永遠(とわ)の友情∞尊し絆 ~ゲームの世界に転生した俺が、攻略対象のボスとタッグを組み、裏ボス攻略に臨む!!~
虎娘ฅ^•ﻌ•^ฅ
Ⅰ.転生先での新たな出会い
ピロピロリリーン——
明るいメロディを鳴らしながらテレビ画面に映し出された『☆CONGRATULATIONS☆』の文字。
全クリするのに要した時間——実に240時間。俺としては時間をかけすぎた。いつもならこういったアクションRPGは貫徹2日でクリアできる、はずなのに仕事に時間を取られた。
『働かざる者、食うべからず』——
亡き親父が俺に言い残した言葉に縛られ、俺はこうして親父が遺した小さい洋食店を切り盛りしている。
知名度の高い店ではないが、昔ながらの馴染み客が厚意で足を運んでくれる限り、俺は料理を振る舞うのだろうと思っていた。
営業時間はランチタイムのみ。仕込みなどに時間は掛かるが、俺は日々充実した生活を送っていた。
そんな俺が楽しみにしていること——それが最近発売された【
発売前から話題となっており、予約だけで完売した代物だ。かくいう俺も、発売が決まってすぐに予約をかけた。
こうして手に入れたゲームを楽しみに、忙しい日々を過ごしていた。
そんな楽しい日々にも終わりは訪れるもので、長きに渡るボス戦を終えた俺は、コントローラを手離し、その場で大の字に寝転がった。
「終わったぁ~あのボス、めちゃくちゃ強ぇよ」
誰もいない室内に響くのは、ゲームのエンドロール曲だけだった。
——そういや、このエンドロールの後に裏ボスルートが解放されるんだったよな。よし、エンドロールが終わるまでに便所に行っとくか。
そう、この選択が間違いだったのだ……。
部屋を一歩出ればすきま風で冷えきった廊下となり、俺は縮こまりながらトイレへと急いだ——。
「くっ……寒っ」
ドクン、ドクン——
ドッドッドッドッド——
ドドドドドドドドド——
「ひっ……く……ひぃ……っく」
——何かがおかしい。思うように息が出来ない……。
「……くっ……」
目の前の視界が歪み、その場に倒れ込んだ俺の意識は——途絶えた。
》》》》》
『START NEW GAME』——。
「おーい」
——なんだ?声が聞こえる……。
「おーいってば」
——どこか聞き覚えのある声……。俺を呼んでいるのか?
「ったく、いつまで寝てんだよっ!」
ドッスン——
近くで何かとてつもなく大きな物が落ちる音に驚き、俺は目を覚ました。
「うわっっ!」
俺の横には刺々しい金棒が地面にめり込んでいた。
「えっ?何っ!?ってか、息……苦しくない……俺……生きてる?!」
「やっと目ぇ覚ました」
——ん?この声、どこから聞こえるんだ?
周りをキョロキョロするも、人影は見当たらない。
「よっ、っと」
掛け声とともに、真上から降りてきたのは——
「っっ!?」
「お前、よくこーんな所でぐーすか寝れるなぁ」
目の前に現れたのは、炎が燃え盛るような赤い髪、短めの髪の間からはひょっこりと黒い角が2本生えた、俺と同い年くらいの青年の姿だった。
「なんだなんだ?そんなにまじまじと見て……俺様の顔に見惚れてんのか?」
「はっ!いや……そんなんじゃないっ!」
「くははははは、変な奴~」
聞き覚えのある声、見覚えある姿——。
まん丸な瞳の色は漆黒と赤のオッドアイ、八重歯が特徴的な彼こそ、俺が前世でプレイしていた【BRAVERY&BOND】攻略対象のボス―—
―—いや、炎魔がいるわけないだろ……しかも、見るからにボス感がない!!どう見ても俺より年下にしか見えない!!
