20年目の謝罪
神在月ユウ
お弁当
「うわ、変な弁当」
私のお弁当を見て、クラスメイトの男子が
お世辞にもおいしそうとは言えない、茶色と白のお弁当だ。
茶色と黒が多めのスクランブルエッグ(卵焼きのつもり)。
硬くパサパサになった唐揚げ(多分揚げ過ぎ)。
カチカチに固まった白いご飯(余熱を冷まそうとして放置し過ぎた)。
偏った具材に潰され、汁が垂れているミニトマト。
「まずそ~」
別の男子がニヤニヤ笑いながら指差し
確かに、ひどい見た目だ。
遠足の日に、こんなお弁当なんて。
私に父はいない。
物心ついた頃には、既にいなくなっていた。
母は、一日中働いている。
ご飯だけ炊いて、後のおかずは安くなったスーパーの総菜だ。
それを、普段からわざわざお皿に盛りつけて二人で食べている。
私は母の料理をよく知らない。もしかしたら、手作りを食べたことすらなかったかもしれない。
そんな生活が当たり前だから、今日の遠足のお弁当も、当然冷凍食品の詰め合わせだと思っていたのに、蓋を開けてみると、この有様だった。
その日、私は唇を噛んで、泣きそうになるのを耐えた。
仲のいい女子グループからおかずを分けてもらいながら、そのお弁当を食べた。
いや、実は違う。
ほとんど口にせず、公園のゴミ箱に捨ててしまった。
黄色と白の織り交ざった甘い卵焼きが、羨ましかった。
柔らかくて下味が利いている唐揚げが、羨ましかった。
かわいい俵型のおむすびが、羨ましかった。
その日、家に帰ってから母と顔を合わせると、申し訳なさそうな顔をされた。
「ごめんね、変なお弁当で」
顔の前で手を合わせて謝罪する母に対して、恥をかいたと思った私はあろうことか激高した。
「ほんとだよ!笑われたよ!」
水仕事に荒れた、手指のささくれとあかぎれなど、当時は気づきもしなかった。
そんな私の暴言に、母は再度「ごめんね」と謝罪した。
「ごめんね、お母さん」
昔のことを思い出しながら、私は母の墓前で、ささくれ立った手を合わせた。
20年目の謝罪 神在月ユウ @Atlas36
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