【KAC20244】ずっと片思い

三寒四温

第1話

「お次の方、どうぞ~。……お待たせしました。何について占いますか?」


「じゃあ、仕事と金運を」


「わかりました。では、これから幾つか簡単な質問をさせていただきますね」


 私は占い師です。どこにでもいる、ありふれた占いおばさん。スピリチュアルな点も幾分あるけれど、それよりはカウンセリングのほうが実際には割合が高いと思います。


 結局は人気商売。お客さんが望む答えと、それを裏付けるものを提示できれば喜んで受け入れてもらえます。だから、占いに頼ろうと思った人が心の奥底で何を望み何を恐れているのか、それを探るのもテクニックのうち。


 何か本当のことを見つけてしまっても、それが心に刺さった棘なら、抜いたほうがいいときも、そっとしておいたほうがいいときもあります。そういうのは経験と勘で対処しています。


 昼間はこうして街角で占いコーナーに座ってますが、時々夜のお仕事にも呼ばれてお仕事させていただいてます。すっかり歳をとってしまったしバツイチなのに、今でもお声がけいただけるのは、とてもありがたいこと。少しだけお高いクラブですが、時々はこんな私にご指名いただけることもあるのです。お客様はいつも、私が聞き上手だと褒めてくださいます。




 本当に私は幸せです。趣味と実益を兼ねてますから。


 私の趣味、お判りになりますか? 好きなんです。男の人の手が。


 できれば、ホワイトカラーの方よりは、現業をされてる方のほうが好みでしょうか。肉厚で大きくて、節くれ立ってて小傷が絶えなくて、ささくれなんかいっぱいあって。


 そんな生々しい手を触らせていただけるのが私にとってはご褒美。


 亡くなったあの人も、そんな手の持ち主でした。あの人の無骨な手で撫でられるのが嬉しかった。


 でも、もうあの人の手に触れることはできない。




 あの人が亡くなったときに、私はこっそり彼の手形を取ったんです。その手形を元に彼の手とそっくり同じフィギュアを作りました。そんなもの作ったことないから何度も失敗して、ようやく気に入った彼の手のレプリカを手に入れることができたんです。


 所詮偽物。そんなことは私が一番よくわかっています。時々投げ捨てたくなることも。でも、それっきり彼と縁が切れてしまうような気がして、結局捨てられません。


 多分今夜も彼の手を抱きしめて私は床につきます。せめて夢の中で、あの人の手が私を愛してくれるように。


 私はずっと、彼の手に片思いをしています。

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