第106話 誰のせい?

 都市カマーから東に2kmほど離れた道沿い。簡易な道に辺りは草原が続くその場所が、数百メートルに渡って焦土と化していた。黒くなった大地からはいまだに黒煙がいたるところで立ち上っており、この場所で行使された魔法がいかに凄まじかったかを物語っていた。

 焦土と化した大地の中心部には巨大な門がそびえ立っており、その風景に誰もが違和感を覚えるだろう。門の傍には人が近づくのを拒むかのように、炎の壁が数百メートルに渡って立ち塞がっていた。


「おい」


 筋骨隆々で髪の一部が焦げた大男――ジョゼフが魔玉の欠片を集めているクロに話しかける。クロはジョゼフの呼びかけに反応を示さずに黙々と作業を続けていた。


「おい、おいっ! お前だよ。そこの黒いゴブリン。無視してんじゃねぇぞ」


 付与士の男、アンスガー・フォッドの召喚したロック鳥によって、なんとかユウの魔法から逃げ延びることができたジョゼフだったが、その後アンスガーにまんまと逃げられたジョゼフは機嫌が悪かった。


「む? 某に話しかけていたのか変態」

「こらっ、誰が変態だ」

「変態の自覚がないとは末期か……」

「この前みたいにぶちのめすぞ」

「ふむ。貴様のような変態では、男子三日会わざれば刮目して見よ、という言葉を言ってもわからぬか」

「あ? なにを訳のわからねぇ……っ!?」


 レッサーデーモンの死骸から魔玉を剥ぎ取っていたクロがゆらりと立ち上がる。『闘技』によって魔力が身体を覆っていく。魔力は流水の如くクロの全身を駆け巡っていた。


「ゴブリンが『流動』を使いこなすだと?」


 以前ユウたちのCランク昇格クエストで、クロをぶちのめしてからそれほど日が経っていないにもかかわらず、目の前にいるクロの成長にジョゼフは驚きを隠せなかった。

 それでもジョゼフとクロには圧倒的な戦力差があるのだが。


「どうした? 変態め、かかってこい」

「調子に乗んなよ。今はお前と遊んでいる暇はねぇ。

 ユウがどこに行ったかを教えろ」

「むぅ……」

「むぅ……じゃねぇよ。まさかお前も知らないなんてことはないだろうな?」


 無言のクロの態度を肯定ととったジョゼフが、溜息をつく。


「役に立たねぇ野郎だな」


 まだまだ語彙の少ないクロは、ジョゼフに言い返すこともできずに「ぐぬぬっ」と唸ることしかできなかった。

 調子に乗ったジョゼフはさらにクロをおちょくると、これにキレたクロがジョゼフに襲いかかる。クロの斬撃を躱しながら、ジョゼフは当初の目的も忘れておちょくり続けた。


「あいつらはなにをやってるんだい」


 いまだに門からはレッサーデーモンが這い出て来るにもかかわらず、クロをおちょくりながら倒していくジョゼフに、アニタは呆れる。


 ユウの魔法から距離をとっていたアニタたちは、焦土と化した大地の惨状に唖然とする。


「いやいや、こんなことたった1人の魔法でできるの?」

「ワーシャンさん、前衛のあたいに聞かれてもわかんないっすよ」

「だろうね。モーランに聞いた私がバカだったわ。で、メメットどうなの?」 

「う~ん、どうなのって言われても……あんな大規模な魔法を下準備もなしにってなると、Bランク冒険者『焔のエリオット』かAランク冒険者『水仙花』のヨハナが、同じような大規模魔法を使っているのを見たことがあるかな」

