第13話 山間の洞窟①

「ほら! 闘技が解けかかってる!」

「うぅっ……」


 情けない声を出しながら、ニーナが闘技を再び纏う。


「ギギィッ!」

「シッ!」


 ゴブリンソルジャーの攻撃を躱し、ニーナの右手の鋼鉄のダガーが首を斬る。左手の鋼鉄のナイフは腹を斬る。


「戦いながら闘技を維持するの大変なんだよ……」

「そのための訓練だ。それにしても二刀も慣れてきたんじゃないのか」

「エヘヘ、そうでしょそうでしょ♪」


 折角二つの武器が手に入ったので、試しに二刀装備してもらった。予想が正しければ、これで新しいスキルを覚えると考えている。

 ここは山間の洞窟の地下2Fだ。この山間の洞窟は地下3Fまであるそうで、今までは1F~地下1Fで戦ってきたが、俺もニーナもレベルが上がってきたので、さらに下へ潜っている。


「地下2Fでも大した敵はいないな」

「油断しちゃダメだよ! 地下3Fにはボスがいるんだからね」

「ボスか……」


 迷宮ではボスと呼ばれる、通常の魔物より強い魔物が現れるそうだ。またボスは倒しても、魔物同士の生存競争から勝ち抜いた個体がボスの座に君臨する。

 ここは迷宮ではなく洞窟だが、こういった場所も迷宮と同様に生き残った個体やもともと強い個体がランクアップし、上位の魔物になるそうだ。


「わかってると思うけど、俺はポーション製作で忙しいから、魔物は全部、ニーナが倒すんだぞ」


「ぜ……全部っ!?」

「俺は相手の弱点や能力が分かるが、ニーナはわからないだろ。これは相手の能力・クセ・弱点を見つける訓練でもあるんだからな」


 俺はそう言いながら、7個目のポーションを製作する。盗賊を退治したあとに、ニーナには手に入れた装備の売却とポーションを買ってきてもらった。装備は全部で金貨2枚と銀貨17枚。ポーションが1個、半銀貨5枚で5個買った。

 ポーションのレシピを見ると、製作に必要なのは薬草・綺麗な水・錬金LV1と、こんなモノでいいのかと軽く落ち込んでしまった。綺麗な水は山の湧水で問題なく代用できた。俺が製作したポーションと、買ってきたポーションの効果を比べてみたが、遜色はなかった。

 製作したポーションは、村で売るよりたまに来る行商人に売ることにした。

 俺が錬金できることもバレないし、村で売るより大きな町へ行商にも行く、行商人の方が高く売れるからだ。


「ニーナ、相手が単体・複数関係なく周囲に気を配らないと痛い目に遭うぞ」

「そんなこと言っても、ゴブリンソルジャーが3匹もいるんだよ~」


 相手が複数だと、ニーナは途端に動きが悪くなる。焦っていつも通りの動きができなくなるからだ。


「クリティカルブロー!」


 ニーナの短剣技が発動する。ゴブリンソルジャーの1匹が避けきれずに、喰らってそのまま息絶える。


「いちいち魔言を叫ぶな。相手が人間だったら、今からどの技を使いますって言っているようなもんだぞ」


「ひぃ~ん。まだ無詠唱で使うのに慣れてないんだから許してよ~」


 ニーナも短剣技LV1を覚えたが、まだ技を使う際に魔言を叫んで発動している。

 無詠唱で発動するメリットは、相手に使う技・魔法がバレないことだと俺は考えている。冒険者間での宝の奪い合い・強盗・足の引っ張り合いなど珍しくないはずだ。

 対人戦のことを考えれば、ニーナにも無詠唱で技を発動できるように訓練させている。

 そうこうしているうちに、ニーナがゴブリンソルジャーを全部倒していた。


「な……なんとか……勝てたよ……ハァハァ」

「よし、今日はこれでもういいだろう、帰ろうか」

「うん、ユウのおかげで私のギルドランクもうすぐEだよ♪」


 まぁ、倒した魔物の素材を全部渡しているんだから当然だろう。

 帰り道でいつものように、ホーンラビットを狩る。

 今日はやっと完成した風呂を、ステラおばあちゃんに見せる日だ。




「ただいま~」

「ユウ、ニーナちゃん、お帰りなさい」


 出来上がった風呂はすでに家の裏に設置し、水を入れて火を起こしている。食事が終わる頃にはお湯になっているだろう。


「ステラさん、これ」


 そういって、ホーンラビットと製作したポーションを渡す。


「今日も兎が獲れたんだね。ポーションはまた買ってきたのかい?」

「最近、薬草がよく取れる場所を見つけたんだ。報酬はニーナに渡して精算してるから……」


 俺が冒険者紛いのことをしていることや、錬金術でポーションを製作していることは、内緒にしている。ただでさえステラおばあちゃんは、最近体調が悪いので心配をかけたくない。


「ポーションはすぐに手に入るから、調子が悪かったら飲んで」

「ありがとうね」


 今日の晩御飯はパンとホーンラビットの肉入りシチューだ。相変わらず、ニーナはバカみたいに食べている。

 俺とステラおばあちゃんは食事が終わったので、ステラおばあちゃんを家の裏に連れて行き風呂を見せる。


「これがユウが内緒で造ってた物なのかい?」

「そうだよ。これがあれば寒い日でも身体を洗えるしあったまるよ」

「まぁ、嬉しいねぇ」


 これでわざわざ遠くの水場まで行く必要はないし、ステラおばあちゃんも楽ができる。


「もうお湯は沸いてるから、早速入ってよ」

「私が1番でいいのかい」

「もちろんだよ! ステラさんのために造ったんだから、1番に入ってもらわないと」

「うんうん」


 ステラおばあちゃんが、涙目になりながら頷いている。苦労したけど造ったかいがあった。

 スキルも風呂製作とポーション製作で『鍛冶屋LV2』『錬金術LV2』に上がっていた。やっぱり製作で上がるようだ。


「良いお湯だったよ。ユウのおかげで王様にでもなった気分だよ」

「喜んでもらえて俺も嬉しいよ。俺も入ってくる」

「私も行くよ~」


 ニーナが訳のわからないことを言い出す。ただでさえ、最近は当たり前のように家に泊まる・食事をすると、厚かましくなってきている。


「なに言ってんだ?」

「ユウ……18歳未満の男女は一緒にお風呂に入っても、問題はないんだよ?」

「っ!? ほ……本当か!? もし本当だとしても、一緒に入らなくてもいいだろうが!」

「私は年上としてユウの裸を鑑し……見守る義務がある!」


 こいつ……変態ってやつじゃないだろうな


 ニーナに強引に連れていかれ、風呂に入ることになった。服を脱ぐとニーナが固まっている。


「どうしたんだ? 風呂に入らないのか?」

「ユ……ユウ…………ううん、なんでもない。入る……」


 変な女だ……。




 ユウをうまく? 騙して風呂に入ることに成功した。服を脱いだユウの身体を見て、驚いて固まる。今まで気付かなかったけど、ユウの全身には火傷のあとがあった。

 それも小さな火種を、何度も押つけられたような。長年、拷問でも受けたみたいだった。 

 どうしてそんな傷があるのか、怖くて聞けなかった。自然と涙が溢れそうになったので、慌ててお風呂に入り誤魔化した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る