第36話 野良パーティー②

「オラァッ!!」


 ムーガが叫びつつ、ゴブリンリーダーをメイスで叩き潰す。離れた場所でグラッツがゴブリンソルジャーの攻撃を盾で防ぎつつ、鋼鉄の剣で斬り裂く。

 ミミムは逃げようとしていたゴブリンナイトに、黒魔法第3位階『轟炎』を放つ。

 はっきり言って無駄な動きが多い。前衛のムーガは周りも見ずに前に突っ込みすぎだし、盾職のグラッツが離れた場所で好き勝手してどうする。ミミムもゴブリンナイト相手に過剰な威力の魔法を放ち、MPの無駄使いを繰り返している。


「レナちゃん、俺のメイス捌き見てくれた?」

「ば~か、それよりどんな攻撃も防ぐ俺の盾はすごいでしょっ!」

「あなたたちはわかっていませんね。レナさんは魔術師ですよ、私の高レベルな黒魔法はどうでした?」


 前衛職のムーガ、盾職のグラッツ、ハーフエルフで後衛職のミミム、この3人とゴブリンジェネラル討伐クエストを受けたのは、少しでも冒険者としての知識を得るためだったが失敗だったかもしれない。


「なに言ってんだ。大体エルフのくせに、精霊魔法より黒魔法が得意っておかしいだろ」

「俺が攻撃を防いでいるから、安全な場所で魔法を放つことができるんだぞ」

「ふっ、嫉妬ですか? そんなことより、レナさんはその若さで白魔法と黒魔法を使いこなすとは、素晴らしいですね。どうですか、私たちのクランに入る件は考えていただけたでしょうか? よければ先ほどのニーナさんもご一緒に」

「ミミムっ! 良いこと言うじゃないか。レナちゃんがいれば回復の心配はしなくていいし、バランスの良いパーティーになるよ」

「……無理」


 私は少しでも経験を積んで、ユウとニーナの役に立ちたいからパーティーに参加したのに、それでは本末転倒だ。


「それにレナさんは無詠唱で魔法を放っていましたが、詠唱破棄のスキルをお持ちなんですか?」

「……ない」

「持っていない? ではどうやって無詠唱で魔法を放っているのか、よろしければ教えていただけないでしょうか?」

「……無理」


 詠唱をせずに魔法を放つ方法は、ユウに教えてもらった技術だ。嫌そうにしていたけどユウは隠さず教えてくれた。この技術はパッシブスキル『無詠唱』や『詠唱破棄』のない後衛職なら、誰しもが知りたい技術だろう。

 そんなすごい技術を、おいそれと他人に教えるわけにはいかない。


「レナちゃん、そう言わずにさ~。いい加減信用して冒険者カードでも見せてよ。

 もちろん、俺たちのも見せるからさ」

「緊張してるのかな? ムーガはさ、こう見えても固有スキルを持ってるんだぜ。しかも固有スキルは『ゴブリンキラー』、な? このクエストにうってつけのスキルだろ? 俺も固有スキル『ビーストキラー』を持ってるんだけどね」

「へへへっ。グラッツ、俺のスキルばらすなよな」


 ばらすなと言いつつ、ムーガは満更でもない顔をしている。グラッツも簡単に自分のスキルを、初めてパーティーを組む私に教えるなど甘い冒険者だ。もし、ここにユウがいれば30分は説教されているだろう。ハーフエルフのミミムは精霊魔法LV2と黒魔法LV3の使い手だ。聞いてもいないのにベラベラ話してきた。

 彼らはランクEの冒険者で、固有スキルや黒魔法LV3はすごいのだろうが、自惚れ過ぎである。 




 鍛冶屋のおっちゃんの所に寄ってギルドへ行くと、ニーナがわんわん泣いていた。

 ラリットがそばでオロオロしている。ラリットと目が合うと、これ幸いにと大声で呼びかけてきた。


「ユウ~! こっちだぞっ!!」


 はっきり言って面倒だ。ニーナも俺に気づいたようでこちらに走ってくる。

 来るのはいいが、顔が涙と鼻水でえらいことになっている。


「ユ゛ウ゛ゥゥゥ~」


 最悪だ。ニーナが抱き着いて来たので、俺の鎧がニーナの涙と鼻水でグシャグシャだ。ニーナが一生懸命喋っているが、なにを言っているのかまったくわからないので、ラリットに説明を求めた。


「それのなにが悪いんだ?」


 ラリットの説明を聞くと、レナは経験のために他の冒険者とクエストを受け、大森林に向かったそうだ。冒険者たちが固定パーティーと呼ばれる、仲の良いメンバーとパーティーを組むこともあれば、今回のように必要なジョブ・能力を求められて、普段とは違う冒険者とパーティーを組むことは珍しいことではない。