「つまり、あのユウって子は最低でもBランク以上の実力があるってことね」

「ワーシャンさん、言っておきますが今挙げた2名は純粋な後衛職ですよ。ユウは剣も使いこなすんで、それを考えるとAランクの冒険者と比較しても遜色はないかなぁ」


 淡々と話すメメットの言葉にワーシャンが驚く。12~14歳くらいの男の子が、Aランク冒険者と遜色のない実力だということにショックを受ける。

 動揺を隠しながらメメットと話を続けようとするが――


「あっ~! わ、私のピクシーちゃんがいなくなった……」


 可愛い物に目がないベルがモモを探すが見つからない。探すフリをしてアプリの胸の中やどさくさに紛れてメメットの頬をすりすりして、アニタに頭を叩かれる。




 大地を揺るがす地響きがニーナたちの身体にまで響いてくる。地響きの発生源はユウとゴーリアとの間で起こる凄まじい打ち合いだった。

 ユウを強者と認めたゴーリアは、当初の目的など忘れたかのようにユウに襲いかかり、魔法も含めた本気の攻撃を繰り出す。


「其の身に付けるは鉄、身体を蝕むは鋼、其の重積に頭を垂れろ『鈍重』」


 ゴーリアの付与魔法第3位階『鈍重』によって、ユウの全身が鉛のように重くなるが、すかさず付与魔法第4位階『クィック』で上書きする。


「チェッ、なら次は――霧よ毒となり我が敵に纏わり付け『ポイズンミスト』」


 猛毒の霧がユウを包み込むが、パッシブスキル『状態異常耐性』と装備についている『状態異常耐性』によってレジストされる。


「喰らえっ!」


 魔法をレジストした一瞬の隙を見逃さずに、ゴーリアの槌技『旋風』がユウ目掛けて迫るが、ユウの結界によって阻まれる。結界は1枚ではゴーリアの攻撃を防ぎきれずに2枚も壊れ、3枚目の結界でやっと鋼竜のハンマーを止めることに成功する。鋼竜のハンマーを引き戻そうとするゴーリアだが、ユウの剣技『乱れ突き』がゴーリアの身体を刺し貫く。


「へぇ……オイラの身体に傷をつけるなんてやるじゃないか」


 完璧に決まったユウの『乱れ突き』だったが、ゴーリアの強靭な肉体には数センチしか刃が通らなかった。


「それにしてもオイラの攻撃を結界で防ぐなんて、オイラますますやる気が出てきたな。さっきのシープウルフみたいに粉々にしてやるんだな」

「…………あ?」


 ゴーリアの言葉にユウの全身から力が抜けていく。展開していた『結界』は消え失せ、『闘技』によって体内を強化していた魔力も消え、完全な無防備な状態で棒立ちになる。


「ん? あのシープウルフはお前のか? てこずったけどオイラが少し本気を出したら簡単に死んだよ~。おっ、ここにも挽き肉になったやつがあるじゃないか」


 ゴーリアはなにが楽しいのか、得意気になってスッケの肉片の一部をユウの足元へ蹴り飛ばす。ユウは足元に飛んできた肉片を呆然と見る。見覚えのある白い毛がついたそれを……。


 呆然となり、隙だらけとなったユウを見逃すほどゴーリアは甘くなかった。


「同じ技でやっつけてやる!」


 ゴーリアの全身の筋肉が膨れ上がり、槌技『暴凶破壊槌』がユウの頭上より襲いかかる。咄嗟にユウは魔法の盾で頭上を庇い『闘技』を発動するが、身体ごと地面に沈んでいく。

 ニーナとマリファの叫び声が、砕け散る大地の音に掻き消されていく。


「へっへ~やっと決まったんだな。さすがにオイラの技をまともに喰らえば……」

「もう一度言え」


 ゴーリアの目の前にはユウが立っていた。自身の攻撃を受けて平然としている姿に唖然とするゴーリアだったが、よく見れば魔法の盾は砕け散り、ユウの左腕は原型を留めていないほど破壊されていた。


「あ~驚いた。オイラの攻撃を受けて無傷なわけがないんだな。

 もう一度? あのシープウルフのことか? だからオイラが挽き肉に――」


 ユウの左腕が急速に再生されていく。パッシブスキル『再生』に固有スキル『再生』、二つの『再生』スキルが合わさり、尋常ではない速度で左腕が回復していく。


「お前、竜人族でもないのに『再生』スキルを持ってるのか。だけどオイラの――」


 言葉を言い切る前にユウの剣技『閃光花飛』がゴーリアの鼻を斬り裂く。ゴーリアの目を以てしても捉えることのできないほどの剣速に、出血する鼻を押さえながらゴーリアは驚く。


