ささくれ小僧の帰還

ねこ大名

ささくれ小僧の帰還

 奴がこの村に帰ってくる。

 村一番の問題児だった男が一族郎党を引き連れて、錦を飾りに。

 親を捨て、家業を捨て、うぬぼれた挙句にこの村を追われた男。

 指先にできた嫌われ者、その所以ゆえんたる親不孝者。

 通称「ささくれ小僧」のご帰還である。


 今でもそうだが、この辺境の地は時折訪れる旅行者を「追い剝ぎ」をしてやっと生計がたつほどの貧しいところである。

 ほとんどの村人は何代も疑うことなくその生活様式を継承していたが、奴だけは違った。あることをきっかけにこの呪われた家業を逆剥さかむけた。若者特有のアナーキズムの発露。はねかえったのだ。

 それは奴がある旅回りの男を追い剥ぎ、収奪して以来の事だ。

 その男は奇術師で、木片で出来た「死んでいる」人形たちにかりそめの生命を与え、まるで生きているかのように操るという少し変わった詐術を使って見世物にしていたのだった。奴はその秘術を生前の男から脅して聞き出し、その再現と口封じに成功した。以来、

「俺は王になる」

 と、奴は大言壮語し、触れ回った。

 気が触れていた。

 奴は王どころか、(恐れ多いことに)神になろうとしていたに違いない。


 奴の親父たる俺は、いくら追剥ぎとはいえ、先祖代々の無血主義の血筋を汚すことは許せなかった。


 奴を放逐後、間もなく「ささくれ小僧」は見事に騒乱罪により収監された。それでも人形遣いの奴は、お手の物の人形=クローン兵を蜂起させ、各地で内乱を起こした。

 偶然にも、ある重大な事象の蔓延がかさなり、現政権はあえなく転覆。流刑地に拘禁されていた奴ら重大政治犯たちは自らを解放、再武装していとも簡単に首都を制圧した。

 そして最後に残していたと言わんばかりにこの村に帰還するわけなのだ。


 奴が帰ってくる!

 そして既に時代も変わった。

 かつて奴を追い出した善良な俺達は、最早前言を撤回、身を翻して熱く「奴」を抱きしめよう!

 もう既に疫病に犯され、同様に木片のように逆剥け、ただれた俺達の体を使って、全身で。

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