第2話 赤色迷彩の戦闘服
「ドワイト、どうだ?、行けそうか」
「おう、だが、入口なんて、何処だか解らんぞ」
無理もない、通常、この種の人命救助をする場合、データベースから情報を得て、事前に救出プログラムが船のAIによって作成され、クルーはその指示に従い行動する。
しかし、今回のミッションは、計画そのものが無いため、入口の捜索から全て人力の手作業で行いうことになる。
それでも、ロイは黎明期の宇宙開発に関しては少年時代から資料を集めて楽しんでいたため、ドワイトにとって全く未知の宇宙船であっても、ロイにとっては少ない資料にあった黎明期の本物を見ることが出来る貴重な体験となっていた。
「凄いぞドワイト、これは本物のスペースシャトルだ、一体いつの時代だ?、スペースシャトルは21世紀初頭には、運用を終えている、まさか、こんな宇宙の果てに、本物が未だあったなんて」
「何呑気な事を言っている、入口が解らなければ、俺たちは単なる骨折りだぞ」
「そんな事はないさ、この宇宙船は、世紀の大発見だ、シャトルの現物は博物館に残ってはいるが、歴史上宇宙空間に残された実機なんて存在していないからな。第一、入口ならすぐに解るさ」
そう言うと、ロイは慣れたように軍艦の入口へ向けて真っすぐ飛んだ。
この機体が、本当に撮影用ではなく、20世紀の乗り物であれば、構造は簡単だ。
まず、外部と内部の間に部屋があって、そこに入った後、空気を入れて昇圧させる、その為の入口が必ずあるはずだ。
「よし、ここだな」
「ロイ、入口が解っても、中からロックがかけられているんじゃないか?」
ドワイトのいう事はもっともで、当然中からクルーが操作しなければ入口のロックは解除できない、そもそも、宇宙空間に宇宙飛行士が出るのであれば、単独で出る事は考えられない。
、、、、のはずであるが、意外にも、この艦艇の入口ロックは解除されていた。
「既に解除されているな、、、多分、艦内は無酸素状態になっている」
「ロイ、入れそうか?」
「ああ、問題ない、艦内は宇宙服では窮屈かもしれないが、俺たちのスーツなら、問題ないだろう」
ロイが言う、「俺たちのスーツ」とは、最新式の宇宙服を指していた。
この時代の宇宙服は、スキューバーダイビングに使用するウエットスーツのように身体にフィットしており、その周りに必要な装具とバックパックを装着するタイプのため、昇圧室内で装備を外せば狭い艦内であっても問題ない、という意味だ。
これが、この宇宙船の時代の宇宙服であれば、一人で着ることも困難な大きさだ、当然、艦内に入る事は出来ない。
「おお、凄いな、中は意外と広く作られているな」
宇宙空間、特に酸素のない空間では、物質の劣化は非常に遅い。
そのため、ロイとドワイトの視界に入ってきた艦内は、作りが古いと言う以外、現代の物と変わらないように見えた。
「おい、ロイ!、見てくれ、凄いぞ」
ドワイトは、艦内の壁に掛かっていたライフルを自慢そうにロイに見せた」
「おい、止めろよ、それ本物だろ!、第一、違法だろそれ!」
「大丈夫だって、こんな古いもの、もう機能していないって」
そうは言うが、この空間、どれだけ時間が経過したかは解らないものの、全ての物質がまるで昨日まで使われていたかのような保存状態だ。
このライフルだって、もしかしたら使えてしまうかもしれない。
「この無酸素状態で、銃が機能するはずないって。第一、こんなライフル、見た事ないぞ」
それでも、ロイは古い時代の小銃に、このような形状の物があったように記憶していた、何と言っただろうか。
そもそも、火薬を使って弾丸を発射するタイプのライフルを、宇宙空間に持ってくる、という発想が斬新だ、現代では考えられない。
「ドワイト、ちょっと見せてもらえるか?」
ドワイトは、そのライフルをロイのいる方向へ投げた。
ゆっくり近づくライフルを、ロイは慎重にキャッチすると、弾丸を入れる薬室を開けて覗き込む。
「おい、実弾が入ったままじゃないか、なんて管理しているんだ、それに、この弾丸、多分宇宙仕様だぞ、良かったな、発射しなくて」
