わたしの世界の見える場所

みらい、

第一章「慣性の法則な世界」

 朝、布団に触れていて、暖かい。窓の外は、引力にひかれるままの雫が流れている。雨の音はワンパターン、落ち着くような感じがする。うっとーしくなる天気、雨のスノーノイズ。朝ってほんとに、、、

 勇気を出して布団から出る。寒い、本当に寒い。そして、朝の支度を済ませて。うぅ、学校へ。


 今日はバスの日だ。バスに乗りながら、嫌だな。って思う。今日も、なんにもやる気とか出ないんだけどな。って思う。

 停車で、立っている人が転けそうになった。そういえば、昨日習った「慣性の法則」。ぼくの世界に、似ているかもしれない。ずっと雰囲気で生きてて、なにかしたい訳でもない、そんなモノトニーな生活。友だちとするゲームとか、推しの配信、マンガがぼくの生活を彩ってる。とりあえずいまは帰りたい、、、。


 また巡ってくる、朝、学校、授業がはじm、、、

 ん?

 「今日は転校生がいます。入ってきていいよー」

 「私の名前は、」

 髪の長さはボブ?っていうんだっけ、そんなかんじ。服装は可愛い系ではないけど女の子かな、ちょっと話しかけようかな。でも女子に話しかけるの勇気いるな。とか、いろいろ考える。

 「みりねです、お願いします。」

 そのあと、いろいろ自己紹介があって。そのあと結局、いつも通り授業があって。結局、いつも通りで。でもちょっと違うのは、みんながいつもよりにぎやかで、パレットに鮮やかな黄色でも落としたみたいな雰囲気で。でもぼくはあんまし関係なくって。




         ❅              ❅




 むかしから、引っ越しが多くて。いつにもまして今回は大移動だった。また友だちと離れた、人間関係もほとんどリセットみたいな感じ。でも、いつもやっぱりワクワクする。だって新しい街。いろんな出会いがあるし、人って面白いし、今回はどんな街だろうか。

 段ボールに囲まれた部屋で初めての朝を迎えた。いつも通り起きたら、すっごい寒かった。ほんとに寒かった。えっ、って思った。頭の中を掃除してくれるくらいの寒さ。でも、こういうこともここに来ないと分からなかったことだし、なんか面白い。

 二日目の朝は、晴れていた。もちろん、ひたすらに寒かったけど。まだ秋のはずなのに。

 学校に向かう、あぁ。上履きを履く、あぁ。教室に近づく、あぁ。ここが教室かな、あぁ。先生に、入っていいよーと言われる、あぁ。




 でも、今回もやっぱり杞憂だった、大丈夫だった。それに今日の通学路で着いて行った子、同学年だった!近所ってことは、友達1番目の有力候補?話しかけてみようかな。いや、でも、、、。正直、その勇気が、、、いや。でも。

 あと、まわりの質問攻撃が今回もすごかった、それに部活勧誘も、、、おかげであの子。すみくんっていうみたいだけど、に話せる機会がぜんぜんない!

 1週間後、部活の少ないこの学校で、美術部を選んだ。むかしは絵をよく描いてたからね。と思ったら、実はすみくんも名簿にあった。幽霊部員みたいだけど。おもわず笑みが漏れる、やっぱりこれは話しかけるしかない、ってね。逆に、話しかけないといけない、とも思ってしまう。友達ほしいし。





         ❅              ❅





 「連れてきてくれて、ほんっとにありがとうね〜みりねさん。」

 「先生、そんな大げさじゃなくていいですよ〜」


 なんで、ぼくが美術部にいるかというと、、、いきなり話しかけてきたみりねさんの勢いに圧倒されてしまったから。はじめましてから、いきなりすみくんも美術部なんだよね部活行こ?行こ?みたいな、、、。

 昔は絵を描いてた。でも、描こうと思わないし、もうずっと描いてないから、下手かもだし。わざわざ大きな水たまりは飛びたくないんだよね、、、。誘いはうれしいんだけど。

「すみくんってさ、なんで美術部入ってるの?」

「えっ。あーなんとなく?かな」

「そーなの?わたしは、絵描くの好きだったけど下手だったからね。挑戦してみよう、って思って。」

「なんかすごいね。かっこいい。」

 みりねさんはそのときちょっと照れた気がする。人ってこんな表情するんだって思った。もうあんまり人と真面目に付き合わないから、しても馬鹿話ばっかで、込み入った話しないから。

