絶対勇者

ベニテングダケ

第1話 Shine.First round

「貴方が魔王を倒す勇者だ!」

城内に掠れた声が響き渡る。日本とは思えないようなファンタジーを感じる城だ。俺は学校から帰る途中だったはずなのに。

俺は威垣高校に通うごく普通の男子高校生、天木耕治、父親から貰った大事な名前だ。

学校の中では、割と明るい方でまぁ陽キャって言えるくらいには。あれは月の最後の土曜日で、友人二人と帰り道別れた後だった。

空が晴れ始め陽が出る。

「今日は雨だった筈なんだけどな」

身体が熱い。陽の光にしては、異常だった。

「……?」

上空を見ると、丸い紫色の…ゲームで見たことがあるあれは魔法陣だ。

「!?」

身体が吸い込まれる。地面から足が遠ざかる。

「ああっ…!」

そして気がついたら城だった訳だ。

「魔王を…魔王がいるんですか!?この世界には」

「…?あぁ…すまない。異世界から召喚をさせていただいたというのに説明が足りんかったな」

「…まず召喚をさせて頂いた貴方の名前を聞いてもよろしいですかな?」

「天木耕治…17歳だ…です」

「耕治どの…私はオシリス・エル・リストルス…この国アポロトスの王だ」

「…で?説明をして頂きたいですね」

「あぁ…この国…アポロトスを含めた4つの大陸…世界に魔王が現れようとしている…貴方には魔王を倒して頂きたく、耕治殿の世界からやってきてもらった」

「…わかった」

「!?……わかったって…良いのですか?まだ報酬の話も何も…」

「大丈夫だ。俺がこの世界を守る」

「耕治殿……ありがたい。それではせめて武器を用意しましょう…アレス?」

王が隣にいた男に目を配ると、男は後ろにあった煌びやかな剣を渡してくれた。

「私はアレスと申します。よろしくお願いします。そしてこの剣を耕治殿にお渡しします」

アレスと名乗る男が、渡してくれた剣はずっしりとした重みがあったが、何故か手に馴染んだ。

「この剣は?」

「魔剣エリアート…この国で一番の強さを誇る剣でございます」

「エリアート…ありがとうございます」

「それとポアロ…この国の通貨です。それを1万渡します」

「ありがとうございます」

「それではお願いします…まずは次の国、クロスを目指すと良いでしょう…それではいってらっしゃい!」

王は、説明する口調を速くし追い出す様に俺は城から出した。

「まぁ…城に居座らせる理由も無いしな」

こうして俺は旅に出た。魔王を倒す旅に。

「よぅ!剣…?まぁ良いや兄ちゃん!防具を買っていかないかい!」

ハゲ…スキンヘッドのおっさんが俺を呼んだ、雰囲気から、商人だということが分かった。

「商人か…何を売ってるんだ?」

「武器だ。その剣じゃ戦えないだろ」

「?この剣はこの国で一番の強さを誇ると聞いたが?」

「もしや王から貰ったのか?あの王は何も分かっちゃいない、あんたは多分冒険初心者だろう?最初からそんな強すぎる剣を貰ったって使いこなせる訳がない。王から金を貰ったろう?それで使いやすい剣と防具を買うと良い」

