凍えて、干からびて、燃ゆる

百日紅

カチャ。……バンッ!

“ささくれ”は、寒くて乾燥する時期になりやすい。




 高校に入学したてのころ、わたしは元気で自信に満ち溢れた女の子だったと思う。「きゃははは!」「まじウケるんですけどー!」と五月蝿い声を聞き流しながら、ぼんやりとそんなことを考える。


 しかしながら今はどうだろうか。

 教室ではカーストを気にして目立たぬように過ごす毎日。入学したての頃にあった笑顔は消えて、最後に学校で笑ったのはいつだったか思い出せないほど、もうしばらく笑っていない。


 それもすべて、原因は分かりきっている。


 わたしはいじめられていた。そう、過去形だ。

 入学して早々にクラスのギャルみたいな奇抜な連中に「お前調子に乗ってるだろ」と目をつけられ、理不尽にもいじめを受けた。

 暴力こそ無かったものの、どれも精神的にクる内容のものばかりで、いじめられた最初の頃はよく家に帰って泣いたものだ。


 クラスメートたちは見てるだけで止めてくれない。

 家族には言えない。

 当時のわたしは他者からの温もりに飢え、心は冷めて凍えきっていた。次第に涙も枯れて心はすさんで干からびていく。


 それが今のわたしだ。

 わたしの心には“ささくれ”ができた。ピリピリと痛んで、なかなか治らない。


「や、やめてよ!」


 わたしをいじめていた女子たちが一人の女の子を囲っていじめている。

 しかも髪を強引につかんで。わたしがされなかった暴力まで彼女はされていた。


(やめて。こっちを見ないでよ。そんな裏切られたみたいな目でわたしを見ないで)


 わたしがいじめられなくなったのは簡単な話だ。

 いじめっ子たちにとっての対象が別の子に移ったから。ただそれだけ。

 そしてその今現在いじめられている女の子は、わたしを庇ってくれた女の子。「大丈夫?」と声をかけてくれた女の子。ただ、、それだけ。


 わたしにはどうすることも出来ないよ。


 そうやって目の前の光景から目を背けようとして………。


 ふと思う。


 わたしを助けてくれた女の子は、どんな気持ちでわたしを庇ったのだろうか。もしや、今のわたしと同じだったのでは?


 そう思うとささくれのできた心がガチャガチャと変形していく。


 そうして心は一つのライフルになった。

 わたしを助けてくれた女の子の、今にも刃が折れそうな心のナイフも見えた気がした。それを感じたとき、わたしは席を立たずにはいられなかった。


「あ?なに?なんかよう?またいじめられに来たわけ??」


 今度はわたしがわたしを助けてくれた女の子を背に庇う。

 そしてわたしは目の前のヘラヘラと笑っている女子をまっすぐ見据えて。


 ライフルを構えた。


「てめぇら、いつまでもくだらないことしてんじゃねーよ!」


 カチャ。


 バンッ!!



 わたしの心のささくれは燃える。

 理不尽や不条理に立ち向かうための反抗心を燃やすことが、唯一の心の“ささくれ”の治し方だと、今学んだ。

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凍えて、干からびて、燃ゆる 百日紅 @yurigamine33ki

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