第21話 冒険者カードの秘密
結局、いつものニーナのうるうる攻撃に負けて、レナのパーティー入りを認めてしまった。
「……当然の選択」
イラッ、としたがスルーすることにした。それにしても都市カマーは様々な人種がいる。人間・ドワーフ・エルフはもちろん、頭に耳や尻に尻尾が生えたいわゆる獣人だ。
こいつらを人間たちはまとめて亜人と呼んでる。だけど亜人は差別用語らしいので、本人たちの前で言うのはタブーみたいだ。他にも竜人・巨人族なんてのもいるそうだ。
「今から俺の冒険者カードを作りに行くけど、俺のステータスのことをそいつのときみたいに喋るんじゃないぞ」
「うぅ……わかってるよ~。不特定多数の場所で喋るのは禁止なんだよね?」
「どこに誰がいるかわからないからな」
「……ユウは用心深い」
「お前らが無用心なんだよ。あとこれから冒険者ギルドで、俺の口調や態度に対してなにか言ったり笑ったりしたら、あとでお仕置きだからな。とにかく、冒険者カードを作るまでは下手に出るからな」
「お……大きいね~」
ニーナが驚くのもわかる。レッセル村の冒険者ギルドに比べ物にならないほど大きな建物だ。
しかも3階建てで、裏手にはさらに大きな建物が建ってやがる。
「……ここは冒険者たちにも人気の拠点の一つ。その分、冒険者ギルドに入ってくるお金も多い」
レナの両親は冒険者だったそうなので、魔法だけでなくこういった知識も豊富だ。
冒険者ギルドに入ると多くの冒険者たちがいる。机毎にわかれてクエストの話をする者や、掲示板でクエストを見る者たち、ざっと見ただけで100人以上。
カウンターにはギルド受付の女性スタッフが3名もいる。
(ハハ……本当に儲かってるんだな)
カウンターに向かうと、栗毛の女性が営業スマイルで応対してくれた。
「ようこそ冒険者ギルドへ。本日はどういったご用件でしょうか」
「はい、冒険者カードの作成でお伺いしました」
こちらも余所行きようの言葉遣いと笑顔で話しかける。
「「!?」」
ニーナとレナが口をポカ~ンと開けているが、いちいち相手にしていられない。
「かしこまりました。念のためお聞きしますが、身分証明書のためでしょうか? 冒険のためでしょうか?」
「両方です」
俺の言葉に受付の目が少し狭まった。
「出身地をお聞きしても宜しいでしょうか?」
「レッセル村です」
「レッセル村でも冒険者カードは作れたはずですが……」
受付が言い終わる前に、俺は偽の冒険者カードを提示する。
「冒険者カードをお持ちじゃ――!?」
受付が手に取って冒険者カードを確認する。目に魔力が集まるのが見える。
【冒険者カード:偽物】
この受付がスキルに『鑑定LV2』と『解析LV2』を持っているのはすでに確認済みだった。
「こ、これはっ!!」
都市カマー冒険者ギルド受付コレット・マイスルも、伊達に3年もここで働いていない。田舎の村では読み書きの出来ない子供を利用してのクエスト報酬のピンハネや、人種・種族差別といった話を何度か聞いたことがある。この少年の場合は恐らく両方だろう。
年齢も10~12歳といったところだし、黒髪・黒目の容姿で差別を受けていたのだろう。
「この冒険者カードを私に預けていただけないでしょうか? しかるべき処置を取らせていただきますので!」
「いえそれには及びません。私は冒険者カードを作っていただければいいので」
「で、ですが!」
「これが原因で冒険者ギルドとの仲がこじれることはないと思いますが、私としても荒事にはしたくありませんので……」
「わ、わかりました。それでは作成に移らせていただきますが、記入は代筆で宜しいでしょうか?」
(この女、俺が字を書けないとでも思ってんのか? それともこの世界の識字率は低いのか)
横にいるニーナを見ると冷や汗を流している。レナは私は大丈夫ですって顔をしているので、ニーナの特訓に今後は座学も組み込むことにした。
「いえ、自分で記入します」
「お若いのに教養がお有りなんですね」
各項目に記入し冒険者カードの説明を受ける。
D~Gランクは1Fでクエストを受けることができ、Cランク以上からは2Fでの受付になるそうだ。あとは知ってることばかりだったので、細かい点をいくつか聞くに留めた。
「冒険者カードを持って来ますので、少々お待ちください」
問題なく冒険者カードを手に入れられそうだと考えていると、180センチくらいの中肉中背の男が、ニヤニヤしながらこちらに近づいて来た。
「おい、お嬢ちゃんたち、まさか冒険者じゃないだろうな? 特にそこの黒髪の坊ちゃんと金髪のお嬢ちゃん」
「はい、そのまさかです。今後はよろしくお願いいたします」
そう答えると周りで失笑が起きる。
「やめときな~。ここは都市カマーだぜ? ある程度の実力をつけてからじゃないと無駄死にするだけだぞ。冒険者カードを作成してるってことはルーキーもルーキーだろう? 悪いことは言わないからお家に……いや、村に帰りな?」
今度は失笑ではなく大きな笑い声が起こる。
いつもニコニコしてるニーナが無表情になっている。レナはいつも無表情なのでよくわからない。
この絡んできた男のステータスとついでに装備も見る。
名前 :ラリット・ネッツ
種族 :人間
