私はタダの冒険者になりますわ ~公爵令嬢、聖女、姫騎士なんて知りませんことよ~
滝川 海老郎
第1話 転生の冒険者
フィーナ・エスティマ公爵令嬢、それが私。
「ああああぁぁああ、堅苦しいったらありゃしませんわ」
前世は日本の女子高生だったのは覚えている。
発達した科学、一応でも平和な国。
ゆたかな食生活。様々な職業。
「それを思えば、なにが公爵令嬢よ」
お茶会、舞踏会に夜会。
公爵ともなれば王族に次ぐ地位にある。
わずか十歳だというのに、すでにデビュタントも済ませた。
いろいろなしがらみで嫌でも出席しなければ体面がよくない行事が一年中ある。
私も小さなころから礼儀作法を叩きこまれ、ぼちぼち婚約の話も舞い込んでいた。
今のところ釣り合う条件の家柄からはまだ婚約の依頼が来ていないので、すべて門前払いにすることができた。
「貴族社会で湯だったカエルみたいになりたくないのよね」
じっくりコトコト生きたまま茹でられて自分が食べられてしまうことも知らないカエル。
そうはなりたくない。
「私、冒険者になる、そうよ、冒険者だわ」
小さいころから冒険者には何となく憧れていた。
毎日運動もしている。
もちろん勉強もしていた。公爵家令嬢にはきっちり家庭教師の先生がついている。
それもほとんど終わらせてある。
機は熟したのだ。
「パパ、パパ」
「なんだ、フィーナ」
「バーナード・エスティマ公爵様、フィーナはお願いがございます」
「なんだ、珍しいな、言ってみろ」
「フィーナは、明日から冒険者になります」
「冒険者か、あははは、貴族それも公爵家令嬢が冒険者か。それも女の子が」
「そうです。私は真面目に話しています」
「しかしだな、うーむ」
「いままで言いつけを守ってきました。勉学にも力を入れています」
「そうだな」
「フィーナはもう、勘当されてもかまいません。冒険者になります」
「ま、待て勘当はしない。公爵令嬢のままでいてくれ。そうだな、せめて護衛を」
「護衛もいりませんわ。わたくし、薬草採取のFランクから始めるのです。そう、スラム街の子たちと同じように」
「そうか、そこまでの覚悟が」
「はい、お父様」
ということで、お父様は無言になってしまった。
「では失礼します」
私は執務室を出ていく。
明日から冒険なんだから、しっかりしないと。
無言ということは反対されなかったという意味でもある。
つまりOKということなのだろう。
はいとは決して言わない。責任問題になるからだ。
でも、娘の意志を尊重してくれるということだ。
お父様ありがとう。
◇
ベッドで眠り、翌朝目が覚める。
イブニングドレスで家族と朝食をとる。
「おはようございます」
「おはよう、フィーナ。あなた、冒険者になるって」
「えへへ」
「まったくおてんば娘に育ったこと」
お母様マリア、長女エシリーナ、そしてお父様のバーナードがすでに席について待っていた。
メイドたちは苦笑気味だ。
すでに私が冒険者になる話が伝わっているのだろう。
「いただきます」
ふわふわの白パンには甘いイチゴジャム。
キュウリとレタスのサラダにはうま塩コショウのドレッシングが掛かっている。
今日はオークハムの代わりに、珍しくワイバーンの燻製肉の薄切りが添えられていた。
それからタマネギのスープ。
「今日も、おいち!」
「ふふ、こういうところは十歳よね」
この家では一般的な朝食風景だ。
ただ普通の塩味だけでなくしっかりと「旨味」が出るように調理されている料理は王都であってもなかなか見ることができない。
これは転生者の私があれこれ文句を言ったり意見を言ったりして料理長を散々困らせて工夫をさせた結果できた、特上の朝ご飯だった。
貴族社会で娯楽も少ない世の中で、ご飯が不味いのはいただけない。
それでご飯の改良にはせっせと力を入れたのだ。
他の貴族たちは、うちの朝食がこんなに美味しいとは知らないだろう。
鼻高々ではあるが、基本的に秘密事項となっている。
王宮の王様や親戚のおじ様たちにコックを引き抜かれたら私の苦労が水の泡になってしまう。もちろん弟子ばかり受け入れてうちが面倒になるのも避けたい。
ということでこの家の人の胃袋はすでに私が掴んでいる。
公爵様といえども、私を怒らせて、ご飯が食べられないと困るだろう。
だから冒険者になりたいというくらいなら、ゆるしてくれるつもりのようだ。
ただ三日で飽きるとでも思っているのだろう。
実際には何年も前から計画していたことだった。
日々、魔法の練習を重ね、剣の練習も空き時間などを見てはしていたのだ。
ご飯を食べ終わって、私はミニスカートの動きやすい服装を引っ張り出す。
公爵令嬢がこんな服を着たらはしたないといわれてしまうようなものだが、動きにくいヒラヒラのロングドレスなんて着て冒険者をやるほど、世間知らずではない。
「よし、服も着替えた。それから防具をっと」
町人が着るミニスカートのワンピースの上から革防具を装備する。
「それっぽくなったかしら」
靴はもちろん、ハイヒールではなく運動しやすいローファーだ。
ダンスをするわけではないからね、にしし。
準備は万端、ではギルドへ登録へまいりましょう。
□◇□◇□─────────
こんにちは。こんばんは。
【ドラゴンノベルス小説コンテスト中編部門】参加予定作品です。
他にも何作か参加していますので、もしご興味あれば覗いてみてください。
よろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます