第157話 ナマリの回想
俺はほこり高き魔人族の血をひく。名前は……えっとナマリだ!
「ああ。お前、名前がないんだったな。髪の毛が鉛色だからナマリな」
オドノ様がつけてくれた名前なんだぞ! でもナマリ色ってどんな色?
オドノ様はやっぱり強い! 村のみんなで倒すような魔物を一人でばんばん倒すんだもん! なんかモモがえらそうに、こっちを見てるのが気にいらないけど。
お昼ごはんの時間だ! オドノ様がパンを切り分けてチーズを火であぶってる。なんで知ってるかって? オドノ様に教えてもらったんだ。パンは小麦ってしょくぶつをう、うすでひいて粉にしたので作るんだぞ。チーズはえっと……うしの牛乳から作るんだぞ!
「ナマリ、ほらお前の分だ」
「オドノ様、ありがと!」
オドノ様から渡されたパンにかぶりつくと、とけたチーズが伸びる。おいしい! なんでアンデッドなのに味がわかるんだって? 俺は特別だってオドノ様が言ってた! 特別ってすごいってことなんだぞ! あっ! モモがあわてて食べてる俺を見て笑ってる。自分だって口の周りに牛乳つけてるくせに。モモは小さいけどお姉さんぶるんだ。
「ナマリ、慌てて食べるな。口の周りが汚れてる」
オドノ様が俺の口の周りを布でふいてくれた。でもそれを見たモモが、ほっぺをふくらませて俺の頭をペシペシ叩く。ほらな! お姉さんぶってても、モモはすぐヤキモチ焼くんだもんな。
「これから俺たちはどんどん下に潜っていくわけだが、ナマリは弱いから――」
「俺は強いぞ!」
モモがやれやれみたいな感じで両手を上げて首を横にふってる。なんかムカつく。
オドノ様の両手に、いつのまにか黒いスライムがのってた。
「こいつらは四十層と五十層の支配者だった『兇獸ボラモブラン』に『同族喰いのメィフェントン』だ。どっちも俺が殺して死霊魔法で蘇らせたあとに、錬金術でスライムに錬成したものだ。
今からこいつらをナマリが使えるようにするからじっとしてろよ」
「わかった!」
本当はわかってないけど。オドノ様がしんけんな顔でスライムに魔力をこめると、スライムがすっごいあばれて大変だった。スライムがおとなしくなったあとは俺の角の中にすいこまれて終わったみたい。
「どうだ? 力を引き出して使えるか?」
「まかせて! うんんんっ!! オドノ様、どう?」
「全然駄目だな」
オドノ様は少しがっかりしたみたいで、モモが頭をなでてた。でも安心して! 俺がオドノ様を守るから!
オドノ様はやっぱり強くてどんどん下に潜っていく。いまは六十一層ってところみたい。そこら中にでっかい蟻がいるんだ。
「このまま真っ直ぐ進めば六十二層に行けるな」
「へぇ。オドノ様はすっごいな!」
こんな広くて迷路みたいなところを迷わないなんてオドノ様はすごい! あれ? まっすぐって言ってたのにオドノ様が右にまがったぞ。
「オドノ様、あそこ!」
「なんかあったか?」
蟻がいっぱい走ってた。けむりがすごくて一番前にガイコツのお化けが走って……ないや。ふわふわ浮かびながら逃げてた!
