第18話 自称天才魔術師②
「ひどいね~レナのことをポット扱いするなんて。あっ、私の名前はニーナ、呼び捨てでいいよ~」
ニーナが頭からプンプンと擬音が出るくらい怒っているが、語尾が伸びる話しかたのせいで、いまいち感情が伝わらない。こいつ、俺に会ってからどんどんマヌケになっているような……。
「……うん、わかった。あの人たちは天才の私に対して失礼」
この自信満々な女はレナって名前で、馬車で都市カマーを目指していたそうだが、さっきの冒険者たちにガキってことで馬鹿にされていたところ、俺たちを見かけて降りたそうだ。
「天才? 白魔法と
こいつは白魔法が使えることで、冒険者たちにPOTちゃんと馬鹿にされていたそうだ。消耗品のポーション代わりってとこだろう。
「……あなたの眼は魔眼なの?」
「は? いきなりなに言ってんだ?」
内心で動揺していたが、表情には出さずに受け応えする。
「……私は白魔法が使えることは教えたけど、黒魔法が使えることは教えてない」
「…………解析のスキルだ。解析のスキルでわかったんだよ。それにお前は魔術師を名乗ってたんだから、黒魔法を使えることくらい予想がつくだろうが」
「あわわっ」
横でニーナがわかりやすいくらい動揺している。これじゃ魔眼持ちだって言ってるようなもんだ。それにしてもなんでわかったんだ。
「……あなたから魔力の発動を感じられなかった。魔法・アクティブスキルを発動する際には魔力の発動がある」
(魔力の発動っ!? 今まで全然意識してなかった……)
「俺が魔眼持ちだったらどうするんだ?」
「……どうもしない。私たちは旅の仲間」
「俺の仲間はニーナだけだ」
「……どうすれば仲間になれる?」
「ユ……ユウ、駄目?」
ニーナが目をうるうるさせながら聞いてくる。
「嫌だね」
「うぅ……ユウ」
ニーナがさらにうるうるしながら近づいてくる。
「わ……わかったよ。カマーに着くまでの間だからな」
「……感謝する」
「よかったね。レナ!」
レナ以上に喜んで抱きつくニーナ。はっきり言ってニーナ以外の奴なんて信用できない。
その日の夜はナイトウルフが襲いかかってきた。食事中だったが俺のパッシブスキル『索敵』で事前にわかっていたので、慌てることなく撃退した。
このナイトウルフは強さ自体は大したことないが、群れで狩りをするので数が多かった。俺のファイアーボールとニーナがほとんど倒していったが、あの女は水と風魔法が使えるみたいだ。
ただ……低いステータスからわかっていたが、動くのは苦手みたいで、遠距離から魔法を放っていると優勢だが、ひとたびナイトウルフが接近すると途端に動きが悪くなって負けそうになっていた。
「……ハァ……ハァ……ユウは無詠唱スキルを持っている?」
「レナ~、ユウは無詠唱スキルを持ってないよ。あれはね~」
「ニーナ、俺の情報を簡単にバラすな! あと慣れ慣れしく名前で呼ぶな。
やっぱりお前はポットちゃんだな。ちょっと動いただけでバテてるし。今日だってお前のペースに併せたせいで予定より遅れている」
俺に怒られてニーナは落ち込んでいるが、簡単に情報を教えるべきではない。スキルが知られるとそれだけ不利になるし、俺のスキル目当てに近づいてくる人間もいるかもしれないからだ。
「……ハァハァッ……交換条件」
「あ?」
「……ユウはファイアーボール以外も魔法が使える? 使えないなら教える代わりに無詠唱について教えて欲しい」
こいつ、結構キツイこと言ってるのに根性はあるのかもしれない。
「お前は無詠唱より身体を鍛えるほうが先じゃないのか?」
「……動くのは嫌い」
「レナ、大丈夫! 私がユウを説得するから」
結局ニーナの押しに負けて、魔言を唱えずに発動する方法を教えることになった。
「……難しい」
「えへへ、私も最初は苦労したんだよ~」
「魔言を唱えずに発動できるだけで、短縮できるわけじゃないからな」
「……発動時の魔力で使用する魔法はある程度わかる。でも詠唱をしないだけで戦闘では有利に働く」
(魔言を唱えないことのメリットは理解しているか)
俺は代わりに水魔法と風魔法を教えてもらった。こいつが魔法を使うところは見ていたから使うコツはある程度わかっていたので、すぐに使えるようになった。それよりも魔法の理論を教えてもらったことのほうがよかった。
魔法にはいくつも種類があり、白魔法・黒魔法・神聖魔法・暗黒魔法・召喚魔法・精霊魔法・時空魔法・付与魔法・死霊魔法など、発動する際の魔力の使い方・詠唱・装備での上昇。実際に観るか魔導書と呼ばれる高価な書物を購入すれば、俺なら使えるようになるかもしれない。
この日も焚き火の番は俺がすることにした。ニーナは反対していたが『索敵』スキルに1日も早く慣れなくてはいけないからだ。
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