがそう言いながら、お皿……騎士が周囲に座りそうな円卓くらいの大きさ。ミコさんが岩を削って作ったものである、素手で……の上に焼肉を乗せて持ってくる。
そう!焼いた肉!料理である!
俺は自分のおつむについての考察を投げ捨ててミコさんを待つ。
下手に移動すると、その速度と質量のせいで突発的な風が巻き起こされて料理どころかミコさんごと吹き飛ばしかねない(1敗)ので、ここはドデン!と待つのが正しいのだ。
そして目の前に置かれた、毛皮とか羽毛とかをしっかり除去し、頭とか腸とかを切除し、血抜きもして、その上で火を通した肉が出されたので、俺は食欲の赴くままにそれを食い始める。
うおぉぉん!俺は肉食ドラゴンだ!
そう、ミコさんに来てもらって良かったのは、異世界会話教室ともう1つ……料理である。
森に近い村の出身のためか、彼女は肉を加工して食べる方法をちゃんと会得しているのだ。
もう適当にその辺の雑魚魔物をぶち殺して生肉を咀嚼するだけの日々はおさらばなのだ!
火でちゃんと両面焼いてある焼肉を食えるのである!
いやもう、感動したね。
ドラゴンが涙を出せるなら多分滂沱していたと思う。
文明の味がしたわ。
おまけに、これも村で培った知識なのか、香辛料っぽい味がしたのだ。
胡椒と言うか塩というか……オールスパイスに近い味わいか?
多分ドラゴンウンコの樹海に生えていて、使えそうな植物から回収してきたんだろう……やだもう、最高、かわいい。
それにしても、この食肉加工された魔物を仕留めたり、岩を素手で皿にしてみせたり……異世界人って結構強いのか?
少なくとも俺の前世の日本人よりは遥かに強いだろう。
多分、前世の俺とミコさんが戦っても33-4で負けると思う。
ちなみに4というのは毒とか爆発物とか可燃物とか、俺が周囲への被害とか金銭的な損耗とか自分の命とかを度外視してなりふり構わず動いた中でこれなら勝てるかもしれん、という要素を加味したものだ。
真正面で「はい、よーいスタート」で始めたら絶対に勝てないと思う。
とにかく、こうして俺の文明レベルが一気に上がったのだ……いやあ、ミコさんには感謝してもしきれないな。
そう考えると、何かお返しをしたいところだが……。
グルルル……(何か欲しいものある?)
俺が思案しながら……唸り声をあげ、ジッとミコさんを見る。
が、ミコさんはその場で平伏してしまった。
そう、俺は異世界の言葉を理解することこそ出来たが……逆に、俺の言葉は彼らには伝わらないのだ。
まあ、それもそうだわな……ドラゴンの身体では人間の言葉を発音しようとしても無理なのだ。
身体の作りが違う。
声帯は……あるのかどうかわからないが、俺が挙げられるのは精々唸り声とか叫び声とかくらいだ。
唸り声のトーンによって喜怒哀楽程度なら、ミコさんもなんとなく察してくれるようではあるが、会話は不可能である。
折角言葉を覚えたとはいえ、あんまり無理はできないなぁ……まあ歓迎されていないようなら即逃げるって判断が出来るようになっただけでも大分マシになったんだけれど。
ミコさんに何かにお返しをするというなら……正直、俺ではどうにもできない。
最強の力を手に入れたが、できることは何もないのだ。
ミコさんが使うベッドとか道具すら作れねえし、ありがとうって言いながら頭ポンポンすることもできないのだ。
俺が頭ポンポンしたら頭蓋が破裂する未来が見える。
ではどうするか、といったら……人間に頼むしかないわけだな。
ただ、完全な意思疎通ができない以上、ある程度俺が受け入れられそうな場所……となると、ミコさんのいた村になるか、そっちに行ってみるしかないかなあ。
うーん大丈夫かな……ミコさんって生贄なわけだろ?
そんな人を村に連れて行っても大丈夫か?
かといって、流石にミコさんをここにおいて俺一人で行くわけにもいかんしなあ。
盗まれるようなモノなんてないが、周囲が樹海に覆われてるこの場所で女性一人を放置とか人道に反するだろ、俺ドラゴンだけど。
……連れて行くしかないか、もしマズそうな反応だったらさっさと帰ろう。
そうと決まればミコさんを乗せて……大丈夫だよね?落下しないよね?確認、ヨシ!
じゃあ向かうか、里帰りってやつだ。
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