「ガイコツのお化けが追いかけられてるよ!」
「ふ~ん」
「オドノ様、助けないの?」
「なんだ。ナマリ、助けてやりたいのか。仕方がないな」
オドノ様はめんどくさそうな
「人族が……なんのつもりだっ!」
「勘違いするな。ナマリに頼まれたからだ」
「穢らわしい! 消えろ!!」
あっ! ガイコツのお化けがいきなりオドノ様に魔法をうったんだ。
「オドノ様になにすんだっ!!」
そこでなんか頭の中が真っ白になって、次に気づいたら周りが平らになってたんだ。
「ナマリ、お前は俺が許可を出すとき以外は力を使うの禁止な」
よくわかんないけど、俺のせいでこうなったんだって。ガイコツのお化け? がなんか消えかけてたけど、オドノ様が治してあげてた。なんか俺が寝てるあいだに話してたみたい。ガイコツのお化けがシロの姿を見て悲鳴をあげてたのはおかしかった。
「ナマリ! マスターに対して失礼だろう!」
「うるさい! 俺より弱いくせにラスはなまいき!」
「なっ!? お前の力はマスターのおかげだろうが!」
ガイコツのお化けはラスって名前なんだって。いちいちうるさいから、よくケンカするんだ。でもオドノ様のことが好きみたい。俺の方が好きなんだけどね。
ラスが仲間になってからもずっと下に向かってたんさくしてたんだけど、なんどか人族がオドノ様に会いにきてた。し、しょうにんって仕事をしてるみたいで、オドノ様ととりひきがしたいんだって。でも何人かは相手にされずに追い返されてた。なにが違うんだろう? 今日きた奴らはもーべる王国の第三王子なんだって。王子ってえらいみたいだけど、オドノ様の方がずっとえらいんだぞ! 王子はモモのことを見たら、なんかすっごい興奮して、オドノ様にモモをくれないかって頼んでた。あんまりにもしつこいから、モモが怒って魔法でふっとばしてた。王子はふっとばされたのに嬉しそうな顔をしてたからいいんだって。
「マスター、『腐界のエンリオ』を攻略しましたね」
「案外たいしたことなかったな」
今いるここは『腐界のエンリオ』最下層なんだって。腐ったアンデッドがボスだったんだけど、オドノ様の敵じゃなかった。ボスはいっぱい宝を持ってて、その中に女がいたんだ。
「天魔族ですね。『腐敗のドンドコラポォ』が囲っていたのでしょう。いかがいたします?」
羽の生えた女は天魔族なんだって。おババがず~と昔に天魔族と人族がまじわって魔人族が生まれたっていってたけど、よくわかんない。
天魔族の女は魔法とかくさりでこうそくされてたんだけど、オドノ様が簡単にかいほうしたんだ。やっぱりオドノ様はすごいっ!
「邪魔だからどっかいけよ」
天魔族の女がずっとついてくる。ラスが殺しましょうかって言ってたけど、オドノ様に怒られてた。や~い、ラス怒られたってからかったら、すっごい追いかけられた。オドノ様が何回ついてくるなって言ってもついてくるから、仕方なしについてきていいよってオドノ様が言ってた。オドノ様はいっつも言い訳するんだよね。
「こいつの名前はトーチャーだ」
天魔族の女はトーチャーって名前なんだって。はずずかしがり屋なのかオドノ様としかしゃべらないんだ。モモがまたヤキモチ焼いてほっぺをふくらませてた。そのままご飯の時間になったんだけど、蜂蜜入の牛乳を飲んだらトーチャーの羽がぴんっ! って広がってモモが転がっていった。おかしくて笑ってたらモモが怒って俺のほっぺたをつねったけど、俺は強いからぜんぜん痛くなかった。
「マスター、土地なら良い場所があります」
オドノ様はアジトがほしいんだって。良い場所はないかってみんなに聞いて、俺もモモもトーチャーも首を横に振ると、ラスがあるって自信満々に言ってた。なんか悔しかったから殴ったらすっごい吹っ飛んでった。この前、最下層のボスを取り込んだからかもしれない。ラスが調子に乗るなよってうるさかった。
「使い魔がついたみたいだな」
オドノ様の使い魔が、ラスの言ってた場所についたみたいだ。
「マスター、いかがですか?」
「とりあえず行くか」
「ここからなら、私がロック鳥を召喚して乗って行けばすぐにつくでしょう」
「いや、ここと
「は? つ、繋げる?」
オドノ様が魔法を使ったら、見たこともない場所がでてきたんだ。前に村でヒスイ姉ちゃんを呼んだ魔法だから、俺はおどろかなかったぞ。ラスがじ、じくう魔法っ!? っておどろいてたのがおかしかった。トーチャーもおどろいた顔をしてたんだけど、モモはこれくらいでおどろかないのってオドノ様の頭の上で寝そべってた。えらそう。
「ラス~、ここなーんにもないよ?」
「当たり前だ。ここは遥か昔に大賢者と『超越者ガジン』が戦った場所だ」
「そんなの知らないよ! なにがガジンだよ! ラスのば~か!」
「き、貴様っ!」
ラスが言ってた場所はな~んにもなくて、ぜんぜん良い場所じゃなかったんだ。でもオドノ様は気に入ったみたいで、シロとあとから呼んだヒスイ姉ちゃんとお話してた。シロとヒスイ姉ちゃんでカイタク? ってのをするんだって。見る間に森ができていくんだけど、ここはすっごい広いからまだまだだなってオドノ様は言ってた。
アジトはシロとヒスイ姉ちゃんに任せて、俺たちは『腐界のエンリオ』の六十層に戻るんだって。そこが魔物の数が多くてちょうどいいってオドノ様が言ってた。ここでいっぱい戦って俺が一番強くなるんだ。だって俺がオドノ様を守るんだから!
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