ささくれた2人

ゴシ

2人の距離は近からず遠からず


 12月24日の正午、世間がクリスマスイヴで浮かれ気分の中、俺は教室の端っこで窓の外を眺めていた。

 冬休みに入る前のホームルームがだるくて外を眺めているわけではない。かといって道ゆくカップルが羨ましくて見ているわけでもない。じゃあ何でかってなるよな?




 隣に座ってる笹倉ささくれからめっちゃ睨まれてるんだよ!




「……なあ笹倉ささくれ。何で俺の方見てんの?」


「…………」


 ……え?何で?無言でめっちゃ見てくるんだけど。見てくれるのは嬉しいけど、その睨むような目はやめてくれよ。


笹倉ささくれさん?おーい。ささくれてないで何か言ってくれませんかー?なんつって」


「……………!」


「えっと、……何してんの?」


 何も答えてくれない笹倉ささくれ。でもなんか急にカバンをガサゴソ……!


笹倉ささくれ?いや待って!笹倉ささくれさん待って!!本当に待って!!!」


 いつも無口な笹倉ささくれ。でも笑うと素敵な笹倉ささくれ。そんな彼女と俺はずっと触れ合いたいと思ってた。この隣の席になった約半年間、長かったようで短かったようで。手と手が触れ合い、俺の上に馬乗りになる笹倉ささくれ

 まさかこんな急な展開が訪れるとは。でも違うんだ。違うんだよ笹倉ささくれ


「こら、まだホームルーム中だぞ!何やっとるか!!」


 教壇に立つ先生の怒鳴り声が聞こえる。怒る気持ちはわかる。教壇からは見えない机の下でじゃれあっていると思っているのだろう。

 俺は先生に言わなくては。よし、勇気を出して大声で言おう。





「先生ーーー!笹倉ささくれがハサミ持って襲ってくるんですよーーーーー!!」


 笹倉ささくれはカバンからハサミを取り出して急に襲ってきたのであった。


 先生は笹倉ささくれを止めに入り、俺らをただ席に着かせる。俺が何かしたからと思ったのだろう。何故か俺だけ怒られた。




「なんだったんだよ急に。怒られたじゃんよ」


「……手」


「ん?…手?……手が何?」


「手……出して」


「え?指切るつもり?」


 なんか怒らせることしたかなと思いながらも、俺は笹倉ささくれに言われた手を差し出してみる。


「手なんか握って何するつもりだよ……ッツ!何すんだよ!!」


「……取れたよ」


「えっと…………ささくれ?」


 俺の左薬指のささくれをちぎって嬉しそうに見せる笹倉ささくれ


 大人しいとは分かっていたが不器用にも程があるだろ。ささくれ取るのに無言でハサミ向けてくるとか。


 笹倉との初絡みがこれか……先はまだ長そうだ。


「……触っちゃった」


「ん?なんか言ったか?」


 顔を背けて耳を赤くする笹倉。その時の俺には笹倉の考えてることなどわからなかった。


 隣同士に座る俺と笹倉ささくれ


 近いようで遠い2人を後に近づけてくれたのはこの『運命の白いささくれ』が始まりだった。





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