「すみくんも、新しいチャレンジとかさ、なんかしてる?」

「え〜と。んー、、、ちょっと分かんないなー、」

「わたしは挑戦おすすめだけどなー、いろいろしたらパレットに色を足すみたいで楽しいんだよ〜」

「なんか詩人肌だね、まぁ気の向いたときにでも。」

「わたしの最大の挑戦は気象予報士になること。すみくんは?将来の職業とかは?」

「いちおう親をついで農家かな、、、だから挑戦とかはあんまりしないかな。」

「そっかー、満足できる選択なら良いんだけど。」

 みりねさんはそのとき先生に呼ばれて、どっか行っちゃった。こんなこと聞かれるなんて思いも寄らなかった。本音を言うと、そんな挑戦なんて身の丈に合わない無駄なことしません、なんだけど。ぼやかしちゃった。



 あれからカレンダーを数段下って、テストが近づいている頃になった。

 みりねさんのそばからは賑やかさは少なくなっている。”いつも通り”に戻ろうとする、まさに慣性みたく自然の摂理でもあるのかな。でも、同時にぼくに話しかける機会は増えていた。

 ワークの問題が難しい、、、授業あんまり丁寧に聞かずに、うわの空になってるから、、、うーんどうしよう。だれかに教えてもらおうかな。




 あのとき美術室ですみくんと話したけど、なんとなく。なんとなくなんだけど、、頭に溶けた鉛が滲む、そんな気持ちになったから。やっぱり話しかけないとって強く思ってる。

 一時的な、転校生フィーバーとでも言うのだろうか?が去って、すみくんに話しかけやすくなった。

 なんて話しかけようか。距離を詰めていくって難しい、、、何回も経験しているのに、、、うーんどうしよう。なんかいい感じに話しかける機会ないかな、、、。



         ❅              ❅


 ワークを解くのに困ってる、すみくんを発見して、チャンスは今、、、なのか?

「あ、ねぇ、すみくん。そこ教えようか?」

「えっ。えーっと。じ、じゃあお願いします。」

 なんかみりねさん頭いいキャラなのかも。頼ってみるのもあり、、、なのか?

 なんかすみくん教えられキャラ?これは話しかける機会増やせるかも?

「えーそこ簡単じゃん!まずここに注目してー」

「えっあーたしかに。そうやって解くんだね〜。すごっ。ありがとー」

 なんかすごい頼りがいある人かも。すごいかも。

 この調子で仲良くなれたらいいな。ほんとうに。


 「ここも教えてもらっていい?」

 「もちろんもちろん!」

 「ここのコツはね〜」

 「はわぁーなるほど。」


 「みりねーここは?」

 「すみー聞きすぎ。自分でちょっとは考えなよ〜」

 「珍しく”いじわる”だねー」

 「そんなことないない。」


 「明日からテストだね、、、」

 「まぁ、いけるよ。きっと。こんなに教えたんだから。」


 ぼくたちは、ほんとうに不思議なスピードで友達になり、どんな今の同級生よりも仲いい関係になった気がする。教えて、教えてもらって。いじって、いじられて。そうして笑って、笑って。あしたはテスト。こんなに自信があるのは初めて。だから、失敗したくない。こんなことを思ったのは初めて。いつもはどうでもいい、平均点さえとれればいいや、なんてことも思っていたのに。

 その夜は友だちへの電話を、初めて使った。


 正直。ほんとにこんなにも早く仲良くなるなんて予想外だった。ピースが上手くハマったんだろうか。これも人間の面白いところだと思う。引っ越して初めてのテスト、すみに教えるために、そのためにむしろ今までより勉強した。いつもテストはちょっとくらいは、手を抜いてしまって。でも今回はそんなことなかった。こんなに勉強したら、失敗が怖い。だから、上手くいってほしい。

 その夜はテスト前では、初めて友達に電話をした。



「はじめ。」 

 始まった、あぁ。

 うぅ、始まった。

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