「それよりも……まずは状況を確認しないと……俺は生きているのか、それともここはあの世なのか……にしては、手足の感覚がある。っつか、死んだら感覚なんてなくなるんじゃないか?知らんけど……そもそも俺は何で死んだんだ?……あぁ、ヒートショックか」
一人でにぶつくさと呟き、ある程度納得したところで、俺はまず、自分自身の置かれている状況を確認しようと思った。
くんくん――
目を閉じ、周囲の匂いを嗅いでみる。
――草木の香りに、……ん?何やら焦げ臭さが混じっている……?!
はっ、と目を開け、周囲を見渡してみると、俺のすぐ近くに大きな物体が丸焦げになり横たわっていた。
「ぐっ……なんだ……これはっ……」
「それか~?俺様の獲物」
「……そういやぁ、こいつの存在を忘れていた……」
「お前、さっきからな~にぶつくさ言ってんの?表情もコロコロ変わるし」
「あのさ、確認のために聞いてもいいか?……お名前は?」
「俺様、やっさしいから答えてあげる!俺様の名は、炎魔だ!炎を自在に操ることができて、すんげ~強ぇんだぞ!」
「……やっぱり……はい、それは存知あげております……これはやはり……そういうことなのか。……いや……まだそうと決まったわけではない」
口元に手を添え、俯きながら考え込んでいると、炎魔が俺のことを覗き込んできた。
「ところでさ、お前、名前は?」
「うわぁっっ!」
すぐ近くに炎魔の整った顔があり、驚きのあまり俺はその場に尻もちをついてしまった。
「ぎゃはははは、そんなに驚くことかよ~」
「し、仕方ないだろ……まだ色々と混乱してんだから!」
「ふ~ん。……でさ、さっきの答えは?」
「へ?……さっき?」
「な・ま・え、お前の名前を教えて、ってつったじゃん」
「あ、あぁ……悪い……俺の名はトラガ。その……よろしく」
「おうよ!よろしくな!」
ニカっと笑う彼の表情に思わずドキリとしたが、このことは伏せておこうと思った。
「ほ~ら、いつまでも座ってねーで立てよ!」
差し伸べられた炎魔の手を掴むと、彼はひょいっと、俺を引き上げた。
「さて、俺様はこれからこいつを食うんだが、一緒に食うか?」
地面に突き刺さっていた金棒を容易に持ち上げた炎魔は、マル焦げになっていた物体を指し、俺に尋ねてきた。
ぐ~きゅるるるる――
慌ててお腹を押さえるも、時すでに遅し……。
――まさか……タイミングよく俺の腹の虫が鳴き出すなんて……
「聞くまでもないな!ぎゃははははは」
「……お言葉に甘えていただきます」
「おうよおうよ!この俺様の手にかかれば、とびっきり美味い料理に変身さ~」
――いや……待てよ……俺の知る限り、ここは俺がプレイしたゲームの世界。そして目の前にいるのはあの炎魔だ!こいつに任せるとろくでもない料理になっちまう!
俺の脳内で高速的に思考を巡らせた結果——。
「炎魔、料理は俺がする」
「えぇ~俺様がぱぱぱっと作ってやるって」
「いや……俺、料理には自信あるから」
「そんなひょろひょろなのに~?」
「今から言う物を拾ってきて。ここらにはたくさんあるだろうから」
「俺様をこき使うなんて……トラガ~お前ぇさん、いい度胸してんなぁ!俺様の舌を納得できなかったら……その時は覚悟しとけよ!」
ぎろりと俺を睨みつける炎魔だったが、俺には彼の舌を納得させる自信があった。
「その前に、この塊……ちょっと細かくしてくんないかな。あそこにあるナイフでは切れないしし、このままの大きさだと料理しにくい」
「ぐぬぬぬぬ……」
「ほぉら、急いで急いで」
納得できない表情の炎魔だったが、俺は気にすることなく次から次へと頼み事をした。
この世界は、いわば
料理は体力を回復するために必要不可欠なスキル。そのため、冒険者のためにあちらこちらに料理ができるスペースが設けられている。残念なのは、調味料などの物資は自ら調達しなければならないこと……。だが、場所さえ把握していればここには豊富な資源があるため、調達には困らない。