「まぁ偉い奴なんてそんなもんだよな。売り物見せてくれ」

「あぁ…剣なら火剣エラスポッサか、水剣ビーテルを選ぶと良い。防具なら一番安いのでも今は大丈夫だろう」

どっちも短いナイフか…まぁ最初だしな。

「ならエラスポッサの方をくれ、防具はその一番安いのを」

「全部で五千ポアロだ」

「これで頼む」

俺は学生服のポケットから金…ポアロを出す。

「あいよ。またよろしくな」

「あぁ…ありがとう」

俺は装備を変更し店を後にした。扉を開けると少女が立っていた。

「耕治様!ミセリアです!!また冒険に出かけましょう!!」

知らない少女が俺の名前を呼びながら俺に抱きつく。

「…?あんた誰だ?」

「あっ……っ…いえ…すいません。私はミセリアと言います。…王から聞きました。よろしければ共に旅をしませんか?」

少女が急に落ち込みだし、俺から離れた。

「何がよく分からないが、仲間がいないんだ。良ければ頼めないか?」

誰かは分からないが、敵って訳では無さそうだ。

「…もちろんです…耕治様」

「…とりあえず飯でもどうだ?話がしたい」

「…えぇ」

俺とミセリア?は近くの酒場に向かった。ミセリアはこの辺りの事をよく知っている様で、旨くて安い酒場を教えてくれた。

「お客様〜ご注文をどうぞ〜」

「耕治様。ここは私が払います。どうぞ好きな物を」

「太っ腹だな。初対面なのに」

「しょっ……いえ」

「それじゃあこの…いやとりあえずなんでも良いからお茶と肉料理を頼む」

「分かりました。ならジンジャーティーとミートルシープの照り焼きを2つずつ」

「かしこまりました〜」

「ありがとう…でミセリア…さん?」

「ミセリアで大丈夫です」

「ミセリア…あんた何者だ?初対面で、仲間になってくれるなんて」

「……王の頼みです。なので耕治様の事も知っております。異世界から来た事も」

「あぁ…だから仲間になってくれたのか。ありがとう」

「…いえ」

「ミセリアは何歳なんだ?あんたの事が知りたい」

「15です。武器は、あまり使いませんが、魔法を使うのが得意です。人間です」

「魔法…まぁ異世界だしあるよな」

「……!耕治様!えー…フレアム!!」

そういうとミセリアが、指の先から小さな火を出した。

「おー…すごいな。魔法か」

「耕治様も出せますよ。フレアムと言ってください。指に力を込めるイメージで」

「え?でも俺魔法なんて覚えてないぞ?」

「大丈夫です。耕治様なら出せますよ」

「?…フレアム!」

指に力を込めると小さい炎が出た。

「おっ!出た…」

「これが魔法です。他にもやり方を教えますので、後で勉強しましょう」

「あぁ…」

しばらく魔法の練習をして、酒場を出た。何故かは、分からないが教えられた魔法は全て一発で出せた。

「何でこんなに簡単なんだ?魔法って難しいんじゃ」

「えっ!?…あー…ちぃと?って奴ですよ」

「?…あぁチート。異世界召喚とかじゃお約束だよな」

「はい。お約束です」

「にしても…あんたは優しいな。こんな俺に色々な事を教えてくれて」

「…いえ。構いません」

「そろそろモンスターってのを倒してみたいんだけど」

「あぁ…分かりました」

俺達が街を出ると急に雨が降り出した。

「雨だ…傘…傘ってあるのか?この世界に」

「傘ですか…ありま…!?傘なんか探さずにさっさと帰りましょう!ホテル代なら有りますから」

「急にどうしたんだ!?雨くらいで…さっさとモンスターを倒しに」

「いいから!」

ミセリアは俺の腕を掴み走り出す。

「ミセリア…!?どうしたんだ!」

「早く…!早く逃げないとまた!」

「なんなんだ!?何から逃げてる!」

ミセリアの腕を掴む力が強くなる。ミセリアの目には涙が浮き出す。

「な…あ?」

腹が熱い…痛い。身体の力が入らない。

「耕治様!?大丈夫ですか!…貴方はやはり…!」

俺の腹にはナイフが刺されていた。腑に刺されているんだ。

「…これで何人目だ?今回はまだ少ないだろ」

俺の後ろには目が虚になっているフードを被った白髪の女が立っていた。彼女が俺を刺したのか?

「…アモン…何故また耕治様を」

「耕治様…だからだミセリア」

何を言って…

「耕治様…死なないで…」

「耕治様…死んでくれ…」

二人の少女が憐れむように俺を見てくる。

「あ……ぅ」

そこで意識が途切れる。まさかここで終わるとは…。

……

次に目を開けた時は、耳に掠れた音が聞こえる。それは城内に反動した音。聞き覚えのあるその声。

「貴方が魔王を倒す勇者だ!」

「は?」

城の外には、雨が降り始めていた。

頭に音が響く。そして頭のパネルが01を指す。

そして冒険が、始まる。

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