ささくれ立った心よ【KAC20244 参加作品】

あら フォウ かもんべいべ

第1話 ステイツのタブー








  ’ささくれ’立ったあたしの心は、いったいどこへ向かおうとしているのか?


 わからない、どうしたらいいのかわからないのは、人生経験と恋愛経験、そのどちらもリトルビッチ(メスガキ)のあたしに語れる程のものではなく、これが青春と言われればそうなのかもしれない。


 人生、恋愛を心の底から楽しむには、なにも知らないゆえにまだまだ早く、身体だけが大人になっても満たされることの無い中身に、なんら根拠の無い焦燥感に駆られる日々が辛く、ささくれ立った心を蝕んでいくような気がした。


 あたしがそうなってしまったきっかけは、遡ること一年前ぐらいか。


 当時、中学三年生だったあたしは、あまり学校に馴染めていなかった。


 ステイツ出身の帰国子女であり、まだまだ日本語が完璧な訳でもなく、当時の教師たちとのコミュニケーションに少々難儀し、口調が乱暴で敬語を使えないからと評判は最悪だった。


 容姿も日系とはいえ、白人の血も入っていたからか、ハーフ顔で身長が180cmを優に越えていたこともあってか、どうも怖がられていたのかもしれない。


 上から物言いたい奴らは、却って大きい小娘から見下ろされることに腹でも立てていたのだろう。


 また、発育も良すぎたからか、制服のサイズが合わなくなり、ちゃんとボタンを閉めることすらままならず、校則違反扱いされれば反抗するのも当然だ。


 むしろセクハラ紛いな暴言も吐かれれば、決して泣き寝入りするわけもなく、倍以上にしてお返しをするなんて当たり前。


 時には思わず手が出ることもあったから、あたしは生徒指導室の常連客そのものだった。


 当然のようにダディー、マミーもよく呼ばれていたけれど、この親あってのあたしだからさ、あたしの為に戦ってもくれたんだ。


 身長ほぼ2mで筋肉ムキムキマッチョマンのダディーと、ほぼ180cmのマミーの凄みに、あたしのことを気にくわない教師たちも縮こまる一方で、これはこれで傑作だった。


 しかし、進路的な意味での嫌がらせは続いたことで、ささくれ立った心のゆくまま、グレていったのは言うまでもなかったが、そんなあたしに心を痛めたのか、優しく救いの手を差しのべる人もいた。


 英語の講師であるジェフこと、ジェフリー・サマーフィールドとは、あたしと同じくステイツ出身であったことから、中学で誰よりも一番仲がよかったのは言うまでもなく、彼に悩みを打ち明ければ、いつも親身になって相談に乗ってくれたのだ。


 当然、進路のことで悩んでいる話をすれば、ジェフは満面の笑みを浮かべて「俺に任してくれ!」と言わんばかりに、行動する彼の見せた、なんとも頼もしい眼差しに心が揺れ動いたのだ。


 これはある意味で……あたしの初恋だったのかな?


 だけど、ジェフには奥さんがいるし、あたしはただのリトルビッチだし、初なままの淡い恋心を開け放って、ジェフを困らせるのもよくないし、なによりもお互いステイツ出身だからわかっていることもあるんだ。


 ステイツにおいて、教師と生徒の恋愛は、日本以上にタブーであることを知っている以上、すぐに諦めて線引きする他になかった。


 歳の離れた友人同士として振る舞うことにすれば、最初はぎこちなかったけれど、そのうち慣れてニューシネマパラダイス、マイ・インターン、最強のふたりのような関係性に落ち着いたことで、あたしの初恋は終わった。


 その後、ジェフが熱心に学校側に掛け合って尽力してくれたことにより、東方共栄学園と言う県外の学校を紹介され、ここならあたしにとって最高の場所だからと、推薦書まで用意してくれた。


 ここまでしてもらった以上、あたしはジェフの恩義に報いたいし、家族ともよく相談した上で、東方共栄学園の推薦入試を受けることに決めたのだ。


 そして、迎えた面接当日……。


 あたしはここで、盛大なやらかしをやってしまった一方、運命的な出会いを果たしたと言ってもいい。


 後に、あたしの心がささくれ立つ原因でもあるけれど、とりあえず今回はここまでにしようか───。








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