「誰がそんなこと聞いた。お前が……殺し……ただと?」


 自慢の鼻を斬り裂かれたゴーリアのこめかみに青筋が浮かび上がり。眼光に殺気が漲っていく。ユウも全身から抑えきれない殺気が漏れ出していた。


「お、お前……オイラの鼻を……っ! 許さないぞ……あのシープウルフみたいに挽き肉にしてやるっ!!」


 激昂したゴーリアが天高く飛び上がると全身が二回りも大きく膨れ上がり、着込んでいるレッサーデーモンのレザージャケットが悲鳴を上げるかのように伸びていく。

 ニーナを大地ごと吹き飛ばした、槌技『暴威鋼虐圧潰』の体勢に入ったゴーリアを止めるわけでもなく、ユウは迎え撃つ姿勢をとる。


「バカなっ! あの攻撃を受け止めるつもりか!?」


 拘束されている聖ジャーダルクの隊長が、ゴーリアの馬鹿げた破壊力の攻撃を止めるのではなく、受け止めようとするユウの正気を疑うかのように思わず叫ぶ。


「死っねえぇぇぇっ!!」


 ゴーリアから放たれた槌技『暴威鋼虐圧潰』がユウを粉々にしようと迫り来る。対するユウは左腕で剣技『閃光花飛』を放つ。


(ば~かっ、そんな技でオイラの『暴威鋼虐圧潰』が防げるか!)


 ほくそ笑むゴーリアだったが、ユウの狙いはゴーリアの鋼竜のハンマーでもゴーリア自身でもなく、鋼竜のハンマーを握っている指先だった。まともに鋼竜のハンマーと打ち合えば、ウッズの鍛えたスピリッツソードと言えど、容易く砕け散ってしまうだろう。そこでユウはゴーリアの握り手に狙いを定めていたのだ。

 ユウの放った『閃光花飛』がゴーリアの両手の指を数本斬り落とす。握り手の指を斬り落とされたゴーリアの狙いがズレ、ユウの頭部から左肩に鋼竜のハンマーが振り下ろされる。

 鋼竜のハンマーは勢いを落とすことなく、ユウの左肩から再生したばかりの左腕を根こそぎ持っていく。


「チッ……この程度でっ! オイラの攻撃が終わると思うなよ!」


 ゴーリアは鋼竜のハンマーを地面に接触する寸前に向きを変え、横回転にするとその勢いを利用し、槌技『旋風』に連動させる。しかし、身体ごと回転したために、ゴーリアはユウに背中を見せてしまう。


「同じ目にあわせてやる」


 高速での戦闘中だったがゴーリアの耳には確かに聞こえた。その言葉を聞いた瞬間、ゴーリアの背筋に冷たいものが走る。

 ユウの左腕を吹き飛ばした際にスピリッツソードも飛んでいったので、ユウは武器を持っていない。体術であれば自慢の肉体であれば耐えられる。魔法であれば『魔王セーンの指輪』が吸収する。なにも恐れることなどないはずにもかかわらず、ゴーリアの全身から熱が奪われるように冷えていく。


 ユウに背中を見せていたゴーリアは気づかなかった。ゴーリアが身体を回転させた瞬間にユウはアイテムポーチから飛竜の槍を取り出したことに。かつてユウを苦しめた竜人の技を放つ。槍技『螺旋・剛』。


 螺旋の回転を伴った飛竜の槍が、強靭な肉体を持つゴーリアの背中から腹部にかけて貫通する。

 腹部から飛び出した飛竜の槍をゴーリアは掴むとそのまま引き抜く。

 槌技『旋風』の発動を止められ、腹部を刺し貫かれたにもかかわらず、ゴーリアの戦意は落ちる気配がなかったのは、さすがは死徒の一人といえるだろう。だが、穴の空いた腹部よりユウの貫手が飛び出してくる。


