俺の部屋に異世界勇者(美少女)が転移してきた
あおぞら@書籍9月3日発売
第1章 美少女勇者様がやってきた
第1話 ようこそ、異世界勇者様!
———人生は何があるか分からない。
それはどんな馬鹿でも、どんなに偉い学者であろうと皆んなそう言う。
勿論俺だって同じ事を言うだろう。
実際、未来に何が起きるか知らないし、いつ死ぬかも分からないのだからそう言わざるを得ない。
昔あった『ラプラスの悪魔』とか言う未来が完全に予測できるみたいな定義も、現代科学では否定されているのだから。
至極当然、当たり前のことだ。
だが———今日程それを思ったことは絶対にないと断言出来る。
それは一体何故かって?
そりゃあ……。
「くっ……あの腐れジジイが……」
「え、は、え……?」
俺、
「えっと……取り敢えずお茶どうぞ」
「……」
俺は同い年くらいだと思われる金髪碧眼の美少女の前にお茶の入ったコップを置く。
しかし俺を警戒しているらしく、飲もうとする気配がなかった。
……一体何で俺がこんな目に……。
本当に大変だった。
突然現れたかと思えば抜刀して怒声を浴びせられるわ、狭い部屋で剣を振り回そうとしてくるわ……ホントとんでもないな。
ただ、俺は鋼の心で怒りを抑えて平常心を保ち、怒りで我を失っていた美少女を何とか必死に落ち着かせた後、俺の部屋のクッションに座らせた。
今彼女は、憮然とした表情で俺を睨み付けている。
何でやねん。
「あの……一体どなたでしょうか……?」
「……私はクラリス。恐らくこの世界とは別の世界から来た……と思う。それより、先程は本当に悪いことをした、すまない」
ホントにな。
アンタが暴れたお陰でこっちはテレビと勉強机が帰らぬ物になったよ。
大家さんから隠すのも大変だったしな。
ただ、流石にそんな事を初対面の……それも超絶外人系美少女に言えるわけない。
あと普通に怖いし。
と言う事で、全力で猫被るとしよう。
「いえいえ、貴女も随分大変だったのでしょう? 何があったのかは分かりませんが……まぁ今は聞かないでおきます」
「感謝する。本当にありがとう。貴殿は優しいのだな」
お人好しですね、クラリスさん。
俺はそんなことを思いながら、クラリスと名乗った美少女が零した小さく笑みを見る。
その笑顔は———先程までの怒りを忘れさせてしまう破壊力だった。
……いや可愛いな、おい。
そんな笑顔を向けられると、俺みたいな大してモテない男はイチコロだぞ。
しかし笑みがなくとも……。
照明のライトの光を反射してキラキラと輝く腰まである金色の髪。
青空のように透き通った碧眼。
キリッとしていながらも、未だあどけなさが残った美貌。
今まで見たどんな美人すらも霞む程の絶世の美少女であるクラリスさんなら……うん、家を全壊させられても可愛く『ごめんね?』って言われたら許しちゃう。
「どうしたのだ?」
「あ、いや、何でもないです。それより、俺は高倉宗介っていいます!」
「タカクラソウスケ……? 不思議な名前だな……どちらが家名なのだ?」
クラリスさんが眉を潜めて首を傾げる。
やっぱり異世界人にとっては日本人の名前は奇妙に思うらしい。
「あ、高倉が家名で宗介が名前です。それとクラリスさんに1つ訊きたいんですけど……もしかして今俺達が話せるのってクラリスさんが何か魔法を使っているからですか?」
俺が尋ねてみると、クラリスさんは少し驚いたように瞠目した。
「ほう……よく分かったな。これは翻訳魔法だ。と言ってもあくまで人間の言語しか理解出来ないのだがな」
「それあれば英語楽勝じゃん」
「ん?」
「いや、何でもないです」
危ない危ない。
思わず本音が口から出てしまった。
ただ俺の誤魔化し方があまりにも下手くそ過ぎてクラリスさんに笑われてしまう。
「ふふっ、面白い奴だな……ソウスケは。それと私のことはクラリスでいいし、敬語も不要だ。普段使ってないだろう?」
「それはありがたい。何で俺が家を破壊した人に敬語使ってんだって疑問に思って来てたんだよね」
俺がそう揶揄うと、クラリスは真っ白な頬を朱く染めて手振り身振りまで付けながら弁明し始めた。
「あ、いや、それは本当に悪かったと思っている! 少し混乱していたのだ!」
「別にそんなに気にしてない……って言ったら大嘘になるけど、丁度古いから買い換えようと思ってたしな」
「ほ、本当にすまなかった……」
シュンと肩を縮こませるクラリスは、何処からどう見ても普通の少女だった。
そんな彼女があれほどまでにキレるのだから、した相手が相当悪いのだろう。
完全なる個人の感想だけど。
「あ、あの……」
「ん?」
俺がクラリスがキレていた原因を考えていると……少し目を泳がせ、胸の前で指と指をツンツンしているクラリスが遠慮がちに言った。
「も、勿論! 断ってくれて全然結構なのだが……と、泊めて———」
「喜んで!!」
俺は食い気味に即答した。
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