――なんとなくではあるが、この状況は受け入れた……。あとは、ここが本当にゲームの世界なのか証明できれば俺自身も納得できる……だろう。
「トラガ~。言われた通り、取って来たぞ~」
両手いっぱいに頼んだ物を抱えた炎魔がトテトテと戻って来た。
「ありがと」
取って来た物を空いてるスペースに置いた炎魔は、俺の方を見るなり少しだけ不機嫌そうに言った。
「んで、……このあと俺様は何をすればいいんだ?」
「炎魔にしかできないことをお願いしよっかな~」
「おっ!俺様にしかできないことか!なんでも言ってみろ!」
――ちょろい。
「じゃあ、あそこ……鍋置いてる下に、炎魔特製の"火"をお願い」
「んがぁああああ!もうっ!わーったよ。出せばいいんでしょ、出せば!」
「助かる~」
具材を詰め込んだ鍋に炎魔の火が点け加えられ、次第に中身がぐつぐつと煮え始めた。
「すっげぇ旨そうな匂いがする~そういや、お前に頼まれて取ってきた素材、あんなに量あったのに、全部使ったのか?」
「そうだよ。……別にこの料理にだけ使ったわけじゃないよ」
「は?どーゆーこと?」
「次、どこの調理場が使えるかわかんないし、持ち歩ける携帯食と、ちょっとした薬を作った」
「……なんでそんなこと知ってんだ?」
「なんでって……俺の頭の中にレシ……」
途中まで言って俺は気づいた。
この世界で料理や薬を作る際、レシピは必須。だが、そのレシピを得るにはワールド内の至る所にある小屋を巡り、獲得していかなければならない。俺が炎魔の前で披露した数々の料理や薬のレシピの中には、若干特殊な物も含まれている……。
――俺、まずいことしたかも……。
「トラガ……お前、天才っ!」
「は?」
「料理もできて、薬も作れるなんて最高じゃん!」
「あ、ありがとう」
「あっ、そうだっ!俺様と一緒に旅をしないか?ふっふふ~我ながらいいアイデアじゃ~ん」
「え、いや……でも……」
「誰かと一緒……とかじゃなさそうだし。俺様も1人で冒険するより誰かと一緒がいいじゃん。なな、ええやろぉ?」
「炎魔がいいなら……」
「よっしゃあ~!」
見かけによらず、幼い子どもがはしゃぐようにぴょんぴょんと飛び跳ねる炎魔の姿に、俺は呆れて笑うしかなかった。
――というか、この世界を牛耳ってるのが炎魔じゃなかったのか?!……ま、いずれわかることだろうけど……すっげぇ気になる。もしかして……裏ボスっ?!
「トラガっ!いや……トラっ!」
「ト、トラ?」
「響きがいいねぇ~これからはトラ、って呼ぶな!」
「お好きにどうぞ……」
「もうじきできるか?そ、れ!」
炎魔が指さすは、鍋の中でぐつぐつと煮込まれている料理——。
「もういい頃合いかな」
「早く食おうぜ~」
目をキラキラと輝かせ、じゅるりと涎を垂らしている時点で俺の勝ちだ。そんなことを思いながら、俺は出来立ての料理を炎魔の前に並べた。
「では、自然の恵みに感謝を……」
「いっただきま~すっ」
――こいつっ……!!
前世と同じように感謝の祈りを捧げようと思った矢先、料理にがっつく炎魔の姿を見ていた俺は、この世界に馴染むためにも炎魔と同じように過ごそう、そう強く思いながら料理を頬張ったのだった。
「めちゃくちゃうめぇ。しかも食えば食うほど身体が軽くなるわ!」
「お口に合って良かった」
「ってかよ、トラ、お前どっから来たんだ?」
「えっ……あぁ……遠い……世界、かな」
「ふ~ん。ま、何でもいいけど」
―—何でもええんか?!……というか、俺は未だに信じがたい……目の前で料理を旨そうに頬張る
『炎魔』―—俺が何度も何度も苦戦したボスは、こんなにお茶目な訳がない―—。
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