「げふっ! こ、この野郎。ち、調子に乗る……なよ」


 ゴーリアは腹部から飛び出してきたユウの右手を掴むと、力任せに圧し折る。ゴーリアの膂力によってユウの右手は手首から半ば千切れぶら下がる。


「ざ、ざまぁみ……ろ」

「同じ目にあわせてやるって言っただろ」


 ユウの右手はスキル『魔拳』により、魔法の力が集まっていく。込められた魔法は黒魔法第4位階『エクスプロージョン』。

 体内で発動した『エクスプロージョン』の爆発がゴーリアの体内を駆け巡る。爆発の一部は『魔王セーンの指輪』が吸収するが、体内で発動した攻撃魔法を全て吸収するには至らず。ゴーリアの右手と腹部の半分が『エクスプロージョン』によって吹き飛ばされる。


「こん……なばか、な。オ、オイラがこん……なガキに……ま、拙い本当に死……ぬ」


 ゴーリアはなんとかアイテムポーチからポーション(3級)を取り出すと、飲まずに腹部へ直接かける。強力な治癒効果を持つポーションの力によって、ゴーリアの腹部の傷が回復していく。もう1本ポーションを取り出し、腹部へかけようとするゴーリアだったが、その右手首をユウの左手が握り締める。


「ぐあ゛ぁぁっ! お、お前っ、もう……ひ、左腕が再生しっ、ぐぅぅあ゛あ゛あ゛っ!! 放せっ!!」


 損傷した右手を、ユウに握り締められたゴーリアが苦痛の悲鳴を上げる。


(このままだと……ほ、本当に殺される……なんとかこ、こいつ……の意識を違う方に……)


「へ……へへ、なんでオイラやジャーダルクのや、奴らがここに来たと思う?

 お前だよ。お前を狙って来たんだよ! へっへ、お前がいなけりゃあの犬ころも死なずに済んだんだ。お前の女も怪我をすることもなかったな。ぜ、ぜ~んぶ、お前のせいだな!」

「違うっ! 嘘を言うな!」


 ニーナが叫ぶが、立ち竦むユウは聞こえているのか聞こえていないのか反応を示さない。

 ゴーリアを拘束するユウの手からは力が抜け落ちていき。ゴーリアの狙いどおりにユウは茫然自失となっていた。このとき、ゴーリアはそのまま逃走に全力を注ぎ込めば、高い確率で逃げることができていた――だがゴーリアの悪癖が出てしまう。絶望、苦痛、苦悩、相手の負の表情を眺めたい癖が出てしまったのだ。

 その結果――ユウの眼を見てしまう。


「へ、へへ…………な、なんだその眼はっ!?」


 次の瞬間、ゴーリアの両手首が握り潰される。強靭な肉体を持つゴーリアの手首が鈍い音と共に砕かれ、行き場を失った橈骨と尺骨が皮膚を突き破って飛び出す。激痛がゴーリアを襲うが、それを上回る感情が身体を支配する。

 強者として奪う側だったゴーリアが久しく忘れていた感情――恐怖。


「あ……あぁ……」


 諜報員として、血の滲むような訓練を受けてきた聖国ジャーダルク諜報員の隊長も、ゴーリアと同様に恐怖で身体を震わしていた。


「お前ら……ツイてないな。簡単には死ねなくなった」

「オイラが拷問で口を割るとでも思っているのなら――」


 恐怖で震える身体を押さえきれないゴーリアが、強気の発言をしようとするが、それを遮るようにユウが言葉を被せる。


「話すさ。俺が受けたのと同じことをお前らにもするんだからな。

 安心しろ。俺は回復も精神を安定させる魔法も使える。万が一のことがあっても、死亡直後なら死霊魔法で蘇らせることができる。お前らはきっと俺に懇願するさ。殺してくれってな」

