彼の瞳と決別と(KAC20244参加 )
うり北 うりこ
第1話
隣に寝そべる半裸の男を見る。
いつからだろう。隣にいても、視線が合わなくなったのは。
いや、最初からだったかもしれない。
どんなに体を重ねたところで、こいつが好きなのは私じゃないから。
「タク、今日も泊まっていくの?」
「んー」
イエスともノーとも言えない返答。
スマホゲームから視線を一切離すことはない。
私の方を向いているのは、欲望を吐き出す時だけだ。
「今度の連休にお姉ちゃん、帰ってくるって」
「マジ!?」
久々に交わったタクの瞳に私が映る。
情けない、今にも泣き出しそうな顔。
そんな私のことなどお構い無しに、タクはお姉ちゃんの話をする。
「実家、帰るよな? 俺も行くから」
そう言って、再び視線はスマホに固定された。
本当はお姉ちゃんが帰ってくることを言う気はなかった。その時だけは、私の方を見るのだとしても。
「私、帰らないよ」
イヤホンまで付けてしまったタクに、私の言葉は届かない。
「何で私じゃダメなの?」
告白をしたことはない。すれば、タクの隣にいられなくなるから。
都合の良い女で良かった。二番目でも良かった。
嘘。タクがお姉ちゃんに告白して振られるのを待っていた。一番近くにいれば、いつか私を好きになってくれるんじゃないかって期待していた。
「タクが好きなの」
返事はない。
そりゃそうだ。聞こえてすらいないのだから。
タクの左耳のイヤホンを取れば、眉間にシワを寄せられる。
「何だよ」
「私、帰らないよ。一人で行って」
「はぁ? 俺だけじゃ会いに行く理由がないだろ」
「自分の恋に私を巻き込まないで」
見開いた目が私の姿を捕らえた。
今更だ。タクの目に映れたとして、もう今更なのだ。
「告白されたの。タクと違って誠実な人」
嘘をついた。
引き止めて欲しい、解放されたい。二つの感情が混ざり合う。
「タクとは、もう会わない」
こんなことでタクは傷つかないだろう。
それでも、ほんの少し……ささくれ程度でいい。傷つけたかった。
タクの心に私を刻み付けたかった。
彼の瞳と決別と(KAC20244参加 ) うり北 うりこ @u-Riko
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