天才が愛したアンドロイド[KAC20244]

夏目 漱一郎

第1話十文字吾郎

「大体にして、お前は無駄が多いんだよ」


それは、僕と同じアカデミー出身の同期の中ではダントツのエリートである天才、十文字吾郎じゅうもんじごろうがいつも言う口癖だった。

彼は典型的な効率至上主義者で、時間の無駄、コストの無駄、そして行程の無駄を極力排除する事が彼の理想であり、その為のあらゆる合理化を進める事こそが彼のポリシーだった。いつだったか僕と十文字が社員食堂で食事をした時にも、彼はこんな事を言っていた。


「人間てのはどうしてこう毎日非効率な食事なんてものを摂らなければ生きていけないんだろうな」

「えっ?だってそれは、エネルギーを補給しなければ餓死するからじゃ…」

「そうだよ、餓死しない為ならば毎日違うメニューを食べる必要なんてないだろ。一日分の栄養価を計算したものをスムージーにして、毎日摂取すればいいんだ。足りないものはサプリメントで事足りる」

「十文字、お前それ本気で言ってんの?毎日同じスムージーとサプリメントとか…」

「ああ、本気も本気。むしろ機械みたいにガソリンや電気で体が動いたらどんなにいいだろうかと思うくらいだ」

そんな事を言うくらいだ。仕事においても彼の合理主義は徹底していた。僕達が勤める会社では今、最新AIを搭載したアンドロイドを開発しているのだが、その開発会議ではアンドロイドの外観を人間に似せるか否かで僕達の開発チームは意見が大きく二つに割れた。その際、人間に似せない方に俄然味方したのが十文字だった。


「そもそも人間の形状が全てにおいて万能だと思う事が人間のエゴだ。例えば、指だけをとってみても五本より七本あった方が物は沢山掴めるし、足は二本より四本の方が安定する。機能的な利点を考えれば、アンドロイドの外観は必ずしも人間に似せる必要は無い」

それに対して僕はアンドロイドの外観を人間に似せる方に付いた。

「そうはいっても人間の生活に溶け込むという意味では、アンドロイドの外観は人間に似せた方が親しみが湧くというものだ。腕が多い方が便利だからといって、千手観音像みたいな腕をしていたらちょっと気持ち悪いし、人間は無意識のうちに異形なものを不快に感じるからね」

そんな僕と十文字のリベート合戦は勝敗がつかず、結局会議では僕達と十文字達の中間の意見が採用された。


そんな十文字が変わってきたのは、ウチの会社に市原瑞樹いちはらみずきという女性エンジニアが入ってからの事だった。彼女は、アメリカのマサチューセッツ工科大学を卒業してからウチにやって来た帰国子女で、勿論優秀であり十文字とも肌が合った。十文字と瑞樹は次第に付き合うようになり、一年の交際を経て二人は結婚した。





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