KAC20244ささくれ

綾野祐介

KAC2044ささくれ

「痛てっ」


「隆志、どうしたの?」


「ああ、ちょっとこのささくれで指切った」


 持った板の一部がささくれ立っていたのだ。


「気を付けなさいよね。それはそうと、さっきから何を作っているのよ」


「何って、箱?」


「私に聞かないでよ、隆志が作ってるんでしょ?」


「ただの箱さ」


「こんなに大きい箱を作って何を入れるつもり?」


「これをベースに収納機能の付いたソファーを作るのさ」


「へぇ、そんなのできるんだ。でも隆志、そんな趣味あったのね。付き合い出して2年になるけど全然知らなかったわ」


「久しぶりにやってみようって思ってな。昔はよく椅子とか作ってたんだよ、もうこの部屋には何も残ってないけど」


 俺は割と学生の頃からよく自分で何でも作っていたのだ。


「ふぅん、そうなんだ。ねえねえ、ソファーの柄は選ばせてよ」


「ええ、柄も含めて作品なんだけど」


 俺は貼るつもりのないソファーの柄にも拘った。深雪からは『変なところに拘りが多い』とよく嫌がらるところだ。ただもし本当にソファーを作るなら深雪の趣味の柄は絶対に避けたい。


「仕方ないな、今度布を見に行くとき付いてくればいいよ」


「ほんとに?やったー」


 深雪は単純だ。普段はただの可愛い女なのだ。ただ一つ何かでスイッチが入ると途端に重い女に豹変する。


 深雪の『いつまでも一緒よ、絶対に別れないからね』という言葉はもう口癖になっている。


 深雪は日に日に重くなってくる。特に最近は結婚を急かしてきている。自分が三歳年上なのを気にしているようだ。


 俺は本来年齢なんて気にしないんだが、相手が気にしていることに気が付いてしまうとウザく思えてしまう。


「潮時か」


 多分使い方を間違っている言葉を吐いて俺は決心したのだ。


「ん?何?」


「いや、この部屋もそろそろ引っ越そうかな、とか思ってさ」


「えっ、なんで?深雪と付き合いだしてからずっとここだったじゃない」


 それが理由だよ。


「よし、箱は出来た」


 俺は深雪を入れる箱を完成させた。

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KAC20244ささくれ 綾野祐介 @yusuke_ayano

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