Ⅱ.史上最強のボス

【BRAVERY&BOND】―—冒険者が自由に世界を巡る中で巻き込まれることになる敵との戦い。悪に染まったボスが、己の力で世界を牛耳るために生み出したモノこそ、人成らざる姿をした魔獣だ。色別で強さや特性が異なり、最下層に分類される白魔獣、次いでグレー魔獣、緑、黄色、赤とレベルが異なる。中でも強敵とされるのが黒魔獣だ。俺自身、この黒魔獣には何度もこてんぱんにされ、見つけては戦わずして回避する術を駆使していた。


 そして黒魔獣よりも厄介かつ強敵だったのが、他でもない悪に染まりきったボス―—炎魔だ。


 炎魔が繰り出す炎を上手くかわしても、手に持つ武器金棒で一撃を喰らえば即ゲームオーバー。炎魔の体力を俺が必死こいて削りに削っても、第二形態になると攻撃力が割増する上に、動きが速くなるため攻撃をかわせなくなる。いかに仲間を集め、協力するかが肝心となるゲームだ。


 偉大なる悪の頂点に立つ炎魔だが、彼自身が望んでなった訳ではないところが、このゲームの魅力とも言えるだろう。


 魔獣と人間の間に産まれた炎魔―—。

 身内や周りに虐げられ続けた結果、負の感情が爆発。その結果、悪に染まることとなり、世界を牛耳るまでに成長したのだ。

 その一方で、炎魔を裏で操りながら世界を牛耳るタイミングを見計る真のボス―—裏ボスがいることがゲームを進めるうちに明らかとなる……。


 悲しいことに俺の場合、真相が明らかとなる前に息絶えたため、結局のところ誰が裏ボスなのかわからないままだ。調べれば情報は得られるだろうが、俺はそういった情報を得るより、自分自身の目で確認したい派だから、……こればかりは仕方ない。




》》》》》


 さて、そんな悪に染まりきった史上最強の炎魔……のはずなのだが、俺の目の前にいる炎魔からは全くと言っていいほど想像ができない!


 手に持っている金棒は、なんとな~く記憶に残る強力な武器に似ているのだが、どうも色合いが違うように思えた。


 料理を口一杯に含み、モグモグしていた炎魔に俺は訊いてみた。


「なぁ、炎魔」

「んぎ?」

「……飲み込んでからでいい」

「んぐ……ぷはぁ。ふぅ~、トラ、お待たせ」

「その……炎魔が持ってる金棒って、結構強力なの?」

「あぁ、これ?これはね、まだそんなに強くないよ。この間この形になったばっか」

「へ、へぇ~」

「あっ!!」

「急に何っ?!」

「そういえば、トラ、何にも武器持ってないじゃん!あっぶねぇ。このままだ魔獣に遭遇したら俺ら終わりだよ~」


 そう言いながらも、目の前に残っている料理に手を伸ばそうとする姿は焦りなど感じていないように思えた。


 『武器』——この世界で生き抜くには欠かせない物だ。俺が知る限り、各地に点在する『よろず屋』を初めて訪れた際に選ぶことができる。武器を使い、ケモノや魔獣討伐をする度に武器のレベルが上がり、炎魔の金棒のように形も変わるため、武器の外見で大体の強さがわかる。


 前世で俺が相棒として選んだ武器は、レベルを最大まで上げたにも関わらず炎魔には敵わなかった……。


――敗因はわかっている。仲間集めが下手くそだったんだ。攻撃力ばかりを重視しすぎた結果、回復することができずにゲームオーバーを繰り返していたんだ。何事もバランス良く組み合わせないと!


 俺はテーブルに頬杖をつき、黙々と料理を平らげる炎魔の姿を呆れるように見ていた。


「しっかしよく食うな」

「トラが食べなさすぎなんだよ」

「いや……結構食ったぞ」

「俺様、まだまだ食えるぞ!」

「この先、どんだけ作らなきゃいけないんだろうな……。なぁ、こっから近いよろず屋があるのはどこだ?」

「そうだな……山の麓にある街『ハイールラ』じゃねぇか」

「あぁ……わかった。それを食い終わったら出発しよう」

「うぃ!」


――ハイールラには、情報屋として名高いがいる。よろず屋で必要な物を揃えてからこの世界の情報を集めよう。


 俺は、炎魔が食べ終わる少し前に食器などの後片付けに取り掛かることにした。


「そう言えば聞いてなかったな」

「おん?何を?」

「俺は、炎魔の舌は納得させることができたのか?」

「あははははは……んなこと言ってたね~満足しました。ご馳走様でした!」

「うっし!」


 俺は小さくガッツポーズをとった。


「トラの料理、まじで旨かった!今度は俺様がトラに作ってやるな!」

「……それは遠慮しとくわ」

「はぁあ?何でだよぉ!」


 片付けをしている俺の脇を炎魔はツンツンと小突くが、俺は無視し続けた。


 炎魔の料理はただただケモノを丸焼きにするだけの、『ザ・男飯』だと言うことを知っている俺は、何が何でも食事担当にはさせないと心に強く誓った。


「おし、片付け終了。炎魔、行けるか?」

「おうよ!」


 金棒と携帯食を手にした炎魔も、出会った頃に比べると随分顔色が良くなっていた。




》》》》》


 俺たちの旅は、こうして幕開けた。










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