第28話 深夜の特訓

 ニーナとレナが寝静まったあと、俺は宿を出ていく。行き先はギルドで購入したこの辺りの魔物情報が載っている本から決めていた森の中だ。

 都市カマーから北西に5kmほどの場所、そこは延々と続く大森林、ここは奥に行けば行くほど魔物の強さ・種類も増えていき、中層まででランク2~ランク5の魔物がいる。

 森に足を踏み入れ、一定間隔ごとに光量を調整した白魔法第1位階『ライトボール』を維持・設置していく。帰る際の目印のためだ。

 今は深夜で月明かりだけでは足元すら見えない。ユウは周辺にファイアーボールではなく、ライトボールを複数展開して進んで行く。


 森に入って5分もしないうちに、夜行性の魔物が現れた。全身を黒い毛に覆われた狼、ブラックウルフだ。

 この魔物は今までに何度か倒したことがある。だが、今は森の中の上に相手は複数いるのが『索敵』スキルでわかると、ユウは油断なく構える。


(さて、早速新しい装備と魔法剣を試させてもらうか)


 ブラックウルフたちはユウを囲むように立ちふさがる、その数は10匹。

 その中で1番若い血気盛んなブラックウルフが、ユウに襲いかかる。


「ウ゛ア゛アアアアアッ!!」


 ブラックウルフの牙がユウを切り裂くよりも早く、ユウの黒曜鉄の大剣がブラックウルフを胴体を真っ二つにする。今まで使っていた武器がおもちゃと思えるほどの切れ味に、ユウ自身も驚く。


(はは、これはすごいな……)


 残りのブラックウルフも一斉に襲いかかるが、魔法戦士のジョブに就き、格段にステータスがアップしているユウに触れることすらできずに殺されていく。

 最後の1匹も屠り、魔玉と素材を剥ぎ取っていく。ユウはさらに奥へと進んでいく。

 先ほどのブラックウルフたちとの戦闘で、ユウは全身に血を浴びていたため、血の匂いに魔物がどんどん引き寄せられてくる。

 オークソルジャー、ゴブリンリーダー、ホブゴブリン、マーダースネーク、ビックボーなどのランク2の魔物から、ランク3のゴブリンジェネラルまでいる。

 ユウは魔物たちのステータスを確認していき、その中に名前を持っている魔物を2匹ほど見つける。


名前 :イ゛ア゛ヴン

種族 :ゴブリンジェネラル

ランク:3

LV :27

HP :364

MP :163

力  :213

敏捷 :233

体力 :136

知力 :83

魔力 :49

運  :22


パッシブスキル

統率LV3

剣術LV4

腕力強化LV2

繁殖LV4


アクティブスキル

剣技LV2

闘技LV3


固有スキル

眷属従属LV1



名前 :ググヴン

種族 :ゴブリンジェネラル

ランク:3

LV :18

HP :266

MP :121

力  :163

敏捷 :134

体力 :101

知力 :63

魔力 :32

運  :16


パッシブスキル

統率LV1

剣術LV3

腕力強化LV1

繁殖LV3


アクティブスキル

剣技LV2

闘技LV2


固有スキル

眷属従属LV1



(やっぱり名前を持っている魔物は強さが同じ種族でも、全然違うな……)


「ゴガアアアッ!」


 名前持ちのゴブリンジェネラルが叫ぶと、それに併せて魔物たちが動き出す。

 オークソルジャー、マーダースネーク、ビッグボーに協力関係はなく、好き勝手に襲いかかってくるが、ゴブリンたちは今までと違い拙いながらも連携を取って攻撃してきた。


「ボオオッ!!」


 ホブゴブリンの攻撃を躱した際に、横からゴブリンジェネラルが剣で攻撃してくる。

 こちらも黒曜鉄の大剣で受け止めるが、このゴブリンジェネラルは、先ほどの名前持ちのレベルが低い方で剣術レベルが3だったので、一瞬で倒すことはできなかった。

 その隙にゴブリンリーダーやオークソルジャーがさらに追撃してくる。


「調子に乗るなよっ!」


 ユウはフレイムランスをゴブリンソルジャーとオークソルジャーへ叩き込む。

 森の中ではあまり火の魔法は使いたくなかったが、怒りで一瞬我を忘れてしまったのだ。

 ユウが魔法を使ったことにより、魔物たちも警戒を強め距離を取る。


 この隙に黒曜鉄の大剣に意識を集中し、ファイアーの魔法を込める。大剣から炎が巻き上がるが、こんなもの振り回すと火事になりかねないので、さらに集中し炎を集約していくと大剣から炎はでなくなったが、刃が赤く染まっていく。


(よし、こんなもんかな)


