第38話 ゴブリンキング②
周囲に浮かぶ8個のエネルギー球。普段ならファイアーボールを数十個展開するのだが、今回は周囲に木々が生い茂っているため『エクスプロージョン』を展開している。黒魔法第4位階の魔法なので、現在の魔力・MPだと同時に8個展開するのが限界だった。いや……今はそんなことよりあっちだ。
いきなり爆発が起こり、俺たちを囲んでいたゴブリンの群れの一部が崩壊した。
爆発の起こったほうを見ると、冒険者と思われる者たちがいた。
少年の冒険者は周囲に8個の光る玉を展開しているので、先ほどの爆発は恐らくこの少年の魔法によるものだと考えられる。
ミミムは横で信じられないと呟いているが、魔法の専門でもない俺でもあの爆発を起こした魔法が、上位のモノだとわかった。
それに斥候職と思われる男には見覚えがあった。たしかラリットという、もうすぐCランクになると噂されている冒険者だ。これで助かる確率がさらに上がった。
ゴブリンキングに斬り落とされた箇所を抑えながら、グラッツとミミムを睨みつける。
いまだにレナの胸倉を掴んだままのグラッツは、現れた冒険者たちを見ながら呆然としている。その中の1人がニーナであることから、レナを助けに来たことがわかったが、相手はゴブリンキングに数百を超えるゴブリンの群れだ。
無駄に犠牲が増えるだけかもしれない。だがゴブリンたちの動きがおかしい……いや、それどころか動きが止まっている。ゴブリンキングからは笑みが消え去り、少年の冒険者から目をそらさない。
ユウたちがレナのほうへ向かって歩くが、ゴブリンたちに動きはない。ゴブリンキングもさらに距離を取り、警戒をしているのがわかる。
「ユウ、さっきの魔法すげえな? 前衛職じゃなくて後衛職だったのか?
それにしても……相手がゴブリンキングとは、俺もツイてねえな」
ラリットはそう言いながらも、逃げ出さない。本当にお人好しなんだなと、ユウは思いつつ感謝していた。
「うぅ~あの人なんで、レナの胸ぐら掴んでるのよ!」
珍しくニーナが怒っている。怒っているが状況はわかっているようで、周囲への警戒を怠らず両手に武器を持ち、いつでも攻撃に移れる姿勢だ。
俺はレナの胸倉を掴んでいる男の前まで行くと、男がふざけたことを言ってきた。
「た、助かった! これで生きて帰れるかもしれないぜっ!!」
「……ユウ……来ちゃだめ…………」
取り敢えず胸倉を掴んでいた腕を、力任せにへし折った。よくわからないが今は機嫌が悪い。なぜかさっきからイライラする。
「ぎゃあああああっ!! な、なにしやがるっ!?」
「いつまで
むっ……思わずレナの名前を呼んでしまった。レナはよほど苦しかったのか、目に涙がどんどん溜まって今にも溢れそうだ。このカスたちのステータスを確認する。
名前 :ムーガ・セッコォ
種族 :人間
ジョブ:戦士・重戦士
LV :20
HP :504
MP :73
力 :209
敏捷 :63
体力 :106
知力 :26
魔力 :32
運 :16
パッシブスキル
盾術LV1
棍術LV2
剣術LV1
腕力上昇LV1
アクティブスキル
盾技LV1
棍技LV2
剣技LV1
闘技LV2
固有スキル
ゴブリンキラー
装備
武器:鋼鉄の剣(6級):なし
防具:鉄の鎧(6級):なし
:鉄のガントレット(6級):なし
:レザーブーツ(6級):なし
装飾:アレストリング(6級):毒耐性
名前 :グラッツ・モフ
種族 :人間
ジョブ:戦士・騎士
LV :21
HP :456
MP :102
力 :186
敏捷 :96
体力 :99
知力 :34
魔力 :35
運 :18
パッシブスキル
剣術LV2
槍術LV2
盾術LV2
アクティブスキル
剣技LV1
槍術LV2
闘技LV2
盾技LV2
固有スキル
ビーストキラー
装備
武器:鉄の槍(6級):なし
防具:鉄の兜(6級):なし
:鋼鉄の鎧(6級):なし
:鋼鉄のガントレット(6級):なし
:タワーシールド(5級):なし
:鋼鉄のレガース(6級):なし
装飾:力の指輪(6級):筋力上昇
名前 :ミミム・フュムス
種族 :ハーフエルフ
ジョブ:魔術師・精霊術士
LV :23
HP :165
MP :302
力 :49
敏捷 :53
体力 :43
知力 :106
魔力 :136
運 :26
パッシブスキル
杖術LV2
半魔眼LV1
詠唱速度上昇LV1
MP回復速度上昇LV1
アクティブスキル
黒魔法LV3
精霊魔法LV2
魔力覚醒LV1
結界LV1
固有スキル
聴覚上昇
装備
武器:魔術師の杖(5級):魔法効果上昇
防具:魔術師のローブ(5級):魔法耐性上昇
:皮の靴(6級):なし
装飾:癒しの指輪(5級):HP回復速度上昇
:エルフの指輪(5級):魔法効果上昇
「なんてことを! 今は力を合わせてこの危機を脱出するべきです!!
