向こう岸への案内

芝草

プロローグ

 プロローグ


 恋は人を変える、とはよく言うけれど。

 失恋もまた人を変えてしまうのかもしれない。

 数ヵ月ぶりに親友と電話しながら、私は痛いくらいにそう思った。


「あたしさ、彼氏のためなら何でもできると思ってたんだよ。それこそ、命だって惜しくないくらいに。……それなのに『好きな人ができたから、別れてくれ』って言われちゃったんだ。……バカみたいでしょ」

 電話越しに聞こえる親友の声は、聞いたことがないくらい暗くて虚ろだった。


 これが、私の親友の声だなんて思えない。

 放課後の教室で、はにかみながら彼氏との慣れ染めを話してくれた彼女の声とは、まるで別人じゃないか。

 私はぎゅっと唇をかんだ。


 物語の始まりは、大学一年生の夏休みのある深夜のこと。高校で出会った親友から、短いメッセージが届いたのがきっかけだった。


 ――急にごめん。今から電話してもいい?


 虫の知らせと言うヤツだろうか。

 その日は蒸し暑い夜だった。それなのに、スマホに表示された親友からのメッセージの通知を見た瞬間。私のお腹の底で、ぞわり……と何かがうごめいたような感覚が走り、鳥肌が立った。


 慌てて電話をかけると、親友はすぐに電話に出た。

 開口一番、彼女は「昨日、高校から付き合っていた彼氏と別れたの」と虚ろな声で告げた。

 県外の大学に進学した彼氏と、地元:岡山県倉敷市に残った彼女。高校卒業を機に遠距離恋愛になったことが破局のきっかけだったらしい。


「あんな男を『運命の人』だとか思ってたなんてさ……ほんとに……あたしの……バカ……」

 そう言う親友の声は、次第に押し殺したような泣き声に変わっていった。


 彼女の嗚咽を聞きながら、私は一つの決心をした。

 スマホを握りながら、私は彼女に向かって宣言するように言う。


「私、明日倉敷に帰る。ちょうど夏休みだし。貴女に会いに行くよ。美観地区びかんちくで一緒においしいご飯でも食べよう。待ち合わせは明日の一七時。美観地区の中橋なかばしの前ね。いい? 約束よ」

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