第1章 ジャイアント・パンダー / YURUKAWA
「
統合司令部の最中枢である指揮指令室の自動ドアが開き合成音声が響く。
開かれたドアをまたぎ司令官が部屋へ入ると、そこには無駄に薄暗い部屋の中、一人の女性が立っている。
彼女こそが今回の作戦の為に招聘された参謀であろう。
敬礼する彼女に答礼を返す。
「今回の作戦を指揮することになった、
「中将閣下、お会いできて光栄です。
敬礼をといた司令官が席へ座り、それに合わせて参謀が自席に座るのを確認すると語りかける。
「少佐の噂はかねがね聞いている。こちらとしても心強い。よろしく頼む」
「私もかつての中将のご活躍は戦史資料にて拝見させていただいております。」
一瞬、考える指令。
「いや、すまない変なことを言うが参謀。私の活躍では20年前のことだ。わざわざ戦史資料を見なくても、ニュースとかで見たことあるだろう?」
「申し訳ございません。20年前ですと私も小学生でした。そのため、他国の事件のニュースを見ることがありませんでした。」
まっすぐに見返しながらテキパキと答える参謀に司令は
「そ、そうか。それはすまなかった。」
としか返せなかった。
「では早速ですが、Gの対応について協議を始めたいと思います。」
「そうだな。まずはGについて現在分かる事をまとめた資料を貰えないか? 」
「承知いいたしました。少々お待ちください。」
返事と同時に手元の端末を操作する参謀を見て司令が満足げにうなず来ながら話し始めた。
「ここに来るまで再三にわたって資料の提出を指示したのだが梨の礫だったよ。よほど、重要な機密事項なのだろう。」
真剣な表情で言う司令だが参謀の答えは異なっていた。
「いえ。Gの基本情報につきましては情報統制などしておりません。恐らくみんな報告を提出することで自身の正気を疑われるの外野だったのでしょう。」
「正気を疑う?」
司令が怪訝な表情となり質問を返す。
「『百聞は一見に如かず』とも言いますので、まずは資料をご確認ください。」
言い終えた参謀はターンと音を立てて端末のキーを打鍵した。
それと同時に司令の端末に資料が展開される。その資料を食い入る様に見た司令はすぐに怪訝な顔になる。
「参謀、つかぬことを聞くが資料はこれで間違いないのだね?」
「はい。間違いございません。私も同じ資料を開いております。」
すました顔で返す参謀に司令はますます顔中をシワだらけにして悩みだす。
「名称:
「性格は温厚なれど、何かしらの目的を持って行動している様子。」
「何の冗談だね、参謀?」
困惑した面持ちで参謀を見る司令に対し、参謀は涼しい顔のまま答えた。
「冗談などではありませんわ。簡単に言えば全長50メートルのジャイアントパンダが侵攻中なのです。」
「にわかに信じられんが、しかし何だねこの名称は」
名称を指さす司令は続ける。
「これでは在来種のジャイアントパンダと名前の見分けがつけられないではないか。」
「いえ、『ジャイアント・パンダー』です。ほらTとPの間に
「自分が聞いているのは発音の問題なんだがねぇ、それに最後の『ER』の意味は?」
「さぁ? 私は存じません。」
あっさりと答える参謀に司令は思わず椅子からずり落ちそうになる。
そんな司令を気にせず参謀は話を続ける。
「命名につきましては環境局々長の権限と聞き及んでいますので、そちらに確認をとりますか?」
「いや、単なる好奇心だ。 それより対策を考えよう。」
やや疲れたような声の司令だったが、そこから気を取り直すところは歴戦の猛者である。
「大陸での交戦記録を見ると各種火砲が効果ないとのことだったが、見るからに哺乳類にしか見えないヤツにミサイルや榴弾砲が効果ないのはにわかに信じられんな。」
「ええ、これまでの攻撃は全て命中しても焦げ跡ひとつつけられないため、見た目には関係ない何かがあると思われます。」
すぐに回答があるのは良いことだと司令は心のなかでうなずきつつ指示を出す。
「交戦中の記録は映像だけでなく、音声、赤外線など採取できたものは洗い直すように指示を。」
司令の言葉に無言でうなずくと参謀は、素早くインカムを取り指示を出す。
その姿を尻目に正面モニターに映し出されるG、もといジャイアント・パンダーの全身モデルを見る。
どう見てもパンダであるが、よく見ると実際のパンダより戯画的というか、人間寄りの体型をしている。
「司令もお気づきになられましたか?」
参謀が厳し目の口調で話しかける。
「ああ、この姿パンダにしては……」
「パンダにしてはゆるいですね。ゆるキャラって程ではないですが人に近づけつつ全体に丸みを強調した体型をしています。つまり。」
司令の話を遮って話しだしたにも関わらず、参謀は自分の出した答えをすぐには言わない。
「……。つまり?」
沈黙に耐えきれなく鳴った司令はオウム返しに呟く。
「つまりはカワイイってことです。ユルカワってヤツです。」
参謀は冗談とも本気とも言えない結論をそれまで同様に、生真面目かつ無表情な面持ちで言い放った。
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