ニーナさんからも、この少年に言って下さい」
ハーフエルフの男が、自分達のことを棚に上げて何か言っている。
「力を合わせる? 冗談で言っているのか? そこの盾を持っている奴、なんで攻撃を受けてレナを守らない? 後衛職を守るのは、盾職の基本じゃないのか?」
腕をへし折られて膝をついていたグラッツが、恨みがましくこちらを見ながら吠える。
「ふざ……けるなっ! お前は馬鹿なのか? 周りの魔物の数を見てみろよ! 自分の身を守るので精一杯だ……」
「パーティーメンバーも守れないんじゃ、盾職なんて辞めたほうがいいな。
次に
「私だって考えて魔法を使っています……」
そう言いつつもミミムは心当たりがあるのか、最後には黙ってしまった。
「言っておくが、俺はお前らと力を合わせる気はない。逃げたきゃ俺たちが来た方向から逃げるんだな」
グラッツとミミムは激昂して何か叫んでいるが、無視していると2人で逃げることを決めたようだ。
「ミミム、あいつらが来た場所はさっきの魔法で包囲が崩れている。そこからならなんとか逃げれるはずだ。少々のゴブリンがいるだろうが、俺が防ぎつつ、お前の魔法で倒せば問題ないはずだ」
「わかりました。それしか手はありませんね」
「お前たち、このことは『赤き流星』の盟主に伝えさせてもらうからな! 仮にお前たちが生きて帰ってきたとしても、ただでは済まないと思えっ!!」
グラッツが恫喝してくるが、ユウたちの誰も反応しない。ユウに至っては薄く笑みすら浮かべている。グラッツたちは、ゴブリンたちが動き出したのを見て慌てて行動を開始する。
「ぐぐ……あいつらっ……恥知らず共め…………」
「お前は少しは根性があるみたいだから見逃してやるよ」
ムーガは、ユウがなにを言っているのか理解できないといった表情をしている。
ユウはポーションとマナポーションをレナに渡す。
「涙なんか浮かべてそんなに怖かったのか? 弱虫め」
「レナ、もう大丈夫だよ~」
「……私は天才……こんなことで泣かない……」
「お前ら、こんな状況でよくふざけられるな」
ムーガの転がっている腕を拾い、白魔法で繋げていく。ついでに身体も回復させる。
「なっ!? お、お前……白魔法が使えるのか!?」
ムーガが驚くのも無理はない。切断された腕がものの数分で繋がったのだから、これほど強力な治癒の魔法はBランクでも中々いない。後ろでラリットの口が開いたままだ。
「これで大丈夫だと思うが、このまま座り込んだままでいるか、戦うかは好きにしろ」
ムーガはやっぱり根性はあるみたいで、立ち上がると剣を握りしめ戦うみたいだ。
ニーナはレナを抱きしめて顔を拭いている。グラッツに殴られて鼻血で血塗れだ。まあ、あいつらにはもう会うこともないだろう。
「俺がゴブリンキングと戦いながら魔法を放つから。ラリットは魔法をくぐり抜けて来たゴブリンの相手をしてくれ。レナは回復と援護、ニーナはレナが魔法に集中できるように護衛な」
「あいよ」
「ほい~」
「……わかった」
ゴブリンキングが低い声で唸りながら、こちらに近づいてくる。結構な時間が経っていたのに、なんで攻撃してこなかったのかがステータスを見るとわかった。
名前 :イ゛ア゛ヴン
種族 :ゴブリンキング
ランク:4
LV :26
HP :966
MP :362
力 :431
敏捷 :247
体力 :366
知力 :88
魔力 :163
運 :22
パッシブスキル
統率LV4
剣術LV5
威圧LV2
身体能力強化LV3
腕力強化LV3
繁殖LV5
アクティブスキル
剣技LV4
黒魔法LV5
闘技LV3
咆哮LV3
固有スキル
眷属従属LV2
以前、大森林で逃げて行ったゴブリンジェネラルだ。どおりで俺を見るなり警戒するわけだ。
「あいつら、必ず後悔させてやる……必ずだっ!!」
「今はここから生還することを考えましょう」
あのガキに折られた腕は、ポーションを飲んでもまだ痛みが取れない。
ミミムは回復魔法が使えない……くそハーフエルフのくせに、なんで回復魔法を覚えないんだよっ!
「わかってる。そらゴブリン共が来たぞ! 俺が盾技『挑発』で惹きつけるから、魔法で倒してくれ!」
「わかりました。火の精霊よ我、意思、願いを聞き――」
ミミムが詠唱を始めると同時に『挑発』を使うがおかしい……ゴブリン共がこちらに惹きつけられない――普通に俺とミミム目掛けて、襲いかかってくる。
とにかく、ミミムに襲いかかるゴブリンリーダーの剣を受け止めるが、いつもどおりに捌けない……。『闘技』もうまく発動できない……おかしい……おかしい……っ。
「ミミム!! 早く魔法をっ!」
「馬鹿な……魔法が発動しない!? 詠唱も魔力も問題なかったはず!」
ゴブリンリーダーの剣が、俺の太ももを斬り裂く。俺もミミムもまるでスキルがなくなったような状態だ。最初は数匹のゴブリンだったが、時間が経つ内にどんどん集まり、数十匹にまで増えてきた。拙い……ああ……今度は俺の腕にゴブリンナイトが噛みついてきた。ミミムの方はもっと悲惨だ。体中をゴブリンに……生きながら……食われている……嫌だ……嫌だ…………っ。
「し……じにだ……ぐ…………ない……」
ミミムはすでに意識が無くなっているようだ。纏わりつくゴブリンたちを振り払うが、次から次にゴブリンが噛みついてくる。
ゴブリンの広がった口が顔に迫るのを最後に俺も意識がなくなった……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます