20:吸血鬼はギルドを訪れる
以前に魔王やんが出した書類が正式に受理されたと聞いた私は、何度もこちらに─人間にとって危険な森の奥─来て貰うのもアレかなと思い、今回は私の方から─玄関の修理が終わったので護衛も兼ねて─ギルドに出向くことにした。
なお出向くのはいつもの『町のギルド』ではなくて、代表くんが派遣されて来た『
向かうにあたり、「同行者はいらないよ」と言ったのだが、氷ぃっちが頑として聞かなかったので彼女だけを連れて街にやって来た。
「へぇこれが街かい。
想像していたよりもずっと小さいね」
「お嬢ちゃんの前いた世界規模から思えばそうでしょうね。
でもこの街の規模だと、この中で数千の人が暮らしているのよ。こちらの世界では十分に大きな街だわ」
「氷ぃっちはこの街のギルドに来たことはあるのかい?」
「あたしは実家のある西の方で主に活動していたのよ。
ただ指名依頼もあるから、まったく立ち寄っていない訳じゃないわ」
「その偶に立ち寄ったことで、面割れしたと言う事かな」
城の晩餐の際に素性がバレたことを思い出した。
「えぇそうみたい。名前が売れすぎるのも考え物よね……」
渋い顔を見せて深いため息を吐く氷ぃっちだった。
ギルドの場所は氷ぃっちに案内して貰う必要はなく、職人や護衛の冒険者らに付いていけば問題なくたどり着くことが出来た─彼らはギルドに行き報告と報酬を貰う必要があるのだ─
ギルドの建物は町の物とは二回りほど大きさが違っている。
「おおレンガ造りだよ!」
久しぶりに漆喰や木材以外の壁を見た気がするね!─他人の家と言う意味で─
しかし外見と違って中身は、町のソレを大規模にしただけで、間取りは大きく変わることは無くて少々ガッカリだよ。
「どこも同じ様にしないと流れの冒険者が困るからよ」
なるほどだね。
入口付近でそんなことを話していると、
「(おい、あれ)」と、何やらコソコソとこちらを伺う視線の様な物を感じた。
彼らはしきりにこちらをチラチラと盗み見ている。その視線は……、羨望かな?
「氷ぃっち、もう身バレしていないかい?」
「ええその様ね」
耳を澄ませていると、口々に『氷結の魔女』と言う単語が出ているから間違いないだろう。再びため息を吐く氷ぃっち。
「いやあ『Sランク』ともなると大変だねぇ」
『Sランク』とは、国に両手ほどの数も居ないレアな存在。冒険者連中からすれば羨望すべき成功者なのだ。─もちろん今も生きていると言う意味で─
そんな存在が入口で立っていれば、ギルドの職員は当然気が付き、慌ててこちらに走ってきた。そして、
「お話は伺っております。こちらへどうぞ」と、私たちはカウンターの奥にある豪華な部屋へと案内されたのだった。
中には、おっさんが二人と代表くんが待っていた。
「本日はご足労有難うございます」
挨拶の後は、きっと一番立場が低いだろう代表くんが率先して話を始める─最初は玄関の修繕の話だ─。
おっさん二人は完全に飾り。
彼らは私が室内に入った最初こそ恐れを含んだ表情を見せていた。しかし私─と氷ぃっち─を見てからは少々侮る様な態度に変わっている。
私は─外見だけは─十四歳の美少女で、そして氷ぃっちは『Sランク』に登りつめたとは言えまだ二十歳の美女だ。見た目だけなら、なんら恐れる要素は無いのだろう。
そんな空気を─うちに勧誘したいほど─優秀な代表くんが気づかない訳がない。彼は説明を続けながらも、額には冷や汗をかいていた。
魔王やんが渡した書類の内容は、大まかに言えば下記の二点の事が書かれていた。
『生死を問わない依頼の優先権』
『身分証明』
さて、まずは一つ目『生死を問わない依頼の優先権』だね。
冒険者ギルドは私たちが人を喰うことを知っている。それは食事の為であるから定期的に摂取しなければならないことも把握しているだろう。
定期的に生け贄を寄こせと言えば、当然だか許可は下りるわけがない。では言い方を変えてみてはどうだろう?
つまり、喰われてもよい犯罪者が居ればこちらに情報を差し出せと言う事だ。ギルドに生死を問わない様な依頼が入れば、掲示板に貼らずにこちらへ優先に回す、ただそれだけの話だ。
掲示板に貼ろうが、こちらに回そうが解決するのなら依頼主にとっては結果は同じだが、ギルドとしては罪のない人間が喰われなかったとしてプラスとなるし、私たちも人の法に触れない上にお金が儲かってプラスである。まさにWIN-WIN、おまけに私たちは失敗しないからWINが三連荘しちゃうまであるね。
続いて二つ目『身分証明』だが、こちらは正直どうでもよい─魔王やんがどうしてもと欲しがったのだ─。
例えば私が街中を歩いていても問わない、今回のように建物が破壊されたり、家具などを買い替える場合にはギルドから職人を手配すると言う類のものだ。
暗に私たちが人を襲わなければと言う意味ではあったが、この手の話はやはり明文化が必要の様で、締結にあたって正式に『危害を加えない限り』と言う一文が追加された。
この一文は、あちらにとっては市民や職人などの保護を目的に追加したつもりだろう。しかしこちらからすれば、襲いかかってくる馬鹿は喰っても良いと言う意味となる。
若干の思い違があるだろうが、あえてグレーゾーンを指摘しないことも大切だと知っているつもりだ。
さて説明が終わり双方のサインで合意と言う所で、終始、─今では踏ん反り返っている─偉そうな置き物だったおっさんらが動いた。
「きみ、本当にこんな契約が必要なのかね?」
威圧的な態度で代表くんに訪ねるおっさんA。意訳すれば、『こんな危険に見えない小娘相手に~』と言った所かな?
問われた代表くんは、─こちらの顔色を伺いながら─盛大に焦った。内面ではきっと、今さら話を荒立てるなとか、蒸し返すなとか、大変迷惑に感じているだろう。
何とか怒りを抑えて、「必要です」と平静を装った声を短く絞り出す代表くん。
うん、君は頑張ったね。
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