「ウボオオオオオオッ」


 この緊張感に耐えられなくなったのか、馬鹿なビッグボーが真正面から突っ込んできたので、躱しながら斬り裂くとビッグボーは頭から尻にかけて真っ二つになる。切り口は焦げて炭化している。


(切れ味が上がるわけじゃないから、使い勝手がいいのかがわからないな。他の魔法も試していくか)


 その後は戦いではなく、ユウのスキルを試す実験場となった。風・火の魔法剣や鎧の強度を確認するためにわざと攻撃を受けたりと、徐々に魔物たちは殺されていく。

 気づくと、最初にいた名前持ちのゴブリンジェネラルのレベルの高い方がいなくなっていた。


(武器とスキルの練習に熱中しすぎて、見逃してしまったな……)


 もう1匹のゴブリンジェネラルは、逃げずにユウを睨みつけている。

 その背後からは、ゴブリン、ゴブリンソルジャー、ゴブリンリーダーなどの様々なゴブリンが現れてくる。


(スキル『眷属従属』の効果か、山間の洞窟のオーガ(亜種)は1F~地下3Fまでの魔物を集めてたな……)

 

 ゴブリンジェネラルが、スキル『眷属従属』でゴブリンたちを集めるのを見ながら、ユウは自分を追跡している存在に気づいていた。正確には『索敵』に引っ掛からないので勘ではあったが、森に入る前からつけられている気がしていた。ユウの『索敵』スキルのレベルは5である。

 スキルレベル5といえば、中堅冒険者としても十分通用するレベルにもかかわらず、この追跡者は索敵に引っ掛からない。


(向こうから動いてくれないと、こっちも動けないからほっとくか)


 十分な数が集まったのか、ゴブリンジェネラルがゴブリンたちを従え、向かってくる。ユウは黒曜鉄の大剣を鞘に収める。


「ギッ!?」


 ゴブリンジェネラルは、ユウが剣を収めたのを降伏または服従の意思があると勘違いし嗤う。


「悪いがこっちの特訓にもつき合ってもらうぜ」


 ユウの両手には黒曜鉄のガントレットが装備されている。

 両腕のガントレットに、魔法剣と同じ要領で魔法を込めていくと、ガントレットが真っ赤に染まっていく。ユウはそのままゴブリンの群れに突っ込んで行き、拳でゴブリンたちを殴り殺していく。


「ギャアアアッッ!!」


 ユウの拳撃をまともに受けたゴブリンリーダーは、顔に拳大の陥没ができて倒れている。陥没跡は炭化し煙を吹き上げていた。

 ゴブリンジェネラルは形勢が逆転したと思ったが、自分の勘違いであったと気づき逃げようとするが、ユウが逃走を許さない。


「逃がさねえよ」

「ギギッ!!」


 ゴブリンジェネラルが剣で斬りつけるが、ユウのガントレットに簡単に捌かれる。最初は多少なりとも打ち合えていたにもかかわらず、今はこの人間に遊ばれていることに、ゴブリンジェネラルは気づくことができなかった。

 この時点で、ユウはすでにゴブリンジェネラルからスキルを奪っていたのだ。


「ハッ!!」


 ユウがブラックウルフから奪っていた『咆哮』を発動させると、ゴブリンジェネラルは竦み動きが止まる。その瞬間にユウは拳を振るう。腹に1発、顔に1発。たった2発でランク3の名前持ちが死ぬのは異常であったが、ユウはそんなことに気づくはずもなく、残りのゴブリンたちを屠り魔玉と素材を回収していく。

 回収を終えるとアイテムポーチが一杯になったので、ユウは特訓を切り上げる。


 今日手に入れた魔玉のうち、完全な物は2個。あれだけ魔物を倒して2個、その内の1個は名前持ちのゴブリンジェネラルの物だった。


(名前持ちの魔物は、高確率で完全な魔玉を出すのかもしれないな)


 森を出る頃には、追跡者の視線はいつの間にかなくなっていた。宿に戻り部屋に入るとわずかにドロが落ちている。ベッドの傍のニーナのブーツが泥まみれだ。


(こいつ……いつの間に俺の索敵から逃れるほど、ストーキングレベル上げてんだ)


「おい……ニーナ、お前が俺を追跡してたのか?」

「………………ぐ……ぐぅ……」


 ニーナとは一緒に行動しており、寝ている際にイビキをかかないのは知っている。


「それ以上たぬき寝入りするようなら、もう一緒に寝ないし、風呂も入らないからな」


 その瞬間ベッドからニーナが飛び出し、後方に飛び跳ねそのまま土下座をする。


「ごめんなさい~」


 その日、風見鶏亭の一室からは何かを叩く音と叫びとも喘ぎ声とも取れる声が響き渡ったという……。

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