「で……でも゛……う゛ぅ…………」

「確かに野良でパーティーを組むことは、珍しいことではないけどよ。

 今回、レナのお嬢ちゃんが組んだ相手が『赤き流星』クランのルーキーたちだからよ」

「『赤き流星』?」

「カマーで1番でかいクランだ。有名だからルーキーの多くは赤き流星にこぞって入るんだけどよ。赤き流星が有名だからって、自分まで強くなった気のルーキーが多いんだよな。

 レナのお嬢ちゃんを誘った奴らも、素質はあるんだろうが自惚れの強い奴らだからよ」

「ふ~ん、そんなに心配ならなんでニーナは行かなかったんだ?」

「わだちは……ひっく……ユ゛ウ以外とはパーティーぐまないよ」


(そういえば前にニーナは、冒険者に襲われそうになったと言ってたな)


「ゴブリンジェネラルの討伐だっけ? ランク3だし、レナがいれば大丈夫だろ」

「それが唯のゴブリンジェネラルじゃないそうなんだよ」

「名前付きなんだろ?」

「それだけじゃない、肌が黒色のゴブリンジェネラルだ。

 通常のゴブリンジェネラルなら肌の色は緑色だ」


 肌の色が違うとなにかあるのか。ニーナとラリットは、なにか期待するような目でこちらを見てくる。そのなにかはわかる。レナの様子を見に行ってほしいのだろうが、レナのためにそこまでする必要があるのか? レナは無口で愛想も悪い、初対面から生意気だったし厚かましい。ただ意外と仲間思いで寂しがり屋だな。

 あと匂いをやたらと嗅いでくるな。人見知りの激しい俺が邪険に扱っても、へこたれずに向かってくるのは根性があるな。俺の指摘も素直に受け取って努力するのも悪くないな……あれ……おかしいな。


「魔力草」

「「え?」」

「魔力草が切れかけてるんだった。忘れてたわ~、こっからだと大森林が1番近いかな」

「ユウ!」

「お前……もう少しうまい言い訳……それに魔力草なんて錬金術士でもなけりゃいらないだろうが……」




「これ以上奥に行くのは危険ですね」

「確かにこれ以上奥に進めば、ランク4以上の魔物が出てもおかしくないな」

「情報だとここら辺で見掛けたって話しなんだけどな」


 正直、このパーティーに苦痛を感じていたので、クエストはもうどうでもよくなっていた。早く帰ってユウの匂いを嗅ぎたいし、ニーナに抱きついてあの胸を枕に寝たい。


「仕方がないな。今日は一旦帰るか」


 今日は? 冗談じゃない。もうこの人たちとはパーティーを組むことはない。


「俺の固有スキルさえあれば、名前付きのゴブリンジェネラルだって余裕なんだけどな」


 ムーガが残念そうに呟いている。帰ろうとしたがミミムの様子がおかしい。


「ミミムどうしたんだ? 帰るぞ」

「待って下さい。なにかおかしい……音がしなくなっている」


 確かに音がしない。普段であれば虫や鳥、多くの生き物の声でうるさいのに、気づいたら音がしなくなっていた。


「こ、これは……囲まれている!?」

「なににだよ!」


 不安からか、グラッツが大きな声でミミムの声に反応する。


「お……おい……あれ見ろよ!」


 木々の間から、ゴブリンが湧き出るように姿を現す。


「へへ……どうやらゴブリンジェネラルと、その取り巻きのお出ましのようだな!

 俺たちの実力なら、ゴブリン共が何十匹いようが問題な――いっ!?」


 ゴブリンの数は私たちを囲むように配置され、その数は――優に100を超えていた。

 通常のゴブリンジェネラルであれば、数十匹のゴブリンを従えるのはおかしくないが、100を超えるゴブリンを従えるなど聞いたことがない。ゴブリンの数はさらに増えていき、数えるのも馬鹿らしいくらいに増えていた。ゴブリンの群れの中から、一際大きな黒色のゴブリンが現れる。


「黒い……ゴブリンジェネラル? まさか……さらに上位の!?」

「ゴブリンジェネラルが……さらにランクアップしてゴブリンキングになったのか?

 おもしれえじゃねえかっ!」


 ムーガはゴブリンキングに向かって走り出す。

 周りを囲んでいるゴブリンたちは手を出さずに観ている。


「オオオオオッ!! 喰らえ棍技『圧壊』」 

「グゲッ」


 ゴブリンキングは嗤っていた。次の瞬間、ムーガの右腕が宙に飛んでいた。

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