「それでも、さすがに古すぎて撃てないだろ」
「いや、、、多分、発射出来るな、これ、薬莢の中に火薬と酸化剤が一緒に入っているが、空気が入っていないから、劣化しないようになっている、火薬の缶詰みたいな物だよ。こんな技術、宙域信号弾でしか見た事ない、こんなに小さい作りで、この時代の人はマメだなあ」
「なに呑気な事言っているんだ、先を急ぐぞ」
ドワイトは、そのライフルが使えると聞いて、艦内の捜索に、そのライフルを持って移動し始めた。
まあ、緊急事態だから、後から罪に問われることもあるまい。
「凄いなこのライフル、ストックが生木で出来ている、骨とう品だな」
、、、、生木、確かにノスタルジーだとロイも思った。
軍用ライフルに「木」が使われていたのは、20世紀頃までだ、ましてや最新の宇宙船に装備するものに「木」を使ったものを乗せるなんて、聞いた事がない。
ロイは、それが21世紀時代の物だと考えていたが、もしかしたら、更に古い時代の物である可能性すら感じていた。
「第3指令室」
第3って、一体幾つの指令室があると言うのだろうか。
それにしても、作りが古い割には、とにかく大きい艦艇だ。
恐らく、直接地球を飛び立ったのではなく、地球と衛星軌道を何往復もして、部品を軌道上へ上げて、組み立てた物だろう。
それは、当時の技術レベルからすれば、宇宙船と言うより、宇宙ステーションと言ったレベルの大きさだと思う。
そんな大規模プロジェクト、なぜ記録に残っていないのだろう。
いや、記録と言うより、歴史に残っていないことの方が違和感を感じる。
最初は探求心旺盛だったロイも、徐々に不安が増していた。
この艦艇は、何かがおかしい。
第3指令室を抜け、更に奥に、それはあった。
「おい、ロイ、、、、こいつは」
「、、、ああ、
そこには、一体の宇宙服を纏った宇宙飛行士が鎮座していたのである。
そして、彼の宇宙服は、恐ろしく古いタイプの巨大なものだった。
頭部のガラス面が大きく、視界が確保されている。
バックパックが異様に大きくて、恐らくは着るタイプではなく、背中から入るタイプの宇宙服だろう。
そして何より二人が驚いたのは、その宇宙飛行士が着用している軍服だった。
「
これにはロイもドワイトも、背筋の凍る思いであった。
二人が立ち尽くしていると、無線でマイケルから悲鳴が聞こえた。
「おい!、もう止めよう、俺たちの手に負える代物ではない!、帰ろう、俺、もう限界だよ!」
キンキンと響く声に、ロイは不快さを感じつつマイケルの言う事も、もっともだとも感じていた。
それは、明らかに記録にない、ものだ。
無理もない、火星軍があったとして、火星に人類が初めて着陸した時、既に火星は言われていたほど赤くはない事が証明されていた。
そう、火星が赤いと考えられていたのは21世紀の初め頃までで、それ以降は、地球と同じく、火星表面は茶色い印象を誰もが持っている。
そもそも、火星に初めて着陸した人類は、武装なんてしていない、彼らは一体、何と戦うつもりで、ここまで来たのだろうか。
それ故に、この「迷彩服」という概念も、二人を驚愕させた。
この、不規則に塗られた模様、こんな古いタイプの迷彩模様を、二人は博物館以外では初めて本物を見たのである。
迷彩服、それは、戦場となる場所がジャングルであれば「草色」で、砂漠地帯であれば「砂色」で、それぞれ敵の目を誤魔化すために開発されたものだった。
ただ、電子機器が発達すると共に、それはデジタルドットパターンと呼ばれるモニターのドットに合わせた幾何学模様に進化したため、このようにドット柄ではない迷彩服が軍服に採用されていた時代は限られる。
そして、その迷彩柄は、「赤」を基調としていたのである。
それは、歴史が覆る事実、1900年代後期に「20世紀の火星軍」が存在した事を意味していた。
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