新型テロリスト・ミラー五郎

狐付き

ミラー五郎とパンダ

「この予告状、確かなのか?」

「ええ、確かです」

 警視庁の対テロリスト捜査本部では、新型テロリスト・ミラー五郎から先ほど届いた予告状について話し合うところであった。


「なんで動物園のパンダの展示を取りやめろなんだ?」

「パンダ嫌いなんじゃないですか?」

 5日後にやってくるパンダのポヤンポヤンは、数年前に日本で生まれたブランブランの子供だ。そのせいかマスコミも客もかなりの数がやってくる。確かにテロを起こすにはもってこいのシチュエーションだ。


 だが解せない。

 今までミラー五郎が行ってきたことは、政治的に意味があるものばかりだった。なのに何故ここでパンダ。たかが熊だ。


「もしかして、隣国との政治的なからみかもしれませんね」

「なるほど。それならば納得だ」

 隣国にはパンダ外交というものがある。パンダ貸してやるから頼みごとを聞いてくれというやつだ。

 パンダを政治的に日本へ入れる。それは日本の政治家からしても、国民人気を取りやすいうえ自分の懐は全く痛まないウィンウィン……いや自分的にはウィンだろうが、日本としてはそれが本当にウィンな取引だったかは不明である。


「しかしなんというか、自分にはパンダの良さがわからない。レッサーパンダのほうがかわいいと思わないか?」

「パンダ否定派ですか。実は自分もスナネコやフェネックのほうが愛らしいと思うんですよ」

「わ、私はパンダ好きですよ」

 一番前の席に着いていた女性警視が話に入ってきた。


「ほう、どんなところが?」

「あのおっきいもふもふ、いいじゃないですか。抱きかかえられたいです」

「絞め殺されるぞ」

 ベアハッグである。相手は死ぬ。


「まあ好みはひとそれぞれじゃないですか。それよりどうするんです?」

「……いつも通りだ。テロには屈さない」

 そしていつも通りの地獄が始まる。




 パンダのポヤンポヤン展示の2日後、本日もたくさんのひとがやって来ていた。


 だが様子がおかしい。

 入口は閉まっており、周囲を重装備した警察官が盾を構えて囲う。そして入り口前にはいくつかの棺桶が。


「あれ、開けたり運んだりしても大丈夫ですかね」

「毒とかじゃないのはわかっているが、余計に得たいが知れず動かしたくないな」

 警視と警視正が話していると、動物園の看板に変化が。


 ZOOの文字が、245に変わり、1秒ごとに右の数字が変化し……

「カウントダウンだ!」

「あれはどうやってんですかね」

「のんきなことを言ってる場合じゃないぞ! 一般人を避難させろ!」

 とはいえ日本のあちこちから来たパンダマニア。そう簡単に引き下がれない。というか逃げようにも後ろのひとが邪魔で動けない状態だ。


 そして看板が000になると同時に、棺桶の蓋が飛び散り、中から巨大ななにかが出てきた。

「あれは……パンダ?」

「キョンシーか?」

「キョンシーってなんですか?」

「中国のゾンビだ」

「パンダのゾンビですか!?」


『请给我一些竹子!!』

 パンダキョンシーたちは叫び、周囲へ飛び回った。

「なんて言ってんだ!?」

「えーっと、笹をくれ、ですかね」

「死んでんだから食わねえだろ!」

「それよりどうしましょうか」

「取り押さえろ! 噛まれたりひっかかれたりするな! キョンシーが伝染うつる」

「マジですか!?」

 ただでさえ強い熊がキョンシーとなり最強に見える。


「ちなみにな!」

「なんですか!」

「パンダが食ってるのは笹じゃねえ! 竹だ!」

「今そんなのいいじゃないですか!」


 本日もたくさんの犠牲者が出た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新型テロリスト・ミラー五郎 狐付き @kitsunetsuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