ささくれ【KAC20244応募作品】
K.night
第1話 ささくれ
私には推しているアイドルがいる。SUKUPERというグループ。そのメンバーの一人、佐々木昌磨、通称、しょー君だ。
最初、友達に連れられて行ったライブで私は彼と目が合った。その瞬間に、ニコッと笑ってくれたのだ。間違いなく私宛の笑顔だった。私は一瞬で落ちた。
ショー君はバックで踊ることが多いけれど、絶対手抜きしたりしない。遠くからでもファンを一人一人みて全員にファンサしてくれる。そりゃ、まだそんなに売れてなくて人もそんな多くないから全員にファンサできるのかもしれないけれど、彼はアイドルとしてすごく頑張っている素敵な人なのだ。
その、推しの、しょー君がどうしてこんな町の豆腐屋にいるの!広くもない店内の片隅で、私は小さくなっている。どうしようと手が遊ぶと、ささくれが引っかかって痛かった。彼の握手会の時は、前々から手の手入れをちゃんとして、一番お気に入りのハンドクリームをちゃんと塗るのに。
「いつも応援してます!」の一言いうだけなら許される。だって前にライブで言っていた。まだ街で声をかけられたことがなくて寂しいと。推しの夢を今、私が叶えられる!
なのにどうして、こんな近くの買い物だからって、よれよれのズボンとTシャツ、無造作に束ねただけの髪の時に会ってしまうのか。
私は、推しと付き合いたいとか、結婚したいとか、そういうの一切思っていない純粋にただのファンだ。別にこの格好でもいいじゃないか。
勇気を振り絞って、しょー君を見た。彼は恐らくオフだというのに、きっちりアイロンがかかったシャツを着て、かっこいいズボン、ブランド物の肩掛けバックをつけて、彼はちゃんとアイドルだった。
彼は豆腐と二丁買った。差し出したその手は、いつも通り綺麗だった。
「ありがとうございます。」
そうきちんと言える、私の推しに少し歓喜する。
豆腐屋を出ようとする彼に今なら声をかけられる!そう思った瞬間、恐らく彼が点けている香水がふわりと香った。
自分と違いすぎる。
彼は私に気づかず、豆腐屋を出た。私は結局、手のささくれが気になって、豆腐屋の隅で小さくなっていた。
ささくれ【KAC20244応募作品】 K.night @hayashi-satoru
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