ドラゴンの爪も、ささくれるらしい。

るるあ

ドラゴンの爪も、ささくれます。



 「“火竜の泉”の偵察、ですか?」


 冒険者ギルド奥、ギルドマスターの部屋で。新人の僕に、指名依頼が提示された。


 「うん。きみのご両親―ヨシノさんとマリックのパーティが受けた依頼が、火竜の泉に住むファイヤードラゴン偵察だったの。でもまだ戻らないじゃない?

 この依頼は領主様からのもので、ギルドとしては確実に達成しないといけない案件なの。そんな中で今貴方が一番、斥候として適任なのよね…。」

 個人的には、15歳の本登録したばかりの可愛いかわいい貴方にお願いすべき事ではないと思うけど。と、心配そうな眼差しでこちらを見るギルドマスター。

 母さんが子供の頃から色々お世話になった人だと聞いてるけど……僕と同い年くらいに見えちゃうエルフのお姉さん。いつも目を掛けて下さってありがとうございます。


 「ヨシノとマリックの愛弟子である貴方なら大丈夫だと思うけどね……。

 あくまでも“偵察”であって、“討伐”ではないから!、帰って来て、火竜の泉の様子を報告して欲しいの。…いいかしら?」

 それは……最悪な事態も想定して、という事なんだろうか?


 「……承知しました。やれるだけやってみます。」

 僕は、覚悟を決めた。



 僕はタイガ。虎猫獣人とヒト族ハーフの15歳。

 遮音と、炎系魔法の威力と熱を完全防御できる障壁が得意だ。しかも強くて丈夫な精神耐性のスキルがあり、威圧や幻影など、いわゆる精神系デバフにはかかった事がないのが自慢。…鈍感な訳じゃないよ!多分。


 虎猫獣人の母は、そのしなやかな動きを活かした斥候スカウト職の技を、ヒト族の父は僕の特性を活かした魔術を、それぞれ僕に叩き込んでくれた。

 「15になったら親子でパーティを組もう」って約束したのに、二人は仲良く指名依頼に出かけ、現在まで音信不通。


 「“次期領主様絡みの依頼だ、今度こそジレジレモダモダ解消だ!”って、張り切って出掛けたからねぇ。」

 あの二人にも困ったもんだよと、呆れながらばあちゃんが言う。


 冒険者である両親が出掛ける間、森に住む黒猫獣人の祖母―ばあちゃんが僕の面倒を見てくれてるんだけど、今回の偵察にも付いて来てくれるらしい。


 「ヨシノのやつ、ワタシにニーベアの調合を頼んだまま取りに来やしないんだ。コレ、あの火竜娘にやる分じゃないのかね?」

 仕方がないから届けてやろうかね!と、自慢の3本の尻尾をぴんと立てて、ばあちゃんは愛用のミスリルメイスをぶんぶん振り回す。

 竜もひれ伏した殴りヒーラーって噂は本当だったのかな…?


 それよりも。

 「火竜娘?ジレジレモダモダ……?」


 「なに?ヨシノから聞いとらんのかい?火竜の泉のラブロマンス。」


 「えっ?あれ、おとぎ話じゃないの?」

 領主の始祖が冒険者で、竜の泉で出逢った竜と番ってこの街ができた、とかなんとか……?


 「あれ、マジじゃ。ギルマスが立ち合ったらしい。初代は恋仲ではなくお友達?だったそうな。

 今代の竜娘はまだ若くて、次期領主殿は娶る為の工作中という訳だ。まぁ、細かい事は火竜の泉に行ってみれば判る!」

 さぁ、ばあちゃんにしっかりつかまっておいで〜と、僕を肩に担いで……

 ばあちゃんお得意の、転移!!


 ぅわ!?酔う!!急には勘弁して〜〜!!


 ★☆★☆★☆


 あ〜、世界が廻る……気持ち悪……


 ……何か言い争ってる?


 《こんな爪じゃ、あの方に会えないわっ!!》


 「あのムッツリスケベは、それさえ愛おしいとか何とか言ってたよ。

 だ〜か〜ら〜!何度も言うけど、あいつから、あんたを嫁にするから連れてきてって頼まれたんだってば!

 そもそも初めて会った時は、今みたいに完璧な人化できなくてほぼドラゴンだったのに結婚申し込まれたんでしょ?爪とか誤差、誤差!

 そんな事より、あんたがすぐ来ていいように色々根回し頑張ったんだから、早く行くよ!うちの可愛いタイガが待ってるからすぐに帰りたいの!!

 ね、マリックも何とか言って!!」


「では、解析をお許し下さい、竜娘様。“鑑定アナライズ”……これは、爪の周りにできてしまう“ささくれ”の一種ですね。『小爪(こづめ)』と呼ばれる、爪の横が小さく割れて硬くなるタイプのささくれです。

 裂けた部分は裂傷が広がらないように、なるべく根本から切り取って……おお、思いがけずドラゴンの爪採取…?!

 ゴホン。すいません。えぇと、対処法でしたよね。爪が乾燥して衝撃が加わることでできてしまうものですので、その部分には我が愛しの妻の御母堂様がお作りになったニーベアをよく塗り込んで頂ければ、すぐに完治……」


 「コレだろ?全く、一番大事な物を忘れていくんじゃないよバカ娘!!可愛いタイガに心配させるから、倒れちまったじゃないか!」


 「あっ、御母堂。あの……タイガは酔いやすいので、それは恐らく転移酔いかと思われ……」


 「きゃああ!!タイガ!!すぐ、すぐ帰りましょう!!母さん!全員で転移を!!」


 「よし、ばあちゃんに任せな!全員この魔方陣に入りなっ!!火竜娘、あんたもだよ!!次期領主の坊っちゃんが毎日毎日毎日うちに来てあんたの事美しい鱗とかマイスイートとか何とか煩くてかなわないんだ!さっさと番っちまいな!!」


 ほーれ、いくよー!!


 再び転移。

 僕まだ回復してないのに!?

 ううう……もう、だめ……。


 僕が来た意味あったのかな?と思いながら、意識がブラックアウトした。



 ★☆★☆★★  ★☆★★


 

 その後、噂の後押しもあってトントン拍子に話は進み、無事に火竜娘さんと次期領主様はご結婚されて、5男2女の子どもに恵まれましたとさ。


 何のご縁か、僕がそのご子息達の教育係という名のお守役に選ばれてしまったのは必然なのだろうか?


 イエイエ、ボクは竜のお嫁サンとか分不相応ですので謹んでご辞退を……いや、美しくないとかそういう事じゃなくてですね、非常にご聡明で闊達だと思いますけども。

 ささくれの爪を手に入れたから婚約?いやいや、アレは、ギルドに提出が義務付けられてるじゃないですか。ちゃんとやってますよ、うちの父が整備した決まりなんですから。

 ……今舌打ちしませんでしたか?嵌めようとするのやめてくださいよ……。

 どうしてそんな頑なかって?いや、だって、竜はお相手を乗せるのが愛情表現なんですよね?

 僕、絶対酔うし。意識失う自信があるし。

 

 無理無理ムリ絶対無理!!





 




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ドラゴンの爪も、ささくれるらしい。 るるあ @ayan7944

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