第7話 竜が眺める

青い、青い空を俺は高く飛びあがる。

そして雲が見えてきたあたりで体勢をかえ、ぐるりとその場で首を回した。



ギャアギャア!!と叫ぶような声が聞こえる。

見れば鳥が数羽、ちょうどこの場所を飛んでいたらしく、俺を威嚇するために翼を大きく広げ、鋭い爪を持った両脚を突出す。


グルァァァ――――ッ!!


が、俺が一声咆哮してやると、鳥たちは泡を食ったように体を拗じらせ、威嚇とは違う情けのない叫び声をあげて逃げていった。


この辺りは、こういう見るからに凶暴な生物が多く住んでいるのだ。

ゲームの後半に出てくるような強力なザコモンスターのような感じで、流石は異世界の森の奥地だと感心した。


大抵の場合は、俺が一声かけてやれば今の鳥のように全力で逃げ出すんだが、まれに俺に突っ込んでくるような気合の入った敵性生物なんかもいた。

前世で言うところの虎とか豹みたいな見た目の動物とか、あるいはガチムチのファンタジーに出てきそうな魔物みたいなやつとか。


そういうヤツは、魔法を始めとした自分の能力を調べるための実験台兼俺の食事になってもらったんだが……いやー、マジで相手にならんかったな。

魔法を使えばどの属性のものでも一発死ぬし、ものすっごい手加減して引っ叩いても、思い切り体を拉げて絶命してしまうのだ。


見た目の割にクソザコナメクジ……なのではなく、俺が意味不明に強すぎるせいなんだろうけれど。


話を戻すが……そう、実験台かつ食事である。


ドラゴンとはいえ生き物なのだから、普通に食事もするし排泄もするし寝るのだ。

ドラゴンウンコとか結構な値段で売れそうだよな。


だが、食事と言ってもぶち殺したヤツの生肉をそのままかじるしかない。

せめて焼いた肉を食べたいんだが……火の魔法を使うとウェルダンを通り越して炭になってしまいそうだし、そもそも範囲がでかすぎて肉ごと森を焼き払ってしまいかねない。焼肉焼いても森焼くな。


今のところ、生肉を食っても腹が下ったとかそういうことがないのが救いだけれどな。

ドラゴンだし頑丈な身体っていうか、胃袋を持っているんだろうきっと。


まあでも、調理した肉が食いたい……そもそも血抜きとかもしてない、できないから美味しくないんだよな。


ドラゴンの身体なのに味覚は人間のままなんだろうか?

それとも俺の記憶のせいでドラゴン目線で普通に食えるものを不味いと認識してしまうんだろうか?本当に弱ってしまう。



まあ、でも。



俺は改めて、ぐるりと首を回し周囲を見やる。



こうやって翼を羽ばたかせて空を飛ぶのは、やはりとても気分がいい。

雲をすり抜けて、白と青の間を抜けて、両の翼が風を切り白い線をなびかせる。


……やっぱり、空は良い。


最初こそ我慢しようとしていたけれど、それは無理だ。

ずっと洞穴に籠っていて酷くストレスが溜まっているのも解る。


異世界に来たのだ、何をどうあがこうと、俺はこの世界で生きていかねばならない。

戻る方法があるならば探しもするだろうが、女神のあの話ではそれは不可能だろう。


人間との最初の接触が最悪だったのは覆しのしようもないけれど、ずっと関わらないように生きていくのは不可能だろう。

どうにかして、コミュニケーションを取らないといけない。


……とはいえ、最初に見つけた都市は、俺がやらかして叩き壊してしまったので、それ以外の場所へ行こう。

またそっちに飛んでいって、もし見つかりでもすれば、今度こそ間違いなく異世界の敵認定されるだろうし……いや、既に敵認定されてるかもしれないが。


目を細める。前世とは比べ物にならないほど、今の俺は目が良い。


流石にこの高度から森の中で自生する野苺ワイルドベリーを見つけろ、というのは不可能だが、都市くらいの大きさのものであれば発見できる。

あくまでドラゴンの身体能力がズバ抜けているだけで、例えば千里眼みたいな魔法めいた特殊能力ではないのだけれど。


マサイの戦士とかなら、こんな感じに世界を見られるんだろうか?

いやマサイの戦士は空飛ばないか?飛べるのか?



……さて。


ここから見て、森を抜けた先……開拓村があって、さらにその奥の平地……見えた、あれが最初にいってやらかしてしまった都市だ。

よし、それならそっちとは逆の方向に向かってみるとしよう。


よし、全速前進だ!!

……ってやると、なんかヤバいことになりそうだな……音速とか超えたりしそうだし、衝撃波とか出しそうだ……よし、まあ景色も楽しみたいし、のんびり、ゆっくり行こう。



さてさて、都市の反対のこっち側は……森が続いてて……お、抜けたな。

山や丘も見える。


それであれは……都市かな?いや、お城か!はえーすっごい……真っ白だなあ、白亜の城ってやつ。

もしかして大理石とかでできてるのかな?でも大理石って強度どうなんだ……?あーいや、異世界なんだから、もっと違う物質かもしれないかな?それこそ霊銀ミスリルとかかもしれない。


でも立派なお城だなあ……前世の首都にはないのに首都の名前を冠したネズミーランドのお城くらいしか見たこと無いけど、やっぱりそれと比較して威厳というか、荘厳さが違うな。王国とかの王城とかなのかもしれない。

もっと近くでじっくりと観察したい……けど、間違いなく大騒ぎになるよな。


うん。

高度をもっととって……雲に隠れてバレないようにして通り過ぎよう。



さて、他にも都市とかがあって……お?青いものが見える。



海だ!



うわー凄いな、異世界の海だ!

異世界の海も青いんだなー……緑とかならともかく、ピンクとか黄色の海水とかもあり得るのかなって思っていたけど。


この世界の海の水も塩辛いのかな……お、沿岸に都市がある。

塩田っぽいものも見えるし、やっぱり塩辛いんだな。


港もあるし船も、あるのか。

まあ船なんて紀元前からあるしそりゃあそうだろうけど……船は結構しっかりとした帆船か。


マストに書かれているのは……百合と剣?

なんかのエンブレム?停泊してる船にもついてるし、国家の紋章かな?


しかし船がガレオン船……いや、キャラック船って言うヤツだっけ?

結構立派なやつだ。そうすると文明レベルは中世後期くらいなのかね?



船があるなら、ひょっとしてこの向こうに大陸とかあったりするのか?



折角だし、このまま海の向こうまで行ってみるか!

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