第19話:二人で回る夏祭り&射的

「どうしました兄様?」


 心配そうに上目遣いでこっちを見てくる我が妹。

 それは可愛いが、あまりにも今の俺には不味い……というか、今更だけれど文乃の浴衣似合いすぎでは? 


 清楚だし可愛いし、何より少し見えるうなじが……じゃない。

 不味い、顔が赤くなってくる。というか、気付けばドキドキと心臓が脈打つのが分かる。


「兄様、お祭り楽しみましょう?」


 楽しそうに妖艶に笑う文乃。

 その表情は、獲物を前にした捕食者のようで、原作そして今まで過ごしてきた中で一切見たことのない表情。あまりにも綺麗なその顔に見惚れきった俺は、


「……分かった」


 そうやって言うことしか出来なかった。


 二人っきり祭りを回ること数分、食べ物の屋台で食べ歩きをしていると射的の屋台が見えてくる。その屋台はここら一体では一番の賑わいを見せていてちょっと気になってしまう。


 射的の屋台を見るのは久しぶり、中学一年の時には出されていたが、残り二年間は見てなかったことを覚えている。


 それに加えて最後にやったのは小学校六年生の頃、つまりは文乃達と四人で祭りで遊んだ以来だ。あの時はまだそこまで能力が高くなかったせいで全然取れなかったと記憶している。

 リベンジも兼ねてせっかくなら遊びたい。


「あ、射的ですね兄様」


 俺の視線が向いていた先を探ってか、何を見てたか知っただろう文乃はこう続けてくる。


「もしかしてやりたいのですか?」

「そうだけど、いいか?」

「はい、構いませんよ。私も気になりますし」


 それなら最初は文乃にやって貰おう。

 射的の屋台に近付いた俺達、とりあえず文乃分のお金を払って遊んで貰う事にする。とりあえず、六発分の弾と銃を受け取った俺は、文乃用の弾を装填し彼女に手渡した。


「自分で出来ますのに」

「いいから、楽しめよ文乃……というか、どれ狙うんだ?」

「あれ……です」


 あれ、と文乃が指を差したのはぬいぐるみと書かれた木の札。

 よく見ればこの射的では大きい景品は札になっているようで、他にも色々な物が用意されている。ぬいぐるみというのが恥ずかしいのかアレとだけ伝えてくれた文乃を可愛いと思いつつ、俺も俺で狙うのを決めることにした。


 特に欲しいのはないが、目を引くの札が一つ。

 それは明らかに倒れる様子のない鉄の札、それにはシークレットと書かれており、俺の興味を引いた。思えば、他の客はこれを狙っていたようだし余程いい物なんだろう。


 文乃の番が終わったら俺もそれを狙おうと思ったので、お金を用意しつつ文乃の勇士を見守る事にした。

 でも、ああいう木の札の景品って落としづらいし手伝うのもありか? とか思っていたが、俺は忘れていた。


「あ、取れましたね」


 文乃は天才だと言うことを。

 たった三発で木の札を倒した文乃は、見事大きな熊のぬいぐるみをゲットした。

 もう遅いが、射的というのは奥が深い。

 銃の角度や癖を見極め、威力や発射速度を計算しなければ景品には当たらないようになっている。出来なければ教えようと思っていたが、この様子だとそれは無駄な考えだったらしい。


「……初めてだよな?」

「はい、昔兄様がやってたのを見てただけです」

「……流石文乃」

「兄様、欲しい景品ありますか?」

「ないが、気になるのはシークレットだな」

「取ります」


 俺の一言でメラメラと闘志を燃やす文乃。

 流石に無理だろと思ったが、的確に鉄の札を撃ち抜き惜しいところまで持ってった。


「取れませんでした」

「そりゃそうだ。だけど後は任せろ」


 ここまで妹にやって貰ったのだ。 

 取らない訳にはいかないし、何より他の客に取られたら悔しい。

 だから俺は店主に代金を渡して、射的に挑戦する事にした。


「二撃必殺」


 一発目を中心にそれで銃の癖は把握した。

 それに、速度は他の客と文乃を見て大体予想が付く。

 あとは風のタイミングを待って吹き終わったところで引き金を引けば。


「よし、完璧」


 宣言通り二発で落とした。


「まさか落とされるなんてね。はいこれ、彼女さんにあげるといいよ」

「彼女じゃないです」


 射的屋のお姉さんにそう言われるが、俺と文乃は兄妹なので否定する。


「そう? 仲良さそうに見えたけど、じゃあ尚更これが使えるよ。頑張ってきな」


 渡されたのは黒いケース、あまりの高級感が溢れるそれに一瞬気圧される。

 試しに開けてみれば、そこには銀色の椿の花があしらわれた金串の簪。あまりの高級感溢れるそれに、本当にこれ祭りの景品か? と思ってしまう。


「私簪職人でね、今日は祭りにとっておきを持ってきたのさ」

「貰っていいですか?」

「そりゃあ取られたからね。またね男前、詰まってるから行った行った!」


 背中を叩かれ、文乃の元に戻される。


「兄様、景品はなんだったのですか?」

「えっと――ちょっと待て」

「む、教えてください」


 そこで思い出した事がある。

 簪って何か送る意味があった事に。詳しい意味は分からないが、結構恥ずかしい意味だった気がするし、これはこのまま渡していいのか?


「ゲームだったよだから家でやってみる」

「そうですか、お祭りの景品にしては豪華ですね」

「……そうだな」


 俺が持っていても意味ないし、文乃にはあげたいが……流石に意味を知らずに渡すのは愚策。これで変な意味だったら文乃にも悪いからだ。

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