ジョブ:シーフ・暗殺者
LV :27
HP :536
MP :266
力 :213
敏捷 :255
体力 :117
知力 :87
魔力 :58
運 :59
パッシブスキル
短剣術LV4
索敵LV4
罠発見LV3
忍び足LV3
暗殺術LV2
夜目LV2
アクティブスキル
短剣技LV4
暗殺技LV2
闘技LV3
隠密LV3
鑑定LV2
開錠LV3
盗むLV3
固有スキル
お返し袋
装備
武器:ダマスカスダガー(4級):攻撃時に一定確率で毒を与える。
防具:暗闇頭巾(5級):暗闇耐性上昇
忍び装束(5級):敏捷上昇
盗賊の篭手(4級):シーフスキルの効果強化
疾風の足袋(5級):敏捷上昇
装飾:魔除けの腕輪(5級):不意打ち確率減少
メッシの腕輪(5級):毒耐性上昇
ポロロのアミュレット(5級):麻痺耐性上昇
(こいつ、とんでもなく強くないか? すべての装備にスキルがついている……。それにジョブが2個もあるってどういうことだよ)
「ち、ちょっとラリットさん、なにやってるんですか!」
コレットが大慌てで戻って来た。
「コレットちゃん、揉めてるわけじゃないんだよ?」
「さっきもそう言って、
(ん? もしかしてレナを馬鹿にしてた冒険者たちは……)
ラリットが先ほどのような作り笑いではなく。真顔で手を差し出してきた。
その手には4枚の銀貨が握られており、各指の間に挟まれていく。
「指の間に銀貨挟んでなにをしたいんだか……」
ニーナもラリットがなにがしたいのか、わからないようだ。ラリットはニヤリと笑うと、さして力を入れたようには見えなかったが、指と指の間の銀貨が半分に折られていく。
「ほら、わかっただろ? 坊ちゃんたちじゃここはまだ早いんだよ。
それに
そういうと半分に折れ曲がった銀貨を渡してくる。これで村に帰れってことか?
俺は折れた銀貨を真っ直ぐに伸ばし、4枚重ねて人差し指と親指に挟むと銀貨をそのまま押し潰した。文字通り銀貨を半分に折るのではなく、真ん中から潰した。
「なっ!?」
ラリットだけではなく周りの冒険者たちも目を見開く。
「あなたはお人好しで優しい人なんですね」
そういうと周りで爆笑が起こった。さっきとは違い嘲る笑い声ではなかった。
「おいおい~、お前がお人好しのラリットってバレてるじゃねぇかよ」
「お前がルーキーのことを心配してやった行為がバレバレだな!」
「くっ」
ラリットは顔を真っ赤にしながらギルドから出ていく。
「では、えっと。コレットさんでよかったですよね? 冒険者カードを頂いてもよろしいですか?」
「ハッ……失礼いたしました。それではこちらの冒険者カードに、ユウさんの血を少し垂らしていただいて完了となります」
冒険者カードに血を垂らすことで個人情報が入り、以降は自動で更新されていくそうだ。
「これで冒険者カードの作成は終了です」
「ありがとうございます。作成料は銀貨1枚ですよね。このままジョブにも就きたいんですが」
「はい、確かにいただきました。ジョブはこちらではなく、奥の部屋で就くことができます。料金は銀貨1枚となります。あと冒険者カードを持ってステータスと唱えれば、ステータスを確認できますよ」
「そうですか……では奥の部屋への案内をお願いします」
「え? ステータスを確認しないんですか?」
「やだな~情報を知られたくないので、冒険者カードでステータスは確認しませんよ」
俺がそういうとコレットの顔は青くなっていく。
「ど……どういう意味ですか」
「冒険者カードでステータスを確認する際に、冒険者カードから魔力が出てるんですよ」
「それは……ステータスを確認する際に魔力が発動するんですから、当然ですよ!」
「当然ですか……その魔力が冒険者カードから情報を送るかのように、どこかへ流れて行くんですがね」
これもレナから魔力の見方を教えてもらってから気づいたことだった。冒険者ギルドはどこの国にも属さない。冒険者ギルドの権力は凄まじく、一国では太刀打ちできないほどらしい。それもこれも冒険者の情報を握っており、各国の依頼から適切な冒険者を用意できるからだ。
冒険者ギルドを敵に回せば魔物からの脅威があった際に優秀な冒険者を派遣されずに大きな被害を被る。
では冒険者ギルドはどうやって冒険者たちの情報を集めているのか? 冒険者カードが怪しいと思ってカマをかけてみたが、大体あってたみたいだな。
「ええっ!?」
ニーナとレナがそうだったの? って顔で驚いている。周りの冒険者たちもざわついている。
「そそ……そんなこと……はありゅ……ありまえんから!!」
(噛み過ぎだ。嘘のヘタな人みたいだ)
「そうですか。私の勘違いみたいですが、やっぱりここでステータスを見るのはやめておきます」
「そうです! ユウさんの勘違いですよ……」
コレットが話しかけながら目に魔力を集めている。一応、対策はしといたが、アクティブスキルの『解析』で俺のステータスを確認しているようだ。
「それでは転職の部屋へ案内させていただきます」
汗をダラダラ流すコレットについて行く。本当に嘘のヘタな人だった。
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