「オイラに手を出せば、イモータリッティー教団が黙って……ギャアアァァッ!!」


 ユウは無造作にゴーリアの砕けた手首を引き千切る。のたうち回るゴーリアを足で押さえつけると、スピリットソードを拾い上げ、そのまま両足の膝から下を斬り落とす。まるでニーナの仕返しだと言わんばかりだった。さらに追い打ちをかけるかの如く、『魔拳』で拳に火を纏うとゴーリアの傷口を焼くことによって出血を止める。周囲を肉が焼ける臭いが立ち込める。その悍ましい光景に、聖国ジャーダルクの諜報員隊長の男は嘔吐する。


 ユウはその後、聖国ジャーダルクの諜報員隊長の男にも同様の行為をする。ゴーリア共々、あまりの激痛に意識を失っていた。


「マリファ」

「は、はい」


 名前を呼ばれ慌てるマリファへ、ユウはアイテムポーチを放り投げる。


「ご主人様、これは……」

「その中には金が入っている。三人で分けろ」

「お金なら十分に頂いています」

「俺はしばらく家を空ける。その金で自分を買い戻しても、数年は生活できるくらいの金は入っている」


 ユウの言葉にマリファの頭の中が真っ白になる。離れた場所でいまだ結界の中のニーナが叫ぶ。結界を素手で叩くあまり手には血が滲んでいた。


「な……なぜですか」

「聞いていただろ。こいつらは俺を狙って来たんだ。ジャーダルクにイモータリッティー教団、どっちも個人で太刀打ちできるもんじゃないだろ」


 ユウは一方的に話すと、ゴーリアと諜報員の隊長を引き摺りながら歩き出す。

 マリファは思わず追いかけようとするが、ユウの背中を見て踏み止まった。


「ご主人様、世界樹が枯れるまでお待ちしています」

「なんだそりゃ」


 振り返りもせずに去って行くユウを見つめ、目に涙を溜めながらマリファは見送る。

 世界樹――エルフとダークエルフの聖地にあると言われている。そこでは犬猿の仲のエルフとダークエルフも争うこともなく、世界樹を数千年に渡って守護している。

 原初より世界を見守っているとされる世界樹――短い言葉の中に、マリファのユウに伝えたいことが、幾千の言葉以上にこもっていた。


「マリちゃんっ! 止めて! ユウが行っちゃうよ! マリちゃん! レナっ、起きて! レナ! ユウが行っちゃうよ! ユウが、ユウが……ユウ、行かないでっ! 待って……待ってよ……」


 ニーナの手は血塗れになっていたが、ユウと繋がっている魔力の糸によって随時回復していく。ニーナはミスリルダガーを握り締める。ミスリルダガーには攻撃時に、MPを吸収する効果が付与されていた。

 力任せに結界に斬りつけると、薄っすらではあるが傷ができる。効果を確認したニーナは闇雲に結界を斬りつける。鬼気迫る姿で結界を斬りつけるニーナだったが、結界は傷ができては修復されていく。

 ニーナは諦めず、ユウの姿が見えなくなっても結界を斬りつけていたが、日が暮れ辺りを暗闇が覆うと無言のまま蹲った。ニーナたちの結界が解除されたのはそれからさらに1時間経ってからであった。




 都市カマーの大通り夜になれば昼間とは違い、道行く人々は大人が占めていた。ほろ酔い気分でふらついている者や男性専門の店に連れて行こうとする呼び込みの女、迷宮帰りの冒険者の集団などで賑わっていた。


「すみません。ユウ、知りませんか」

「ユウ? 誰だそりゃ。それより姉ちゃん、良い身体してるじゃねぇか。俺と遊ばねぇか?」




「ユウ、見かけませんでしたか?」

「なによあんた? 商売の邪魔だからあっち行ってよ」




「黒髪の男の子なんですが見ませんでしたか?」

「黒髪? 見てないな」


 道行く人々にユウの行方を尋ねるニーナの姿が、大通りから人が消え去る深夜まで多くの人の目に留まった。


 その日を境に、都市カマーからユウは姿を消した。

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