第2話 ハウン

歓迎会から一夜明け。

ファングの朝は早い。寝起きに少々体を動かすことが彼の日課である

太陽がまだ低く、朝露が芝生に光り、爽やかな風がふく中走りこみをするのだ。

2階の寝室から降りるとリビングの電気がついているのを彼は確認した。


「おはよう!見てくれよ!字が書けた!サインも!」と自慢気にギルドの申請書を見せてくるワタル。


とても上手とはいえない芋虫が這ったような文字にファングはにっこりと笑いながら、ワタルの成長を見守っていました。「よくやったな。これでギルドに参加できるぞ。」と肩を叩く。


「そんで俺はちょっくら走ってくるわ。これをやらないと朝が始まんねぇ。スノーは朝弱いからまだまだここにはこねぇし、もう少し寝ていてもいいぞ」


スノーはたまにこの「秘密基地」に泊まることはあれど基本的には実家の宿の手伝いをしているらしい。それともう1人メンバーがいるとのことで、合流次第ギルドで向かおうという流れとなっている。


「その日課って俺もついてきていい?」


「おう、もちろんだ。一緒に走るのか?朝の新鮮な風を感じると気持ちが引き締まるぜ。ついでにこの辺の景色も見せてやろう。」と、ファングは庭に向かいながら言った。


確かに空気が心地よい。身を刺すような冷たさを感じるが、体を目覚めさせてくれる。


並走しながら、東の方に見える森は魔物が出るから1人で行くなだとか、ギルドのある町は東に数キロほどにあるなどファングは話を続けていたが、ワタルからの返事が徐々に小さく。ついには聞こえなくなってしまっていることに気がつく。


ワタルの息が上がっているのを感じたファングは、小走りでワタルの横に寄り、「大丈夫か?」と声をかけた。ワタルは少しうなずきながらも、顔は真っ赤になっており、明らかに限界が近づいているようだった。


「俺とお前じゃ鍛え方が違うからな。でも15分はついてきたからまあよくやった方じゃねえかな」


「ファングはほとんど息が切れてないね。ここまで走れるようになるまでどれくらいのかかった?」と膝に手をつき、荒れる息を整えながら尋ねた。


「ガキの頃から。10年間ほぼ毎日続けてるぜ。この姿になったからってのもあるかもしれんが、それでも、継続的な努力がこうして結果を生んでいるんだ。」とファングは得意気に答えた。


「じゃあ俺は1ヶ月だ」とワタル。


「お?言ったよな。今の言葉忘れねえぞ。頑張って続けてみろ。最初は辛いかもしれねえが、諦めずにコツコツやればきっと変わるさ。」とファングは励ましの言葉をかけた。

流石にワタルが倒れてしまいそうなので秘密基地までの帰路はウォーキングにすることとなった。




秘密基地に到着し、ワタルは今朝届いた新聞を広げていた。子供用の言語テキストを使って内容を理解したいが、相当に神経を使ってしまう。ファングに意味を聞いたりするが、俺には政治はわからんと言われて流されてしまう。


その時、1人の女性が外からやってきた。

銀色に輝く髪が肩まで伸びており、青色の瞳で落ち着いた佇まいをしている。

一際目を引くのが、2人よりも長い耳と尾。どうやらもう1人の獣人の友達とは彼女のことのようである。

名はハウンと言い、裕福な家庭の出身で、昨日は家庭の事情から都合がつかなかったのだとワタルは2人から説明されていた。


「ここへ来る前にスノーの家によって来たんだけどまだまだ寝てるそうよ。昨日の夜遅くに『ギルド結成だよーっ!』っていきなり尋ねてきてあんなに張り切っていたのに」とハウンはため息をつく。


ハウンとワタルは互いに自己紹介を交わし、スノーの到着を待つこととした。


日も高くなった昼頃ようやく、スノーが現れた。彼女は目をこすりながら「いやー、ごめんね。おーみなさんお集まりで。ハウンちゃんも朝早いねぇ」


「これでメンバーは全員集まったな。では、改めてようこそ、ワタル。これで申請すれば晴れてパーティ結成だな」とファングが言った。


ギルドはこの秘密基地から数キロ離れた町の外れにあるのだという。ファングは所用があると言って秘密基地を後にし、ハウン、スノー、そしてワタルはギルド本部がある町へと向かうこととした。


ファングの所用とは何だろうかとワタルはさが口にすると、どうやら彼は町へ行くことが好きではないのだとハウンが言う。


魚を川でとっていたのもそのためであろうか。ハウンもスノーも理由を尋ねたことがあったというが、「俺は人混みが苦手なんだよ。それだけ。」はぐらかされてしまったという。

あの気さくな様子からは賑やかな場所が苦手であるという印象は受けなかったが、それについては追求して欲しくなさそうな様子であったとのことなので、「そういうものなのだ」とワタルは理解することとした。


目的の街 「フラハイト」は賑やかで商業的な雰囲気に包まれた街。鮮やかな旗が風に揺れ、多彩な人々が行き交い、店舗からは美味しそうな香りが漂ってくる。ギルド本部は町外れにあり、さまざまな冒険者が集まり、依頼を受けたり情報を交換したりしている。


依頼は報酬額、ギルドによって判定される難易度によって下はEランクから上はSランクのものがある。


フラハイトが属するラグド王国の兵士団が治安維持に務めているものの、昨今の社会情勢に対して人手が足りず、冒険者にも反社会組織や魔物の討伐を頼らざる得ない状態であり、そういった依頼は高報酬でランクも高くなる傾向にある


依頼を斡旋することがギルドの役割であり、運営母体は兵士団もとい王国が担っている。


道中、ワタルはファングに「わからん」と切り捨てられてしまった新聞記事の内容について、ハウンに聞いた。


ハウンは神妙な面持ちで、ワタルに記事の内容を教えた。記事はラグド王国の政治に関するもので、王国内で行われる議論や動きについて報じていたよう。


「ほら、この記事は国内の政治のことを書いてあるの。兵士団の不足や過激化する3大反社会組織。その中でも特に『天泣(てんきゅう)』の凶行に対して、冒険者たちがどう関わっているかって感じね。」


ワタルは真剣な表情でハウンの説明を聞き、記事の内容が王国の政治や治安の課題にフォーカスしていることを知り、冒険者たちがどのように関わるのかに興味津々だった。


ワタルは「天泣っていう反社会組織はどんなヤツらなの?」と質問と聞く。

ハウンは少し躊躇した後、「良い噂は聞かないわ。金融機関への襲撃や誘拐と最近でも色々報道されているわね。ただどんな人たちがいるかとか詳細はわからないのよ。ただ、冒険者ギルドにはそのような組織への対応依頼も増えてきているようね。」と答えた。


「天泣をぶっ潰せーとかそんな依頼も私たちに来るかもしれないね」と何故か嬉しそうなスノーとの温度差をワタルは感じつつ、ギルドの建物の前へ一行は到着した。


つづく。

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